第14話:さ、佐久間が二人!?
アリスは戻ってこない二人をソファにうな垂れながら、待っていた。決戦の日を明後日に迎えた今、何をするにしても落ち着かないのだ。
自分の我侭に付き合ってくれている二人には本当に感謝している。しかし、アリスは佐久間の言った言葉が頭の奥にずっと引っ掛かっていた。本当にBBを殺すことができるのだろうか。アリスはそう思い、思いを巡らせる。
BBのこと、佐久間のこと、ぐるぐると考えるうちに、アリスは眠りに落ちていった。
「アリスちゅあん」
あまりにマヌケな声にアリスは飛び起きるようにして、ソファから身を乗り出す。
「さ、佐久間……?」
アリスの目の前には、帽子を深々と被る佐久間の姿。しかし、アリスは違和感に首を傾げる。どこかいつもと違う佐久間。アリスは様子を伺うように、目線を上下させた。
「あれ……ネスティは?」
「あぁ、野暮用があるとかないとかで、どっかいっちまったなぁ」
「そうなんだ……」
「あんな奴のことよりさぁ、やっと二人っきりになれたんたぜ? 楽しまなっきゃなぁ」
佐久間は勢い良くアリスをソファへと押し倒す。疑いは確信へと変わる。
「佐久間、どうしたの? 変よ?」
「俺が変なのは君のせいさ」
アリス目を丸くして佐久間を見つめた。こんな臭い台詞を佐久間が言うとは到底思えない。しかし、こうもしっかりと押さえつけられていれば、何も抵抗など出来なかった。段々と近づく佐久間の顔に、アリスはただ心臓の鼓動を速まらせた。
「いつもの佐久間じゃないわ……」
「今の方が良い男だろ?」
佐久間はそう言うと、アリスにウィンクをした。今、目の前にいる男は、アリスの知る佐久間ではない。アリスは佐久間を疑うような目で見つめた。
「冗談やめて、とりあえず離して」
「ん? 嫌だね。据え膳食わぬは男の恥……そんなわけで、いただきまぁす」
「なっ、何考えて……」
アリスは近づく佐久間の顔に、思わず堅く目を閉じた。
「その前にてめぇを三枚卸しにしてやるよ」
アリスと佐久間の距離が限りなくゼロに近づいた時、アリスの頭に聞き覚えのある声が響いた。
そこで、アリスが見たものは……なんと、拳銃を構える佐久間の姿だった。
「あらっま、早い登場だこと」
アリスを押さえつけていた佐久間は、銃を構える佐久間に対し、挑発するような笑みを浮かべる。
「さ、佐久間が二人!?何なのよ、一体」
何が何だかさっぱり分からない。アリスは二人の佐久間を何度も見て、自体を把握しようと努めた。
「アリス早くこっちに来い」
「佐久間……」
銃を持ち相当に不機嫌そうな佐久間の声。あぁ、これが本当の佐久間だ。アリスはそう思い、少し安堵の表情を浮かべた。
「佐久間ちゃん、落ち着いて」
佐久間の身なりをした男は、アリスから手を離すと、めりめりという音と共に首から皮膚を剥ぎ取った。
「ひっ」
あまりに衝撃的な映像にアリスはその場に固まってしまった。
「アリスちゃん、怖いおっさんがいなくなったら後で続きしようね〜」
佐久間そっくりの人工皮膚を取った男は、まるで女のように美しい顔だった。ハチミツ色の長い髪は後ろで一つに纏められている。その長い睫も白い肌も、もしかしたら女より色気があるのではないかと思うほどだ。
「トーイ、てめぇそれ以上ほざいたら身体に穴開くぞ」
「じょ、冗談、冗談。いやぁ佐久間ちゃんたら本気にしちゃって」
佐久間は顔色を一切変えず、男を睨み付ける。
「佐久間、何してるんですか。荷物持つの手伝ってくださ……」
奥からやって来たネスティは、トーイを見てあからさまに嫌な表情を作った。
「トーイ、何故あなたがここに」
「おめぇら冷てぇよなぁ。お宝は皆で分け合うってのがルールでしょ?」
一人話しに付いて行けていないアリスは、きょとんとした顔で彼らを見つめた。