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第8話『申し訳ないんですけど。私、好きな人が居るので』

高校に入学して、衝撃的な事が起こった。


そう。告白である。


しかし残念ながら、古谷君からの告白ではない。


まぁ、古谷君からの告白であったなら、衝撃的な事が起こった。古谷君と恋人同士になったのだ。


とでも言う。


だが、そうではない時点でお察しだ。


「それで、どうかな?」


「どうって言われても。私、あなたの事何も知らないよ」


「それはこれから知っていけば良いと思う」


「うーん。そもそも何で私なの? 可愛い子を選べば良いと思うんだけど」


「藤崎さんは可愛いよ!! なんていうかお洒落に凄い気を遣ってるし。髪型とかもさ。俺、すごく良いと思うんだ」


「なるほど」


それは私の努力が実ったという事で喜ぶべき事なんだろうけど、養殖だと言われてるみたいで心境は複雑だ。


実際千歳さんなんかは中学に入学した時から告白ラッシュだったみたいだし。


私なんて加工を重ねてようやくって感じだ。


まぁ、それでも本命には良いお友達って感じなんだけど。


って、落ち込んでてもしょうがないか。


「申し訳ないんですけど。私、好きな人が居るので」


「……誰か、聞いても良い?」


教えて何か意味があるのか? と思わなくも無いけど、男の子にもプライドとかあるのかもしれない。


しかし、教えるのは絶対に嫌だ。


私が古谷君を好きだって伝えるのは告白の時って決めているんだ。


こんな誰とも知らない奴になんて教えたくない。


「それは嫌。まだ告白してないし」


「ならさ。その告白するまでとか、どうかな」


「何が?」


「俺と付き合うの」


「え?」


いや、普通に嫌なんだけど。


私に何のメリットも無いし。


意味も分からない。


「いや、それは困る」


「でもさ。立花はライバルが多いし、俺ならちょうど良いと思うんだよね」


「ちょっ」


男の人は急に迫ってきて、私の手首を握る。


その力がビックリするくらい強くて、私は思わず一歩逃げようとしたけれど、壁に追い込まれてそれ以上下がる事が出来なかった。


「離してください」


「なぁ、俺だってサッカー部じゃそれなりに有名なんだぜ?」


「知りません!!」


「そうか。入学してきたばっかりで知らないんだろ。立花は好きな奴居るんだぜ? 三年の東雲翼って奴で」


「離してって!」


「それくらいにしたら?」


「っ! お前っ、河合風香!」


「えぇ。いかにも私は河合風香だけど。貴方に呼び捨てにされる筋合いは無いわね。自称サッカー部の次期キャプテンさん」


「くっ、覚えてろよ!」


「おーおー。いかにもな捨て台詞。それで? 無事だった? 綾乃ちゃん」


「は、はい。ありがとうございます」


「ごめんねぇ。助けに来るのが遅れちゃって」


「いえ。助かりました」


それから私は風香さんに手を引っ張られたまま彼女が所属するという調理部まで足を運ぶ事になった。


そして、山海高校で現在起こっている非常に面倒な話について聞かされる。


「今さ。この高校はヒジョーに面倒な事になってんのよ」


「そうなんですか?」


「うん。実に最悪な事にね。男も女も恋愛脳を拗らせて大暴走中って感じ。まぁ大体はあのシスコン野郎が原因なんだけど」


「しす……?」


「あぁ、立花君ね。立花光佑。今までは立花君が特定の相手を作らない事で保たれてた均衡が、崩れたのよ。東雲先輩と付き合い始めたって噂が流れてさ」


「それって」


「うん。さっきの男が言ってたのは本当。静香は」


「今話しかけないで!!!」


「と、まぁこの様子だけど。他の女の子も阿鼻叫喚でね。でも今まで立花君に集中してた女の子がこれで解放されるって、今男子による告白ラッシュが起こってるって訳だ」


「なるほど。それで私みたいな女にも告白してきたって訳ですね」


「まぁ綾乃ちゃんは可愛いけどね!? 昔は地味な感じだったけど、今は凄く可愛いよ!!」


「あーはいはい。そういうの良いですから。私は所詮養殖なんで」


