第6話:変態、ロリコン、ヒゲ面!
「ちょっと待って。まさか、ここを通れって言うんじゃないでしょうね?」
アリスはいきり立つ男たちを、ガラスも粉々になった窓から覗いて言った。
「文句言うんじゃねぇ。行くぞ、アリス。っくそ、俺の大事な帽子が汚れちまった」
佐久間はそう言うと、黒のホンブルグハットを大事そうに深く引き寄せた。
「か、勝手にあたしの名前呼び捨てにしないで!」
名前を呼ばれたことに動揺し、顔を少し赤らめたアリスは、それを気付かれないよう声を荒げた。
「なんでもいいから早く来い」
佐久間がアリスを覗き込むと、アリスは何かを隠すように俯いた。
「なにやってんだ。……っておめぇ、血が出てんじゃねぇか」
佐久間はアリスのしゃがみ込んでいる床に広がる赤い血を見て、顔をしかめた。
「こんなの大したこと無いわよ」
「はっ、ざまぁねぇな」
「うるさいわね、佐久間には関係ないでしょ」
佐久間は相変わらず吠え続けるサルに落胆すると、勢いよく抱き上げる。
「ちょっ離して! 何すんのよ! こんのえろじじい〜!」
「うっせぇ、サル。犯すぞ!」
「変態、ロリコン、ヒゲ面!」
「あのなぁ、ここにいて蜂の巣になるよりはいいだろうが」
アリスはもっともな佐久間の意見に、言葉を詰まらせた。さっきから黙っていたがアリスの足の怪我の具合が良くないのも確かだった。足が動かない今、悔しいが佐久間に頼るしかないのだ。
佐久間はアリスを背負うように体勢を変えると、ゆっくりと拳銃を構えた。
「まさか赤ん坊を負ぶって、銃をぶっ放すとは夢にも思わねぇな」
「別に置いて行って構わないわよ。一人でも出れるんだから……」
アリスは突き刺さるような足の痛みを懸命に堪えて言った。
「よく鳴くガキだ! 行くぞ!」
それからはあっという間の出来事だった。勢いよく家を飛び出した佐久間は、目にも止まらぬ早撃ちで次々と敵を倒していった。佐久間の大きい背中越しに見える銃撃戦は、妙な安心感すら感じる。それだけ佐久間の腕が良いのだ。
10人程の男たちが次々と倒れていく。佐久間は仕上げとばかりに手榴弾を投げつけ、庭の隅にとめておいたメルセデス・ベンツSSKに向かって走った。
「おめぇは後ろで大人しくしてろ」
「ちょっ、……きゃあ!」
佐久間はアリスをSSKの後方座席に乱暴に押し込み、さっさとエンジンをかけた。
「もっと丁寧に扱えないわけ!?」
「黙ってろ! 舌噛んで死にたくなきゃぁな」
アリスは一瞬うっと表情を曇らせ、口を硬く結んだ。佐久間はそんなアリスの表情ちらりとみて確認すると、思い切りアクセルを踏んだ。