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偽物令嬢〜前世で大好きな兄に殺されました。そんな悪役令嬢は静かで平和な未来をお望みです〜  作者: あいみ
最終章

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番外編 死よりも苦しい罰【スウェロ】

 「急な訪問にも関わらず、時間を割いて頂き感謝致します」


 感謝している割に、言葉と表情が合っていない。


 怖いよ、叔父上。ほら、ルイセとナンシーも引いてる。


 昨日の今日で機嫌が良くなるはずもなく、殺気を隠すつもりもない。


 かろうじて魔力は放出していないが、発言を間違えれば容赦しないことは明らか。


 緊張感が漂う。空気が揺らいでいる。


 出された紅茶は緩やかではあるが、常に波紋が広がっていた。


 「連中は?」

 「今は拘留中だ」


 シオンの件を抜きにしても叔父上とレックを攻撃した罪は消えない。


 それも本気で殺そうとしていた。


 法に則る(のっとる)のであれば問答無用で速やかに処刑を行うべき。


 ここまで怒りが浸透した叔父上が、ひと思いに殺して楽にしてあげることはまずない。


 私なら氷漬けにしてバラバラに砕くけど、叔父上の与える苦しみは痛みじゃないんだよね。


 「失礼致します、陛下。ブルーメル侯爵夫妻並びに、ティリー夫人とプレセルヴィ夫人をお連れしました」


 訳もわからず連れて来られた四人は陛下の御前で取り乱すことなく礼儀を弁えている。


 伊達に侯爵家の教育は受けていないということか。


 夫と子供がいるのに叔父上を見ては頬を赤らめ異性として意識する三人の夫人は軽蔑する。


 叔父上は無反応、無関心。私に目で合図をするだけ。


 四人の首から下を凍らせ、叔父上が仕事をしやすいように地べたに寝かせた。その際に体の一部を損傷させても良かったが、うるさい悲鳴を上げられそうなのでやめた。


 みっともない姿に笑う者はいない。まるでお似合いだと言わんばかりの視線に耐えきれず、陛下に助けを求め講義をする。


 これは我が国に対する侮辱であると。


 すごいな。自分達がそこまでこの国にとって有益な存在だと思い込んでいるところが。


 優雅に紅茶を一口飲んだ叔父上はようやく立ち上がった。


 「お前はシオンの出生を知っていたのか」

 「シオン?私の娘を殺した犯罪者のことか!!」

 「口の利き方には気を付けろ」


 ブルーメルの前髪を乱暴に掴んでは無理やりに目と目と合わせる。赤紫の瞳は鋭く思わず息を飲んだ。


 金眼のように輝いているわけではないが、その美しい瞳に恋をする女性は少なくない。


 息遣いは荒々しくなり額からは大量の汗。悠々と暮らしてきたブルーメルでは叔父上の殺気に耐えられるはずもない。


 心臓は拳で殴られているかの如く、痛く鳴っているだろう。


 「嘘はつくなよ?侯爵」


 触れてさえいれば鑑定魔法は発動する。もう既に叔父上は問いの答えを知っているんだ。


 「出生?ハッ!あの醜い化け物が生まれたことにより、私の娘が死んだことでも知りたいのか」


 バカだなぁ。その回答は不正解なのに。火に油を目一杯注いだことにも気付かないで。


 ブルーメルから手を離し、ティリー夫人の顎を持ち上げた。うっとりした鮮緑の瞳は熱を帯びて、叔父上を王子様と認識している。


 残念ながら現実はそんなに甘くない。


 風圧で強制的に口を開かせ、氷で固定した。


 「ねぇスウェロ。レイアークス殿は何をしているのかな?」

 「体の中を焼いているんだよ」


 ブルーメルが嘘をついた罰。ブルーメルに直接、何かするよりも効果的。


 すごいよね。大型の最上級魔法をここまで細かく使えるなんて。人類史上初。


