14 mixith、誕生
「“二人”が主語になるユニット名がいい」
その言葉を口にしたあと、
二人はしばらく黙ったままだった。
夜は深く、窓の外を流れる風の音さえ、今は遠く感じられる。
「‥‥‥でもさ」
ソラが、ゆっくりと考えるように話を始める。
「しずくとソラ‥‥‥名前をただ並べても‥‥‥ねぇ」
しずくも、なんとかアイデアを出そうとする。
「英語にしたらdrop、sky・・・・・・スカイドロップ?」
「うーん‥‥‥」
どうにも、しっくりこなかった。
「安直というか」
「うん‥‥‥ “仲良しユニットです”って、最初から書いてある感じ」
それは、避けたい。
“てぇてぇ”と消費されることへの、二人なりの小さな抵抗だった。
◇何を混ぜるのか
「じゃあ」
しずくが、少し考えて言う。
「私たちって、何が違う?」
「え‥‥‥」
ソラは一瞬迷ってから、素直に答えた。
「声と、ギター」
「歌い方も、立ち位置も」
「出身も、関東と関西」
「性格も‥‥‥たぶん」
しずくは、小さく笑った。
「全部、違うね」
「うん」
「でも、混ざると」
言葉を探す。
「‥‥‥ちゃんと、一つになる」
その感覚は、
あの初コラボの日に、
二人とも知っていた。
“mix”
「‥‥‥mixって言葉、どう思う?」
ソラが、ぽつりと言った。
「混ぜる、合わせる。音楽でも馴染みのある言葉だね」
しずくは、すぐに頷いた。
「いいと思う」
「でも、mixだけだと‥‥‥」
「足りない?」
「うん。それに、作業っぽい」
確かに。
音を混ぜる行為は、
技術であって、関係性じゃない。
“with”
「じゃあ‥‥‥with」
今度は、しずくが言う。
「一緒に、って意味」
ソラは、少し考える。
「優しいね」
「でも、それだけだと‥‥‥」
「弱い?」
「うん。曖昧」
“誰とでも”成立してしまう。
二人である必然性が、
もう一歩、足りない。
だから、つなげるという発想。
「‥‥‥mixとwith」
ソラが、ふと呟いた。
「どっちも、捨てたくない」
「捨てなくていいんじゃない?」
しずくの声が、少し明るくなる。
「混ぜて」
「一緒に」
「‥‥‥混ぜて、一緒に?」
「それだ」
一瞬、沈黙。
二人の中で、
同じ言葉が、溶け合い、形を変え始める。
音としての名前
「mix‥‥‥ith (ミクシス)?」
ソラが、口に出してみる。
「‥‥‥mixith」
しずくも、静かに繰り返す。
「mixith」
英語としては、少し不思議。
でも、音が、柔らかい。
「説明しないと、意味は分からないね」
「うん」
「でも‥‥‥」
ソラが、満足そうに少し笑う。
「説明できる余地があるの、好き」
しずくも、同じ気持ちだった。
「私たちが、後から意味を足していける」
◇二人の、新たな名前
「‥‥‥mixith」
しずくは、改めてその響きを確かめる。
「混ざって」
「一緒に」
「でも、どっちも消えない」
ソラは、深く頷いた。
「うん」
それは、依存でも、犠牲でもない。
お互いを選び合う、という意味。
「じゃあ」
ソラが、少し照れた声で言う。
「正式に、これで行こうか」
「うん」
通話の終わり際。
「‥‥‥なんかさ」
「なに?」
「自分の、名前が‥‥‥もう一つ、増えたみたい」
しずくは、静かに微笑んだ。
「がんばって、守らなきゃね」
「一緒に、ね」
二人だけの、名前。
なんだか、気分が上がってくる。
その夜、
二人は同じ名前を胸に、眠った。
mixith。
まだ誰にも、知られていない。
世界に、存在しない名前。
でもこの日、二人の少女の心の中に──確かに生まれた名前だった。




