第15話:てめぇは、よほど死にてぇらしいな
「佐久間、どういうことよ! 説明して」
「こっちが聞きてぇぐらいだ」
混乱するアリスは、ソファから飛び起き佐久間を睨み付ける。
「トーイ、あなた何故ここにいるのですか?」
ネスティの問いに、トーイはゆっくりと口を開いた。
「おめぇらがホープダイヤを狙ってると聞いてね。お手伝いしてやろうってな。やん、佐久間ちゃん、いい加減そんな危ない物はしまってしまって!」
相変わらず銃を構える佐久間に、トーイはおどけるように詰め寄った。佐久間は小さく舌打ちをして、銃を降ろす。
「それにしても本当に可愛いね、アリスちゃん」
「ちょっと、離して!」
トーイはアリスの肩をそっと抱いて近くへ引き寄せる。トーイの大きな瞳を向けられたアリスは、どうしていいか分からず黙り込んだ。
「てめぇは、よほど死にてぇらしいな」
佐久間は、降ろしかけた銃をもう一度構えると、目にも止まらぬ早撃ちでトーイに銃弾を放つ。トーイはその銃弾を避けるようにして、アリスから離れた。
「佐久間ちゃん、何すんの! 死んじゃうでしょうが!」
「当りめぇだ、殺そうとしたんだからな!」
本当に殺そうとしてるようには見えなかったが、佐久間の銃弾を避けるなんて、この男、只者ではない。もちろん、佐久間とそっくりに変装している時点で只者ではないのだけれども。
「怖ぇ怖ぇ。しっかし、佐久間ちゃんが他人に執着するなんて珍しいねぇ」
「おめぇもかよ……」
佐久間は、ネスティに言われた言葉を思い出し益々眉間に皺を刻む。
「え? どったの、佐久間ちゃん?」
「うるせぇ! 大体……おめぇの存在自体が珍しいんだよ。今まで何処に居やがった」
「ん〜、ちょっくら修行の旅に出てたのよ」
佐久間はトーイの言葉に呆れたように銃をおろした。
「なぁにが修行だ。どうせおめぇのことだから女の尻でも追っかけてたんだろうよ」
「当ったリー」
アリスはトーイの何とも軽い態度に、唖然とした。それは佐久間も一緒だったらしく、呆れ顔で帽子を深く被り直し、ソファへと座りこんだ。
軽い男は嫌いだが、なんだか憎め無い人だとアリスは思った。その証拠に、佐久間やネスティも不機嫌な態度は表しているが、本当に警戒しているようには見えない。見た所、トーイは彼らのトラブルメーカー的な雰囲気を漂わせていた。
「佐久間、何にしても変装の名人がお手伝いをして下さるとのことですから、有難く受けましょう」
「ネスちゃん、相変わらず嫌味な男だねぇ」
「お褒めに預かり光栄ですよ」
ネスティは満面の笑みで、トーイを睨み付ける。
「おぉ怖。……って俺、アリスちゃんに自己紹介してなかったね」
トーイは慌てて、手を差し伸べる。アリスは差し伸べられたトーイの手を握った。大きくごつごつと骨ばった手は温かかく、アリスはトーイの笑顔につられて笑った。
「初めまして、トーイでいいよ、アリスちゃん」