第27話:おめぇは黙ってろ!
「皆ありがとう」
アリスは涙を両手で拭き取ると、子供のように目を細めた。ネスティもトーイもそれにつられる様にして笑顔になる。
しかしその笑顔も次の瞬間には、真剣な顔つきになっていた。アリスがそんなネスティ達に何かを言いかけたその時……
「伏せろ!」
佐久間の声と、鼓膜が破れるほどの銃声が辺りに響き渡る。アリスは勢いよく腕を掴まれ、佐久間の胸へと引き寄せられた。虹色に輝く宝石達を乗せた棚の隙間から、ルドルフの部下がこちらに向かって銃口を向けているのが見える。
「厄介な奴らのお出ましだ」
佐久間はルドルフを見てそう言うと、素早く銃口に弾を詰めた。
「本物が現れちゃあしょうがねぇってな」
トーイは余裕の表情でそう言うと、首からめりめりと人工皮膚を剥がしとった。何度見てもその光景は異質なものであり、慣れることはない。
「アリス、俺から離れるんじゃねぇぞ」
「分かってるわよ!」
アリスは狙いを定める佐久間の横顔を見て、慌てて護身銃を探った。辺りには静か過ぎるほどの沈黙が流れる。
「これ以上無駄な死人を出すのは止めませんか」
沈黙を破ったのは他でもなくルドルフ自身だった。
「私欲の限りを尽くしてきたアンタがよく言ったもんだ」
佐久間はゆっくりと立ち上がるとルドルフの目の前に躍り出た。
「死神の佐久間。まさかこんな所で貴方に会えるとは……。しかし、私ももう歳です。引退を考えてるんですよ。何ならここにある全ての宝を貴方たちに譲りましょう」
アリスはルドルフの言葉に耳を疑った。一体ルドルフは何を考えていると言うのだ。アリスの心に不安がよぎる。
「随分と紳士な対応だなぁ。悪魔と恐れられたアンタが」
「条件があります。マリア……いえ、アリスでしたね。アリスを私に受け渡してもらいます」
ルドルフの声はとても落ち着いていた。その風貌は紳士以外の何者でもなく、アリスは困惑をする。
「ちょっと待って、人を物みたいに言わないで! 大体、何よそれ! 随分と勝手な事言ってくれるじゃない!アンタみたいな……むぐっ」
「おめぇは黙ってろ!」
銃を向けられているにも関わらず、づかづかと前を行くアリスを佐久間は強く引き寄せ、口元を抑えた。アリスは佐久間の腕の中にすっぽりと納まり、すっかり身動きがとれなくなっていた。
「まさかルドルフ、おめぇにロリコンの趣味があったとはなぁ」
アリスはこんな時でさえ、サディスティックな事をのうのうと言いのける佐久間を、佐久間の腕の中からぎろりと睨んだ。
「無駄話もほどほどにしましょう。悪い話ではないでしょう、死神の佐久間」
「もしアリスを受け渡すのを断ったら……」
「その時は残念ですが、皆様には死んでもらいましょう」
ルドルフの猟奇的な笑顔にアリスは、背筋の凍る思いがした。