 死なないように加減されているとはいえ、内部を焼かれているんだ。相当な痛み。


 どっちが痛いんだろうか。外と中。焼かれるとしたら。


 手元が狂ったふりをして喉も一緒に焼くから、叔父上は本当に怒らせてはいけない人。


 どんな相手だろうと終始、笑顔で乗り切るのに今はずっと眉間に皺を寄せたまま。


 好意的でないことは子供だってわかるのに、どうしてこの四人は自分だけは特別だと勘違いしているのか。


 「言ったはずだ。嘘はつくなと」

 「王族の色も持たぬ偽物の分際で!!私の娘に何をするか!!」

 「おい。今、なんと言った?」

 「スウェロ。やめろ」

 「なぜです?私がこの世で最も尊敬する叔父上を侮辱されて、黙っているとでも?」

 「当の本人が気にしていないと言っているんだ」


 私の異変に気付き、声をかけなければブルーメルは床から生やした木で真っ二つに引き裂いてやったというのに。


 「そんな小物は放っておけ」

 「しかし!!」

 「シオンが言っていただろう。こんな穢らわしい連中を殺して、手を汚して欲しくないと」


 そうだ。レックがグレンジャーの次兄を手にかけようとしたとき、悲しいまでに、切ない願いだった。


 自惚れてはいないが私達はシオンにとって大切な人。どんな形であれ汚れて欲しくない。


 想像してみた。この手が血で赤く染る瞬間を。


 私自身は何とも思わないが、シオンは気にして、きっと悲しませてしまう。


 私の感情とシオンの感情。秤にかければ傾くのは後者。


 幸せな未来を守ると決めたのだ。私情に走るのは良くない。


 「そうか、わかったぞ。あの醜い化け物に懸想しているのか!ふん、偽物同士、お似合いだな」

 「俺のことはいくらなじってくれても構わない。だが、俺の友人であるシオンを貶すことだけは許さない」

 「まぁ!レイ様!!あのような女よりも私のほうが」

 「いつ俺がお前に愛称で呼ぶ許可を出した?」

 「だって!私のほうが美しく、隣に立つに相応しいですわ」

 「他人をが外見でしか判断しない奴より、中身を見ようとしてくれるシオンのほうが、よっぽど美しい」


 うん。それは言えてる。ルイセとナンシーも賛同するように頷く。


 比べられるどころか勝負にもならないと断言されたことがよほど悔しかったのか。怒りで顔を真っ赤にしながらシオンを貶す言葉が次々と出てくる。


 薄汚い色。人の皮を被った化け物。知能のない下級魔物以下。その他にも色々と。


 シオンを貶すことを許さないと言ったのに、悪口のオンパレード。理解能力に欠けているのだろうか。


 温厚な側近二人も背中に隠した拳は強く握られている。


 「それ以上喋るなら、お前の喉も焼き切ることになるぞ」


 有言実行の脅しは脅しではない。温かみのある赤紫の瞳をあそこまで冷たく、感情さえ消し去れる人物がいたとは。


 クズの家系、か。まさにその通り。


 ここまで救いようがなく、庇い立てしたくない人間がこの世にいるとは。新しい発見にちょっとだけ胸がドキドキした。


 叔父上が自前の魔道具をブルーメルの頭に装置を付けると、宙に記憶が映し出される。


 この魔道具は叔父上とアルが共同で制作した、人間の記憶を調べるための物。試行錯誤をして五年の月日を費やして完成させた。


 あくまでも鑑定魔法は嘘を見抜くだけで、詳細までもがわかるわけではない。


 映された記憶(かこ)は話で聞くよりも壮絶で、幼い子供が経験するにはあまりにも残酷。


 やっと理解した。シオンがなぜ、一歩引いて私達から距離を取っていたのか。


 たった十六年という短い時間で、シオンは何百回と殺された。


 悪意ある言葉で殺され、時には自分で死んで。尊厳を踏みにじるだけでは飽き足らず、何度も心を踏みつける。


 他人を信じられなくなるには、充分すぎる痛みと共に生きてきた。


