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DIVA  作者: unicorn
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第11話:そんなに男の裸が珍しいか?


 どうやらここではネスティの言葉は絶対のようだ。ずっと文句を言っていた佐久間も最終的にはソファで寝ることになった。お陰でアリスはふかふかのベッドにありつけたのだ。


 しかし、身体は疲れきっていて眠りたいのに、頭が言うことをきかなかった。今日1日で色んなことがあり過ぎた。アリスは諦めたかのようにそっと目を開けた。


「眠れない」


 大きく息を吸うと煙草の香りが鼻を擽る。部屋には何も無く、あるのはテーブルに置かれた無数の吸殻だけ。佐久間らしい、とアリスは思った。

アリスは丁度良い沈み具合のベッドで何回か寝返りをうった。しかし、やはり眠れそうにも無い。


 疲れた身体を引き摺るようにベッドから這い出たアリスは、居間へと続く扉をそっと開けた。寝ている佐久間を起こさないように気遣ったのだろう。


 しかし、そこには佐久間の姿は無かった。電気スタンドの淡いオレンジ色の光だけがあたりを照らしていた。


 奥のバスルームから聞こえる水音。どうやら佐久間はシャワーを浴びているようだ。まさか、シャワーを浴びている最中も帽子を被っているのではないか。アリスはそんな想像をして少し顔を緩めた。


「何笑ってるんだ。おめぇは」


 ふいにかけられた言葉にアリスは肩を小さく揺らした。振りかえった先には案の定、佐久間が立っていた。


「佐久間……」


 アリスは佐久間の姿を見て、思わず息を呑んだ。先程までのブラックスーツとは違い、ジーパン姿に上半身は裸、首からはタオルがかけられている。まさに風呂上りの図式だ。ブラックスーツの上からでも容易に鍛えられた身体は想像できたが、実際にその実物を見るとやはり無駄なものは一切無い。その身体に刻まれているのは無数の傷。アリスはこの男の人生を垣間見るようだと感じた。



「眠れねぇのか」


 アリスは佐久間の言葉に小さく頷き、佐久間をぼんやりと見つめた。

 いつもは帽子で隠されていた物がはっきりと捉える事ができる。肩に付く長さの黒髪、立派に蓄えられたあご髭。そして、初めて見る佐久間の瞳。切れ長の目は、心の強さを感じ、まさに自信に満ち溢れていた。


「そんなに男の裸が珍しいか?」


「ち、違うわよ」


 佐久間の姿に見惚れていた自分を打ち消し、アリスは佐久間から気まずそうに目を離した。佐久間は愛用のペルマルに火を付け、ため息を吐くように紫煙を浮かばせる。


「佐久間、怒ってる?」


「あぁ?」


 佐久間は質問の意味が解らないといった顔でアリスを見た。


「ICチップを壊した事。卑怯なやり方だったけど、ああするしかなかったの」


「いや、別に怒ってはいねぇよ。ただ……」


「ただ、何……?」


 アリスは遠慮がちに問う。


「おめぇに人殺しはできねぇ」


「どうして……? そりゃあ佐久間みたいに腕は良くないけど、それなりに修行してきたつもりよ」


 アリスは今までの自分を否定されているような気持ちになり、もう一度佐久間を見つめた。相変わらず広がる深い闇に、アリスはどうしていいか分からなくなる。


「一瞬の気の迷いは死を意味する」


「私は迷わないわ! ただ殺すために生きてきたんだもの!」


「余計な事を考えるのはよせ。やめるなら今だ」


「嫌よ!」


「ったく。どこまでも強情な嬢ちゃんだ」


 佐久間はソファに座り、滴る雫をタオルでわしゃわしゃと拭き取った。その動作がどこか見放されたように感じて、アリスの胸はチクリと痛んだ。


「まぁいい。今日は寝るこった」


 寝ねぇと疲れが取れねぇからな。そう言った佐久間の顔をアリスは見ることができなかった。アリスの視界が歪む。


「おやすみ」


 アリスは零れそうになる涙をそっと隠し、慌てて部屋に逃げ込んだ。


 佐久間にどんな言葉を待っていたのか。佐久間の冷たい態度にどうして傷ついているのか。アリスはベッドに飛び込み、目を閉じた。今日は色んなことがあり過ぎた。きっと、頭が混乱しているだけだろう。明日になれば―――そう、明日になればいつもの自分を取り戻せるのだから。



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