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散歩

作者: 亀山


秋の空は高く、金木犀の甘く凛とした薫りが大気にそろりと潜む。

夏の息が詰まるような水分がからりと抜け涼やかになった風は体に少し辛い。

その分和らいだ日光の暖かさが身にしみて青年はぶるりと身震いをした。


からし色のショールを改めて首に巻きつけて深緑のクロックスにかさりとからみつく落ち葉を蹴り上げる。

蹴り上げられた落ち葉はうまく風に乗って宙に浮くとまたひらりと地に落ちた。



ひっかけてきた紅茶色のカーディガンは青年には少し派手すぎたかもしれない。けれどそんなことはどうでもよかった。

このような静かに浮かれた陽気には外へ散歩しに行きたくなるものだ。

けほ、と小さくむせると青年は同じぐらい小さな笑みをこぼした。


視線の先にはドングリ。おそらく近くのナラの木から落ちてきたのだろう。まだ緑色のものや茶色に色づいたもの、はたまた枝ごと帽子をかぶっているものまで落ちている。


青年はカーディガンが地面に着いて汚れるのを気にせずに身を屈めると小さな秋の落し物を目につくものから集め始めた。

それらはすべてカーディガンのポケットに収まり、見る見るうちにポケットは優しい秋で埋め尽くされた。



満杯にしたポケットを抱え、青年はまた歩き出す。

けれどもその公園は青年が歩き回るほどに広くはなくて、あらかた歩きつくしてしまう。

仕方なしに青年は公園内にいくつか置いてあるベンチに座り、それまでに集めた戦利品を手にとって眺めることにした。


先ほど取ったたくさんのどんぐりに綺麗に赤や黄に染まった落ち葉たち。そしてオレンジ色の芳しい薫りの金木犀の花。

特に光に透かすと柔らかく光を赤く変える紅葉の葉が青年のお気に入りだった。

暖をとるために途中で買った缶コーヒーを口に含みながら宝物をポケットに戻す。甘く苦いコーヒーは青年の中に取り込まれるごとに熱を無くしていく。



缶コーヒーを飲みつくしてしまうと一段と空気が冷たくなった気がして青年はカーディガンをよりきつく身にまとわせた。

その時ばさりと茶色の肩掛けが青年にかぶせられ、一体誰だと青年は首を後ろに回して秋の日差しのような柔らかな笑みを浮かべた。

彼の後ろに立っていたのは黒いカーディガンに白いナース服を着た看護婦。どうやらいつまでたっても部屋に帰ろうとしない青年にしびれをきたして迎えに来たようだった。



「篠崎さんみぃーつけたー さあ病室に戻りましょうねー」

「おや佐野さん、こんなところまでどうしたんですか?」

「どうしたもこうしたもありません。 こんな寒いところにいて病状が悪化したらどうするんですか」

「何分私は外にいるのが好きなもので・・・ それにここは日差しが当たって気持ちがいいぐらいですよ」

「それでも今の篠崎さんの体には毒です。おとなしく部屋で薬を飲んで寝ていてください。 体は十分動かしたでしょう?」

「まあそうですけど」

「ならほら戻りましょう戻りましょう 検温の時間もあります」


さあさあと青年の背を押す看護師に力負けしたように青年はよっこらと立ち上がって看護婦と並んで白い病院に向かって歩き出す。


「あーもう終わりですか」

「終わりですー どうせまた明日も散歩するんですから」

「ちょっと名残惜しいな」

「たくさんお土産をもって何をいいますか」

「これは同じ階の子供たちへのお土産ですよ。 ・・・ああでも」


青年はふと思いついたようにパジャマの胸ポケットに入れていた紅葉の葉を取り出す。


「これは佐野さんに似合いそうだから」


そういってにこりと彼女が持っていたカルテに勝手に挟む。

そのまま先へ進んで行く彼を見送った彼女はそれこそ紅葉のように顔を真っ赤にさせた。




きっと明日も明後日も体が動く限り彼は外へ行くのだろう

彼女に渡す愛を探すために



ナースとコーヒーが出てくる晴れた日に読みたくなるお話


ツイッター診断より



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