第24話:佐久間、撃って
「勝手に行動しておいて、自分だけお楽しみとは良いご身分だなぁ、アリス」
佐久間はそう言って、アリスを見るとにやりと笑った。顔は笑っているがよほど怒っているのか、声は全く笑っていない。
「悪かったわよ」
「やけにしおらしいじゃねぇか」
佐久間はBBを見据えたままそう言うと、静かにトリガーを引いた。
「おいおい物騒なもんはしまいな。この女に傷をつけたくないだろ?」
BBは先程アリスから奪い取ったナイフをゆっくりとアリスに突きつけた。睨めっこでもしているように、佐久間もBBも一歩も譲らず動こうとしない。
「早く銃を降ろしな」
BBはこの状況を楽しんでいる。明らかにそう言う顔で、ナイフをアリスの喉元に突きつけた。アリスは自分の不甲斐なさに、唇を噛む。
「佐久間、撃って」
「あぁ?」
佐久間は意味が分からないとでも言いたげにアリスの顔を睨み付けた。
「私の事はいいから、撃って」
「アリス、そう言う考え方は頂けませんねぇ」
「そうだな、アリスちゃんはやっぱり強気じゃないと」
突然、趣味の悪い机の影から現れたネスティとトーイは、BBに向けて銃を向けた。
「ネスティ! トーイ!」
「さぁどうするBB。3対1だ。勝ち目がないのは分かってんだろう?」
「3対1? 可笑しな事を言う奴だ」
BBは佐久間を見据えると、口角を上げた。その笑みには妖しさが含まれている。
「3対20ぐらいが妥当だろう?」
BBの言葉を理解するかしないかの一瞬。天井から銃を所持したスナイパーが一斉に降りてきていた。その数はざっと20を超える。
「マ、マジ!?」
トーイは先程までのばっちり決めた顔から急に間抜けな顔をみせた。それはアリスを含めた全員同じ気持ちだったらしい。
「くそっ!」
佐久間は狙いを定めるとBBのナイフを持つ手を撃ち抜いた。弾は見事にナイフを貫き、反動でBBの手からするりと抜けていった。BBはうめき声を上げ、その場にうな垂れる。それもそのはずだ。当たっていないとは言え、手の骨の一本や二本余裕で折れているだろう。
「アリス、私から逃げられると思うな」
佐久間達の所へ向かおうとするアリスを、BBは片方の手で精一杯引き寄せていた。その目は、アリスを母を犯した時のあの目のまま。
「確かに私は憎しみだけで生きてきた。でももう終わり」
アリスは床に落ちたナイフを拾うとBBの心臓目掛け、力いっぱい突上げた。BBは顔を顰め、ゆっくりとソファに落ちていく。
アリスは広がっていく血を見て、涙を流した。やっとBBから……いや、BBへの憎しみから開放される。これで両親がうかばれるかと言ったら嘘になるかもしれない。だが、これがアリスなりの決着の仕方だった。
「アリス! 来い!」
佐久間の声に促され、アリスは力一杯走った。信頼する仲間の所へ、そして誰よりも愛する男の所へ。佐久間はアリスの手を引き、強引に引き寄せた。
「その泣き顔そそるじゃねぇか」
「馬鹿!」
アリスは佐久間を見上げた。ピンチに追いやられていると言うのに、佐久間の顔はいつもと変わず、とても冷静だ。誰よりも憎たらしくて誰よりも愛しい。
憎しみだけを心の糧に生きてきたアリスだが、どうやらそれも終わりを向かえる。この男には一生勝てないだろう。アリスは流れ出る涙を乱暴にドレスの裾で拭き取ると、銃を構えるスナイパー達を睨み付けた。