11 一人分のスポットライト
通知は、深夜に届いた。
配信もなく、通話の予定もない、静かな時間。
水瀬しずくは、スマホの画面を見つめて、しばらく動けなかった。
件名:【ご相談】ソロアーティストとしてのご提案
(‥‥‥ソロ)
文字は、丁寧で、礼儀正しく、
何より――残酷なまでに具体的だった。
・大手音楽レーベル
・年内デビュー想定
・VTuber活動は継続可
・ただし「個人名義」での活動が前提
そして。そのあとに続く、最後の一文が──胸に刺さる。
『現在の“ユニット的な印象”からは、段階的に距離を取る必要があります』
しずくは、スマホを伏せた。
部屋は静かで、窓の外では、夜の風が鳴っている。
前世の声。
(‥‥‥これ)
前世で、いつも目の前にあった、だけど一度も通らなかった話。
主役。
メインボーカル。
“一人で前に立つ”という選択肢。
胸が、じんと熱くなる。
同時に、別の感情が。
はっきりと形を持って現れた。
(‥‥‥ソラちゃん)
◇言えない夜
「ソラちゃん」
通話を繋げば、きっと、いつも通りの声が返ってくる。
「どうしたの?」
「配信の相談?」
でも、
その先の言葉が、想像できてしまう。
――おめでとう!
――すごいじゃん!
ソラは、きっと祝福する。
それが分かるからこそ、しずくは、今は何も言えなかった。
(‥‥‥喜ばせたい。でも)
同時に、
傷つけたくない。
一人分のスポットライトは、必ず、もう一人の影を作る。
“ソロ”という言葉の重さ。
しずくは、ベッドに腰を下ろし、自分の声を──心の中でなぞる。
(私は‥‥‥歌いたい)
それは、ずっと変わらない。
でも。
(ソラちゃんと歌うのも、好き)
“二人で”と、“一人で”。
その間にある溝が、思っていたより深いことに、今さら気づく。
前世では、
選べなかった。
今世では、
選べてしまう。
それが、こんなにも怖いなんて。
時計を見ると、午前二時。
しずくは、メッセージアプリを開いて、
文字を打っては消す。
「大事な話があるんだけど」
――重すぎる。
「今度、時間ある?」
――逃げているみたい。
結局、何も送れなかった。
(できれば‥‥‥会って、話したい)
画面越しじゃなく、
同じ空気の中で。
あの夏の夜みたいに、
同じ距離で。
一人で立つ夢、二人で立つ未来。
それを思い浮かべながら、しずくは、そっと目を閉じる。
前世の自分が、ステージの端から、こちらを見ている気がした。
――迷う事なんて、ないだろ?
でも、今の自分は、その声に、すぐには頷けない。
(‥‥‥私は、もう一人じゃない)
ソロで立つ夢は、確かに眩しい。
でも、
その光の中に、
大切な人の姿がない未来を、
──まだ、想像できなかった。
しずくは、スマホを胸に抱き寄せる。
この話は、遅かれ早かれ、二人の関係を試す。
逃げられない。
それでも――
逃げずに話すと、決めた。
“天使の歌声”は、
今、人生で一番難しい音程に立たされていた。