「そんな事ないと思うけどなぁー」


「まぁ私の事は良いんで。今大事なのは静香ちゃんでしょう?」


「そうなんだけど。さっきも言った通り、静香は今だんまり状態だからさ」


「静香ちゃん。話、聞いても良い?」


「……うん。聞いてくれる? あやのん」


「まぁ良いけどね。お姉ちゃんは。良いけどね!」


私は静香ちゃんに話を聞いて、確かにその東雲先輩なる人と立花さんが良い雰囲気だという話を聞いた。


そして、写真も見せてもらったが、確かに、まぁ、何ていうか言葉にならない感じだった。


ベッドで上半身を起こし、柔らかく笑っている薄幸の美少女である東雲先輩と同じく笑っている立花さんは酷くお似合いに見えた。


静香ちゃんにはそんな事少しだって言えないけど。


「で、でもさ! まだ結婚してないんだし。チャンスはあるよ!」


「ううん。もう良いの。諦めがついた」


「……静香ちゃん」


「イケメンなんて何処にでもいるもんね! 私の料理を美味しいって言ってくれる人だって、楽しみだって言ってくれる人だって、どこにでもいるもん。頑張ってる所をちゃんと見てくれて、応援してるって言ってくれて、それで、それで……」


私は静香ちゃんを強く抱きしめて、その背中を撫でた。


五年だ。


人によってはたった五年というかもしれない。


でも静香ちゃんは五年間、ずっと頑張っていたんだ。


最初はミーハーな気持ちだったかもしれない。でも真剣だった。


真剣に向き合っていたんだ。


そう思うと、やりきれない感情がこみ上げてきた。


抱きしめた静香ちゃんは私にしがみつきながら泣いていて、辛くて、苦しくて、それでも幸せだった日々の記憶を吐き出していた。


でも、私もいつかこうなってしまうかもしれないという恐怖があるのだった。




そして、次の日。


私は連日校舎裏に呼び出されるのだった。


しかし、今日は嬉しい方の衝撃ニュースである。


そう。何故なら、何故なら?


古谷君に呼び出されたからだっ!!


「ごめんね。急に」


「ううん。全然」


何も困ってないよ。むしろいつでもウェルカムだよ。


とは言えず、私はニッコリと笑って、静かに古谷君の言葉を待つ。


かつて参考にした本の様に、小悪魔っぽい動きをする為、両手を後ろで組んで、それなりにある胸を強調してみたりとか。


どうよ!?


「実はさ。聞きたい事があるんだ」


はい! 効果なし!!


いつもの事ですね。


「何かな」


「その、昨日さ……告白されたって聞いたんだけど」


「あー、その事かぁ」


私は昨日のダルイ出来事を思い出して嫌な気持ちになった。


そして、思わず手首を擦る。


あの男め。ゴリラみたいな力をしおってからに、手首に青あざが付いてしまったじゃないか。


はぁ。最悪。


「その手……!」


「あぁ、これ? うん。昨日、ね」


触ってたら、ビリっと痛みが走って目尻に涙が浮かんでしまう。


「藤崎さん!?」


「あ、ごめん。何でもないから」


「っ。俺はっ、ごめん」


何で古谷君が謝っているんだろう?


いや、正直意味は分からないけど、とりあえず古谷君は何も悪くない。


ただ生きているだけでも私は嬉しいし、助かっているんだ。


「古谷君は何も悪くないよ」


「藤崎さん! 俺は、藤崎さんが傷つくのは見たくないんだ」


「そ、そうなの?」


「だから、今度誰かに呼び出された時とか、怖い目に遭いそうな時は俺を呼んで」


「え」


「とりあえず、今日から帰りは送って行くから、悪いけど、部活終わったら待ってて。確か調理部だよね?」


「う、うん」


「じゃあ俺も部活終わったら調理室に行くから。一人で帰っちゃ駄目だよ? 良い?」


「わ、分かったよ」


「また、放課後ね」


そう言うと、古谷君は颯爽と去っていった。


なになになになになになに!??


何のボーナスゲームだこれは!!?


古谷君と毎日下校を一緒に出来るだと!?


ありがとうございますっ!! 神様!!


とりあえず、ちょっと強引な古谷君も素敵!!

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