 自分を祝いに来てくれた女の子を人殺し呼ばわり。家族になろうと一心に頑張った幼気な女の子を嘲笑い追い出した。


 締め切られた扉の向こうでは、シオンが存在していないかのような会話が繰り広げられる。


 ブルーメルから乱暴に魔道具を外した。脳に作用する魔道具は取り扱い注意。使用後は後遺症が残るかもしれないと言っていたのに。


 急な変化に頭痛を起こす。体が凍っていなければ頭を抑えて蹲っていた。


 その頭を鷲掴みにして鑑定を行い、魔法と魔力を奪う。他の三人も同様に。


 彼らのように自分を第一に優先する人間は身の危険に敏感。石を怖さないよう必死に懇願する。


 「わ、悪かった!私が謝る。だから……!!」

 「謝る相手が違うだろう。お前達が傷つけ殺し続けてきたのはシオンのはずだ」

 「シオンに、だと……!?」

 「まぁ。いなくなった相手に謝れはしないだろうがな」

 「いなく……?フッ、ははは!そうか!死んだか、あの化け物め!!いい気味だ!!」


 勘違いをして高らかに笑うブルーメルのひどく醜く歪んだ顔を後世に残したらどうなるのか。反応が楽しみではあるが、こんな人間は残す価値もない。


 軽々しく石を砕けば笑いは止まる。天国から地獄に突き落とされたかのような絶望っぷり。


 二回目の視線合図は拘束を解く指示。

 私の不満が伝わっているらしく、名前を呼ばれて催促された。


 魔法がなくなった四人に何かが出来るわけではないが、自由の身にすることが嫌でたまらない。


 渋っていると陛下はブルーメルに爵位の返上を言い渡す。王家を欺き罪のない子供への虐待。領地にて嘘の噂を広めてシオンの名誉を陥れた。


 人一人をここまで追い詰めておきながら、死刑になることなく貴族でなくなるだけなんて罰として軽すぎる。当の本人は相応なショックを受けていて、かなり重めの罰みたいだ。


 全身から血を抜かれたような血色の悪さ。口を開く元気すらない。氷を解けば外で待機していた兵に連れ出された。


 平民になり生活水準が下がれば、苦労することは目に見えている。いくら現実逃避をしようが貴族に戻ることもない。


 叔父上を敵に回した時点で、ブルーメルの人生は終わった。


 「さて。では本題に入るとしよう」


 座り直した叔父上は足を組み、話し合いの姿勢ではなかった。わざと高圧的な態度を取る。


 「拘留中の四人だが」

 「処刑の準備はしている。数日待ってくれ」

 「その必要はない」

 「「え?」」

 「私の望みは死刑ではなく幽閉」

 「叔父上!?」

 「「レイアークス様!?」」

 「問題ない。むしろ、勝手に殺されたほうが困る」

 「レイアークス殿。それではあまりにも……」


 割に合わない。


 どんな理由であれ王族への攻撃は処罰の対象。


 「陛下。連中の処遇について貴方方が拒否する権利は持ち合わせていない」

 「しかし。空いている監獄はどこにも」

 「あるだろう?千年前、ヘルトが閉じ込められた塔。老朽化が激しく建て直したと聞いたが?」

 「あそこは」


 王族・上級貴族専用の監獄。魔力封じの塔。


 既に魔力を失い、昨日の内に身分は剥奪されているので条件は満たしていない。


 「嫌なら結構。私への攻撃は宣戦布告とみなし、この国を侵略するまでだ」


 今の叔父上ならやる。絶対に。当然のことながら、私も手を貸す。なるべく命を犠牲にしないで、なんて甘い考えは捨てて。


 王族に仇なした者を死刑に処さないなんて前代未聞。本来であれば一族全員が斬首刑。


 それを幽閉で許す形を取ることに陛下の決断を鈍らせる。


 一度でも異例を認めてしまえば、今後のためにならない。


 「言い方が悪かったようだ。国民全員が死ぬか、たった四人を幽閉するか。好きなほうを選べ」


