第8話:私だって、毎月アレが来るわ
それから数十分車を飛ばして辿り着いたのは、古びた教会だった。どうやら追っ手も撒いたらしく。アリスは安堵の表情を浮かべる。
「こっちだ。ついて来い」
アリスは黙って佐久間の後を追う。佐久間はどんどんと先を行き、ついに教会の扉を開けた。
教会の入り口から真正面に大きなステンドグラスが連なっている。原色で彩られた神々に何となく気が引けたアリスは、佐久間に詰め寄る。
「こんな所に来てどうするつもりよ。アジトに行くんじゃなかったの?」
「ここがアジトですよ。正確に言うと下ですが」
黙る佐久間の変わりに答えたのは、栗色の髪をした神父だった。いつの間にか現れた神父は床を指差すと、上品に微笑んだ。
神父の顔をまじまじと見つめたアリス。佐久間の色気とはまた違った魅力があるとアリスは感じた。端正な顔立ちに丁寧な話し方、どれも佐久間とは対照的だ。佐久間が30代だとすると、そのちょっと下の20代後半ぐらいだろうか。どっちにしてもアリスより年上には違いない。
「初めまして、私はネスティと申します」
ネスティはアリスの手を取ると、口元に寄せ小さくキスをした。
「あ、あたしはアリスです。初めまして……」
ネスティのあまりに自然な仕草に、アリスは抵抗することを忘れてしまったかのようにただネスティを見つめた。
「胸くそわりぃ」
佐久間は、頬を染めるアリスを一瞥すると、愛用のペルマルに火をつけた。
「佐久間、ここは禁煙ですよ」
紫煙を噴かす佐久間を、ネスティは笑顔で制する。
「わーったよ。地下で吸やあいいんだろ」
佐久間は猫のように背中を丸めて、教会の奥に進んでいく。
「全く、いい加減煙草も止めてくれるといいんですが。さぁ、アリス、あなたもこちらへ」
「あっ、はい」
ネスティの囁くような言葉遣いに、アリスも自然と敬語になってしまう。死神の佐久間と呼ばれたあの男と一緒にいるぐらいなのだから、このネスティも只者では無いだろう。アリスは少し警戒しながら二人の後を追った。
二人の後を付いて行き辿り着いたのは、何の変哲も無い教会の一室だった。本当に何もない。たった一つあるものと言えば、古びたパイプオルガンだけだ。
「ここがアジト?」
「いえ、下ですよ、下」
ネスティはそう言うと、床をスライドさせる。なるほど、スライドした場所から出てきたのは地下へ続く通路だ。
佐久間は何も言わずにどんどん階段を降りていく。
「ちょっと待ってよ、佐久間……あっ」
アリスは階段を降りようとして、運悪く足を踏み外した。いつものアリスなら跳躍力を活かして華麗に着地する所だが、足に深手を追っている今、まるでなす術が無い。アリスは思わず目を閉じた。
「よっぽど俺の事が好きらしいなぁ」
佐久間は、覆いかぶさるように落ちてきたアリスを抱きかかえ不敵に笑った。
「ちょっと何処触ってんのよ! 離して」
「助けてもらって礼も言えねぇのか、くそガキが」
「助けてくれてドウモアリガトウ! それと私はガキじゃないわよ!」
「どう見たってガキだろうが」
アリスは自分が大人の女性と言う証拠を見つけようとしてみたが、早々に見つかるものではなかった。自分で言うのも悲しいが、色気も何もあったもんじゃない。
「私だって、毎月アレが来るわ」
困った末に出たアリスの返答に、佐久間の顔が一瞬にして青ざめる。そうかと思うと、諦めのようなため息を深く吐いた。
「おめぇは恥じらいってもんがねぇのか!」
「何よその言い方」
「まぁまぁ、こんな所で話もなんですから、お二人とも早く中に入って」
そう言って爽やかに笑うネスティ。その端正な顔立ちから放たれる笑顔を見たら、許さずにはいられない自分は、意外とミーハーなんだと感じた。
ネスティに諭され、二人は渋々と地下の部屋の扉を開けた。
アレが分からなかったらごめんなさい(笑)相当な自己満足だけの文章ですが、アドバイスいただけると幸いです。