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DIVA  作者: unicorn
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第26話:お手付きあり?

 それから5分ほど回廊を歩いた所に、2メートルを超える巨大な金庫が現れた。仰々しいセキュリティシステムは、アリス達の期待をますます膨らませる。


「でけぇなぁこりゃあ、トーイちゃんも吃驚!」


「BBやルドルフが私欲の限りを尽くして得た財宝が眠ってんだ、当り前だ」


「アリス、セキュリティカードを」


 ネスティはアリスからにカードを受け取ると、インターホンのような形のセンサーにカードを差し込む。すると、赤のランプから緑のランプへと変わり、GOサインが表示された。


「ビンゴ!」


 巨大な扉が音を立ててゆっくりと開いていく。そこには中世のヨーロッパを思い出させるような、綺麗な装飾のされた柱が連なっており、先ほどと同じような巨大な扉が存在している。


「アリス、おめぇの出番だ」


「OK」


 佐久間はクリスタルで出来ているらしい台の上の小さなキーボードを顎で指し示す。アリスは敗れたドレスを捲くり上げ、キーボードの前に立った。


「お手付きあり?」


「なしです。一度でも失敗すると警報がなる仕組みですから」


 悪ぶる様子もなくさらりと言いのけたネスティの言葉に、アリスは思わず息を飲んだ。


 アリスと佐久間が出会ったあの日。アリスがICチップを壊して、強引に佐久間達を巻き込んだのも何だか遠い事のように感じられる。今、ここに佐久間達とこうしている事が、アリスは奇跡のように思えた。本当に皆と出会えて良かった、心からそう思った。


 アリスは、思い出を紐解くかのように頭の中にパスワードを描き、徐にキーを叩き始めた。佐久間達は真剣にアリスの手元を見つめる。


「認識完了。扉を開きます」


 独特の機械の音声が当りに響く。


「開いた!」


「上出来だ」


 佐久間は低く呟くと、アリスの金色の髪をくしゃくしゃと撫でた。その子供のような佐久間の笑顔は、アリスに眩暈すら感じさせる。




「な……んだ……これ」




 トーイは目の前に連なる宝石の数々に思わず言葉を失った。扉の向こうには溢れんばかりの宝石、装飾が所狭しと並んでいる。


「凄い!」


「この中からホープダイヤを見つけること自体が大変そうですねぇ」


 ネスティの言葉にアリスは笑いながら頷いた。


「しかし、思った以上だな……」


 佐久間は数ある宝石の中から、エメラルドのはめ込まれたネックレスを取り出した。そのネックレスは、小粒ながら存在感のあるエメラルドが、銀色の縁に行儀よくのっている。とても上品なネックレスだった。


「……! ちょっとそれ見せて!」


 アリスは佐久間の手から受け取ると、ネックレスを入念に見つめる。


「どうした」


「これ……母のだわ。そうよ……母がいつもしていたネックレス」


 アリスはそう呟くと、急に黙り込む。


「アリス……」


 アリスは、ネスティの声に一瞬肩を揺らし、咄嗟に顔を上げる。アリスの顔には落胆にも似た表情が広がっていた。


「あっごめんごめん。まさかこんな所にあるなんてね! ほんっとにBBってやな奴だったわ」


 アリスはネックレスを握り締めると、いつものように気丈に振舞った。佐久間はそんなアリスを見て、ため息を付く。

 アリスは佐久間のため息が、自分を弱い人間だと言っているようで怖かった。妙な焦りがアリスを攻め立てる。独りで生きてきたアリスには甘える術も甘えられる環境もなかったのだから……




「餓鬼が我慢してんじゃねぇよ」




 佐久間の言葉に驚いたアリスはゆっくりと顔を上げた。


「アリス、もう貴方を縛るものは何もないのですよ」


 ネスティはそう呟くとアリスの頬にそっと触れた。


「そうそう。なんたって俺たちが付いてるんだから」


 トーイはそう言ってアリスに向かってウィンクをする。ルドルフの変装をしたまま言うトーイ。アリスはその違和感に顔を緩めた。


 佐久間は、アリスの手にしっかりと握られていたネックレスとするりと奪うと、アリスの後ろに回りこんだ。佐久間の長くて男っぽいごつごつした骨ばった指が、アリスの首元にネックレスをかける。アリスは佐久間の吐息にどぎまぎしながら、胸元でキラキラと輝くエメラルドを見つめた。



「似合うぜ」



 口角を上げ、妖しいまでの笑みを浮かべた佐久間。佐久間の顔を見上げると、アリスの頬に自然と涙が零れた。


 両親を殺され、BBを憎む事で生きてきたアリス。そんなたった独りだったアリスに出来たかけがえのない仲間。BBに会い、そして復讐を果たした。今までの思い出が怒涛のように蘇ってくる。

 アリスは過去の渇ききった傷跡を潤すように涙を流し続けた。


「やっぱりおめぇのその泣き顔は最高だよ」


「サド! エロ! オヤジ! ヒゲヅラ!」


 流れ出る涙もそのままに悪態をつくアリスを、佐久間は大声で笑った。こんなにも思ってくれている仲間たちがいる。アリスは頬を流れる涙さえも温かく感じていた。







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