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DIVA  作者: unicorn
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第21話:はっ、相変わらず嫌な女だ

「アイツ、今にも殺しちまいそうな目をしてるな」


 警備員の格好をした佐久間は、目のチカチカするようなモニタを見て言った。つい何分か前までここ場所にいた本物の警備員は、警備室のトイレでお寝んねをしている。強力な睡眠薬だ。丸一日起きる事は無いだろう。


「ホントに佐久間ちゃんが女の心配するなんて珍しいよね〜」


 トーイは佐久間を覗き込むと、可笑しそうに言った。


「黙ってろ」


 佐久間は煙草を吸いたくなったのか、胸元のポケットから愛用のペルマルを取り出した。


 アリスの任された仕事は、国際ダイヤモンド機構のナンバー2のBBを色香で釣り、セキュリティカードを盗むこと。アリスがセキュリティカードを盗んだら、4人は落合うことになっていた。

 もともとBBの女好きは有名な話だ。佐久間が止めるのも聞かず、アリスは自分でカードを盗む事を志願した。今回の仕事が上手くいくも、失敗するも、全てアリスに掛かっている。 


「アリスちゃんを信じなさい!」


 佐久間はトーイの勝ち誇った顔をウンザリと言った顔で睨み付けた。


「ほ〜ら、アリスちゃんが動き出した」


 厳重に張り巡っている防犯カメラをトーイは器用に切り替える。無機質な音を立て動いているモニタは、アリスの姿を徐に映し出す。


 アリスは身に着けた事もないような、高級なドレスを身に纏っていた。更には滅多にしない化粧までばっちりとされている。トーイのテクニックは兎も角、早くセキュリティカードを奪わなくてはならない。


 胸元の大きく開いた春色のパステルピンクのドレスを翻し、アリスが歩いていくと、男たちが一斉に振りかえる。



「おいおい……こりゃあ思ったよりも上玉だ」


 モニタを通してアリスを見つめるトーイ。


「佐久間もアリスちゃんに惚れなおしたんじゃない……っていないし」


 隣に居るはずの佐久間が居ない事に気付いたトーイは、モニタを見て口角を上げた。


「やっぱり、今回は尋常じゃなくマジみたいだねぇ」


 モニタを通して見たものは、いつの間にか着替えて招待客に紛れ込む佐久間の姿だった。



******




「ひどい歌だな」


「あぁ、とても聞いていられない」


 アリスの隣にいた男たちはホールで歌っている歌手に悪態をついた。確かに、ステージで歌っている歌手は、自分の世界にどっぷりと漬かっていて、とても感情移入できる品物ではなかった。演奏は悪くない、だがどうにも歌い手が良いとは言えないのだ。


 アリスは生演奏を行っているホールへと向かった。 二流の歌手が歌い終えた後、アリスはその歌手からそっとマイクを受け取り、ステージに立つ。


「BB様、お久しぶりです」


 国際ダイヤモンド機構ナンバー2、BB。アリスは妖艶な笑みを称えながら、各界の著名人と話すBBに話しかける。BBは見慣れない顔のアリスを見て、顔を顰めた。


 忘れもしない。あのアリスの母を犯し、そして殺した時の目。野獣のように貪欲で、そして悪魔のように卑劣なあの目。どんなに良い格好をしたとしても、その穢れた心は隠せはしない。 

 アリスは、呑気なBBの顔を見て、今すぐにでも太ももに隠したナイフを投げつけたい衝動に駆られた。


「誰だね、君は」


「あら、嫌だわ。BB様、私をお忘れ? カジノで会った夜、あんなに熱い時間を過ごしたと言うのに」


 アリスがおどけた様にそう言うと、会場からは笑いと拍手がもれる。アリスは震える手をぐっと堪え、BBを見据えた。




「BB、歌ってもらってはどうだ」




 何処からともなく聞こえた低く威圧感のある声。アリスは一瞬、背筋が凍るような錯覚に陥った。

 声の主を慌てて探すアリス。そこには中世的な見た目を持つ、男が立っていた。銀色の髪に、銀色の瞳、手にはグラスを持っている。若く見えるが、実際には幾つなのかアリスには検討がつかなかった。


「こんなに綺麗なお嬢さんだ、さぞかし歌声も綺麗な事でしょう」


 男はアリスの目を真っ直ぐに捉えた。途端に、アリスの身体に電撃のような衝撃が走る。

 

「アリス、アリス……」


 耳元から聞こえる佐久間の声。アリスは会場の隅からこちらを見ている佐久間を捉えた。佐久間は落ち着いた口調でアリスに問いかける。


「その銀色の髪の野郎がナンバー1、ルドルフだ」


 この男が、何百いや何千もの部下を従え、組織を纏め上げているナンバー1、ルドルフ。アリスは男のオーラに圧されたかのように、少し身じろいだ。


「帰るかい、お嬢ちゃん」


 佐久間はそんなアリスをからかうように言った。アリスは佐久間を遠目で睨み付けると、無線のマイクに向かって小さく悪態をついた。


「嫌よ、おじ様」


「はっ、相変わらず嫌な女だ」


 佐久間の心地よい低音の声がアリスの耳を駆け抜けていく。佐久間のサディスティックな言葉も何だか今は心地よい。案外自分はマゾなのかもしれない、そう考えたら緊張もどこかへ行ったらしい。

 佐久間の言葉に頷くように、アリスはそっと目を伏せた。



「100周年おめでとうございます。今日は皆様の為に心を込めて歌いますわ」



 アリスは演奏者に合図をして、歌い始めた。もはや会場の誰もが彼女の行動に釘付けになっていた。



評価して下さった方、応援メールを下さった方、そしてDIVAを呼んで下さる皆様、いつも本当にありがとうございます。書きたい事が多すぎて上手く纏まらないunicornですが、これからも精進致します。もう少しお付き合い頂ければ幸いです。

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