9 ショート動画という火種
その配信の切り抜きは、“歌の上手さ”ではなく“雰囲気”で広がった。
『同い年美少女VTuber、自然体デュエットが尊すぎる』
短い動画の中で、二人は特別なことをしていない。
ただ、並んで歌って、目を合わせて、少し笑っただけ。
それが、刺さった。
再生数は、あっという間に跳ね上がる。
『可愛すぎるVTuber』『てぇてぇの完成形』『作ってない関係性が最高』
二人は、いつも通りなのに──。
次の配信の前。
「‥‥‥またバズってるね」
「ね。なんでだろ」
二人は、少しだけ困った顔で笑う。
でも、それを否定するつもりはなかった。
無理に作らなくていい。
変に隠さなくていい。
「このままで、続けよ」
「うん」
画面の向こうで“てぇてぇ”と呼ばれているその関係は、本人たちにとっては、ただの――自然な親友の距離だった。
そしてそれこそが、
一番、強いものだった。
◇期待という名前の枠
最初は、褒め言葉だった。
『無限にてぇてぇ』『尊い』『この二人はセットで完成してる』
コメント欄に流れるそれらの言葉を、水瀬しずくは、ちゃんと嬉しいと思っていた。
(私たちが楽しいのが、伝わってる)
その事に、嘘はない。‥‥‥はずだ。
変化が起きたのは、一通のダイレクトメッセージからだった。
マネジメント会社、音楽関係者、配信プラットフォームの担当者。
二通、三通とメッセージが続けざまに届き、しだいにその数は増えてく。
ところが、送り主こそ違えど──その内容は驚くほど似通っていた。
『お二人の“関係性”は大きな強みです』
『今後もセットでの露出を増やしませんか』
『“てぇてぇ路線”は今、非常に需要があります』
言葉は丁寧で、そこに悪意はない。
けれど、しずくはモニターを見つめながら、胸の奥に、細い棘が刺さるのを感じていた。
(‥‥‥“関係性”)
歌じゃなくて。
努力じゃなくて。
声でもなくて。
“二人でいること”そのものが、
”商品”として見られていた。




