最終話:「 」
バラバラと大きな音を立てヘリの回転翼が回る。夜空の星たちは相変わらず輝いていて、先程の冷たさはもう感じなかった。これも佐久間達のいるお陰なのだろうか。
「結局、ブルーダイヤ盗めなかったわね、ごめん」
アリスは三人を見渡すと、小さく呟いた。もともと佐久間達と一緒に行動し始めたのも、ブルーダイヤを盗むと言う契約をしたからだ。BBとの決着を付けたアリスは兎も角として、佐久間達の本来の目的は果たされていないはずだ。
「俺を誰だと思ってやがる」
「佐久間ちゃんはしつこいからねぇ」
「どういうこと……?」
不審な顔つきのアリスを一瞥すると、佐久間は何も言わずに足元から黒いバッグを取り出した。
「何? 暗くて良く見えな……」
アリスがバッグを覗き込むと、そこには美しく輝く幻のブルーダイヤが身を潜めていた。
「ちょっ! これ!」
「狙った物は必ず奪う」
佐久間は驚くアリスを満足気に見つめると、何事も無かったかのように煙草に火をつけた。赤い火がブルーダイヤに映りこみ、紫がかった光を放つ。
「あはははは!」
アリスは大きく口を開いて、豪快に笑った。この男には一生勝てない。そう感じていたのかもしれない。
「アリス、これからどうするのですか?」
アリスはネスティの問いには答えずに、息を大きく吸い込んだ。そして、ゆっくりと歌い始める。曲はアヴェマリア。その声はどこまでも轟き、それはまるで星達に届く勢いだった。闇に生きる男たちは、アリスを見て短く笑うと、その声に耳を澄ませた。
曲がゆっくりとフェードアウトしていく。息を整え、アリスは佐久間を見据えた。
「専属の歌姫はいかが? 今なら、可愛い歌姫が一生あなたの為に歌うという特典付よ?」
「お前、俺たちの仕事がどんだけ危険か身をもって知っただろ。安易に考えるな」
佐久間は冷静にアリスを見つめて言い放つ。
「それが何? 私には関係ないもの」
「関係あるだろうが!」
「ないわよ! 私は佐久間が好き。だから佐久間の傍に居たいの? 悪い?」
「あぁ!?……あちっ」
佐久間は口をあんぐりと開けて驚いた表情を浮かべ、案の定、煙草は彼の足へと転げ落ちていった。落ちた煙草を罰の悪そうに拾いあげる佐久間。そんな佐久間をみて、ネスティ達は可笑しそうに笑った。
「流石の佐久間もアリスには勝てないようですね」
「ていうか、アリスちゃん。佐久間じゃなくて俺の為に歌ってよ」
アリスはトーイをちらりと見つめると、舌を出して肩を竦めた。その様子をみて、ネスティ達はまた声をあげて笑った。
「分かった。それだけ言うなら、専属の歌姫として雇ってやる」
佐久間は真剣な顔でそう言うと、新しく煙草に火をつけた。
「ほんと!? 嬉しい! ありがとう佐久間!」
「もちろん真夜中も俺だけの為に歌ってくれるんだろ?」
「ば、ばか!」
少し照れた表情を浮かべるアリスを、佐久間は強引に引き寄せる。そして口元を耳にあてると、アリスにしか聞こえない小さな声で囁いた。
「 」
タコのように真っ赤になったアリスを不思議そうに見つめるネスティ達。佐久間は相変わらず余裕の表情で紫煙をふかしている。
「何て言ったの!? すげぇ気になるんですけど!」
「アリス、大丈夫ですか?」
アリスは放心状態でその場に座りこんでいる。どうやら今の所、佐久間の方が一枚上手らしい。
佐久間はそんなアリスを満足気に見つめ、声をあげて笑った。
夜の冷たい空気を引き裂き、回転翼は回り続ける。行きつく先は誰も知らない。一人の歌姫を巡る物語はまだ始まったばかりなのだから。
今まで呼んで下さった皆様、そして評価をして下さった方、本当にありがとうございました。書きたいことが纏まらず相変わらず稚拙な文章ですが、最後まで書けたことを嬉しく思っています。それでは、また。