VRゲーム
VRゲームをプレイしていた。
仕事でヘマをやって、皆に迷惑をかけた。その憂さ晴らしに。
そのゲームは、サイバーパンクにファンタジー要素を足したような世界観で、ジャンルはMMO。僕はその時、地下のシャッター通りを歩いていた。他にも数人のプレイヤーがいたが、僕なんかよりもずっとレベルが高そうな人ばかりだった。一軒だけ店が開いていて、どうも雑貨屋らしかった。珍しいアイテムでも売っていないかと僕はその店を覗いてみて驚いてしまった。VRゴーグルが売っていたからだ。
興味を惹かれた。
もし、装備をしたらどうなるのだろう?
値段を見てみると安かった。僕は迷わずそのVRゴーグルを買うと早速装備してみた。すると、なんと別のゲームが始まった。瞬時に僕は理解した。これはゲーム内ゲームってやつだ。僕は思わずゲーム開発者の遊び心に微笑みを浮かべてしまった。こーいうノリは大好きだ。僕はそのゲーム内ゲームをプレイしてみる事にした。大した容量は割けないだろうから、どうせ大した事はないだろうとは思っていたけれど、それでもワクワクした。
しばらく彷徨うと、見慣れた場所を見つけた。
シャッター通り。
そう、さっきの場所と同じだ。僕はまさかと思って、さっきの雑貨屋を探してみると、なんとやっぱりそっくり同じ店があるじゃないか。しかも、VRゴーグルも売っている。こーなると興味を惹かれる。僕はそれを買い求めて、再び装備してみた。すると、また別のゲームが始まったんだ。
つまり、ゲーム内ゲーム内ゲームだ。
しばらく歩くと、またシャッター通りがあった。雑貨屋があって、VRゴーグルも。
ハハ……
僕は笑った。
開発チームは一体、何がやりたいんだ?
こーなったら、行ける所まで行ってやれと思って僕はゲームをやり続けた。どれくらいゲーム内ゲームをプレイしたか…… 多分、6つくらいだと思うのだけど、そこで異変が起こった。いつものシャッター通りなのだけど、他にプレイヤーはいなくて、なんとモンスターが現れたのだ。
僕がいた最初のシャッター通りのエリアには、強力なモンスターは出ない約束になっていたけど、ここはゲーム内ゲームだからきっと対象外なのだろう。半分身体が溶けた、泥のようなそいつは異様に強くって、僕では敵いそうにもなかった。このままじゃ、やられてしまう。ただ、それでも僕は慌てなかった。何しろ、ゲーム内ゲームだからね。ゲームを止めれば良いだけの話だ。
――ところが、そう思ってログアウトしゴーグルを外すと、その外した先にも同じモンスターが現れたんだ。どうも同じ奴らしい。僕を追いかけて、上位のゲーム世界にまでやって来てしまったようだった。僕は逃げる為にそこでもログアウトしてゴーグルを外した。すると、その上位のゲーム世界にもそいつは再び現れた。逃げる。また現れる。
もしかしたら……
ゴーグルを外して逃げ続けた僕は、いつの間にか最初のゲームにまで戻って来てしまっていた。僕が連れて来たモンスターを見て、他のプレイヤーが集まって来る。親切な人が説明してくれた。
『やっちゃったか。君は運営の罠に引っかかったんだよ』
どうも、僕が装備したVRゴーグルは、弱いモンスターしか現れないと油断しているプレイヤーを罠に嵌める為のアイテムだったらしい。元は別の世界にいたモンスターだから、一応はこのエリアに強いモンスターは出ないという約束は破られていない。
僕は謝った。
『すいません。迷惑をかけて』
玄人達が集まって来ていて、僕が連れて来てしまったモンスターを退治してくれていた。
『いいよ、いいよ。運営の意地が悪いんだ』
一人がそう言って慰めてくれたけど、罪悪感でいたたまれない気持ちになった僕は、そのままゲームをログアウトしてしまった。どうせ、僕がいたって大して役に立てない。VRゴーグルを外す……
ゲームをログアウトした僕は、自室で落ち込んでいた。
仕事でも迷惑をかけて、ゲームでも迷惑をかけてしまった。これじゃ、何のためにゲームをやったんだか分からない。
ああ、逃げたい。
そう思った瞬間だった。窓の外、ベランダにモザイクのような泥色の画像が走ったのだ。そしてゆっくりと像を結ぶ。
あのモンスターだった。
僕は愕然となった。
僕を追って来たのだ。この現実世界まで。そんなバカな……。
しかし、その後で僕はゆっくりと微笑みを浮かべた。
こう考えたからだ。
このモンスターが現れたという事は、ここは現実世界じゃないって事だ。なら、ログアウトして、VRゴーグルを外せば、この世界からも逃げ出せる。
モンスターが襲いかかってくる前に、僕はログアウトをした。これでようやく楽になれる。僕の身体が消えていく。
誰にも迷惑をかけない世界へ……




