第10話:治るわ。3日だけ頂戴
「ホープダイヤを盗む手助けをする変わりに、BBを殺すチャンスを作って欲しいの。悪い話ではないでしょう?」
アリスの言葉に黙り込む二人。暫くして沈黙を破ったのはネスティだった。
「話は分かりました。私はOKですよ」
ネスティはどうやら条件を飲んでくれるらしい。アリスは安堵の表情を浮かべる。しかし、肝心の佐久間はアリスを睨んだまま一向に喋ろうとしなかった。
「佐久間、何とか言ったらどうです」
痺れを切らしたネスティが佐久間に詰め寄る。
「パスワードがねぇんじゃ話にならねぇ。話を飲むしかねぇだろ」
佐久間はアリスから目を離すと、不機嫌そうに言った。
「それじゃあ……」
「素直じゃないですね、佐久間は」
ネスティは整った顔を少しも崩さずに笑った。
「でもアリス、何にしても行動するのはその怪我を治してからです」
ネスティに言われるまで足の怪我をすっかり忘れていたアリスは、痛々しい傷跡を見て苦笑した。
「あんまりゆっくりもしてられねぇ。せいぜい4、5日ってとこだな」
「治るわ。3日だけ頂戴」
佐久間は凛としたアリスの態度を驚いた表情で見つめた。
「ただのガキだと思ってたが、度胸だけは一人前のようだ」
「余計なお世話よ」
アリスは相変わらず憎たらしい態度の佐久間に舌を出した。
「さぁアリス、そこの髭面は放って置いて。こっちにいらっしゃい」
「なんだと、ネス」
吠える佐久間を尻目に、ネスティはアリスの肩をそっと引き寄せ歩き始める。アリスは二人の様子を見て可笑しそうに笑った。
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「ここがバスルーム。シャワーは何時でも好きなときに使って構いませんよ」
「ありがとう」
ネスティは丁寧にアリスに教えていた。天井は低いものの広い敷地にキッチン、シャワー、トイレと必要なものは全て揃っていた。一方佐久間はと言うと、帽子を顔に載せソファに横たわっている。
「で、問題はアリスの部屋ですね……。残念ながらここには、居間と私と佐久間の部屋しかないんですよ」
「あっ私ソファで寝るから」
「ダメですよ。アリスが風邪を引いたらいけませんからね」
ネスティはアリスの言葉をやんわりと否定し、佐久間の方を見る。
「煙草臭い部屋ですが、我慢して下さいね」
「ちょっと待て、ネス。まさか俺の大事なベッドを……」
「もちろん、佐久間はソファで寝て下さいね」
佐久間が言い終える前にぴしゃりと言い放ったネスティ。佐久間はがっくりと肩を落とした。