第19話:ったく。つくづく餓鬼だな、おめぇは
「……ろ!」
「起き……!」
「起きろ!佐久間、コラ!」
佐久間はドアを乱暴に叩く音を聞き、やっと目を覚ました。ダルそうに起き上がり、ドアを開ける。
「遅いんだよ、佐久間っち! てか、アリスちゃんも反応無しだし……って、アリスちゃんなんでここに」
佐久間を押しのけ、部屋に入ってきたトーイは、すやすやと寝息をたてるアリスを見て青ざめた。
「朝からうるせぇな、おめぇは」
「はっ!? どういうこと!? まさか、佐久間ちゃん、ヤッちゃったん……」
「おめぇの頭ン中はそんなことしかねぇのか、あぁ?」
「じゃあヤってないって事?」
トーイは興味深深と言った感じで目を輝かせた。佐久間はそんなトーイを見て、大きなため息をついた。
「当りめぇだ」
「ん……、佐久間おはよう。あれ、トーイもいる。おはよう」
アリスはむくりとベットから起き上がった。
「よく眠れた? アリスちゃん」
トーイは黙っていれば男前の顔で、アリスに詰め寄る。その顔にはどこか意味有り気な様子が漂っていた。
「お陰さまで。なんか……喉渇いちゃった」
背伸びをしたアリスは、均等のとれた身体を弓のように撓らせた。そして、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと、一口、流し込む。
昨日はとんだ醜態を晒してしまった、とアリスは思った。
渇ききった身体に水分が補給されていく。アリスは昨夜の佐久間の力強い鼓動を思い出し、目を閉じた。佐久間の鼓動を聞いているだけで、強い生命の息吹を感じ、包まれるような安心感を得ていた。アリスの心の中で確実に佐久間の存在が大きくなっていく。アリスはそれを嬉しくも思い、また怖くもあるのだった。
「へぇ、つまり佐久間ちゃんは美味しいご馳走が目の前にありながら、“待て”の指示を出されたワンちゃんだったって訳だ」
にやりと笑みを浮かべるトーイ。佐久間はその問いには答えず、ベットの脇のテーブルに置いた帽子を引き寄せた。深々と被った帽子で目は確認できないが、どうやら図星らしい。
「何の話?」
アリスは短いホットパンツからすらりと伸びた長くて白い脚を組みなおして言った。金色の髪は誘うように揺れ、青みががった黒色の瞳は、清く美しい。端正な顔立ちも、華奢な身体も、今のアリスにとっては、磨かれていないダイヤの原石のようだものだ。
もし、アリスの女の部分が目覚めたとしたら……確実に世の男たちは彼女に跪く事になるだろう。
そんなアリスを見つめながら、トーイは可笑しそうに言った。
「いいのいいの、アリスちゃんは知らなくて」
「ったく。つくづく餓鬼だな、おめぇは」
「何よそれ……」
煮え切らないトーイと佐久間の態度に、アリスは頬を膨らませた。
気付けば今までで、一番長い話となりました。ゴールは遠いですが、見捨てずに読んで頂ければ幸いです。