 強大な魔力を放出しては圧をかける。


 私と違って精神にまで介入するわけではないが、純粋なる怒りは受け流せない。

 正面から食らってしまえば、正気を保つのも難しいのに流石は王族。


 気丈に振舞っている。


 命の天秤が陛下には見えているのだろう。


 どちらに傾いているかは聞くまでもない。


 私と叔父上が本気を出せば、この地に国があったことさえなかったことになる。


 「父上。応じるべきです。私達には受け入れる選択肢しかないのですから」


 アース殿下の後押しもあり陛下は決断した。


 こちらとしては希望が叶ったことは良いんだけど、幽閉は死刑より重たい罰なんだろうか?


 ひと思いに殺して楽にするより遥かにマシだけど。


 「幽閉は死ぬまでだ。絶望や苦しみから勝手に死ぬことも許さない。食事を与え病気にかかれば医者にも診せる。寿命が尽きるその日まで塔の中で生き永らえさせろ。シオンは連中の死刑を望んでいない」


 ──そういうことか!


 罰は幽閉ではない。生きること。見下し蔑んできたシオンの温情で生かされたとなれば、屈辱にまみれて死ぬまで生きるしかない。


 自ら死を選べないように手足の拘束と猿轡で自由さえ奪う。


 シオンと出会う前なら、やり過ぎだと宥めたのかもしれない。もっと凶悪な犯罪者だって、そこまでの扱いを受けることはないのに。


 死よりも苦しい罰。それがまさか、生きることだったなんて。


 「シオンの母親と名乗る平民は」

 「ユファン嬢の証言通り、庭の花壇から大金と自室からは高額な宝石が出てきた。明らかに子供のすり替えで得た額ではない」


 口止め料だろう。


 夫殺害の提案は彼女かもしれないが、実際に手を下したのは夫人側の人間。犯行当時、娘を出産したばかりで動けなかったのだ。夫人にお願いして命令に忠実に従う使用人に任せるしかない。


 仮に事故ではなく殺人だとバレたところで容疑がかからないようにしたのだろう。


 「彼女も幽閉を?」

 「そうだな。処刑しなければ何でもいい」


 標的はあくまでもグレンジャーとケールレルとブルーメルの三家のみ。平民女性は自死する覚悟など持ち合わせていないため、最下層の監獄に収容しておくだけで充分な罰となる。


 ユファン嬢に関してはお咎めなし。魔力制御が出来ずに意識を保てなかっただけで、陥れられるシオンの立場を利用するでもなく庇おうとしたことが本心。


 シオンに消えて欲しくなくて、代わりに命を差し出そうとした。


 ──シオンのことを嫌わない人が他にもいたんだ。


 意図していなかったとはいえ、シオンの名誉を陥れる原因を作ったことに変わりなく、修道院に入り残りの人生を他人に捧げると決意した。


 魔法の特訓をし、どんな病気や怪我も治せるように最上級魔法を習得するらしい。


 聖女になるためでも、感謝されるためでもなく。シオンが繋いでくれた命を誰かを助けることで恩を返す。


 「それと。フェルバー商会だが。彼らは皆、リーネットに移住させたい」


 フェルバー商会は噂に惑わされることなく、シオンを痛みや苦しみから助けようとしてくれていた。無力な自分を恥じ、助けられなかったことへの深い謝罪も。


 「それはまぁ、構わないが」

 「彼らはシオンにとって大切な人。遠く離れた地にいるよりも、傍にいて欲しい私のワガママだ。生まれ育った国を出たくない者もいるだろう。その者に強制するつもりはないが、フェルバー夫妻だけは必ずリーネットに来てもらう」


 叔父上の異常なまでの残忍性や無茶苦茶な強い要望は全てシオンのため。こんなにも誰かのために自分の評価を下げてまでも動くことに、人間らしさを垣間見る。


 話し合い……一方的な要求が通ったことにより叔父上の表情は若干、穏やかになった。


 「真実を公表しようと思う」


 ポツリと呟いた陛下は、許可を求めているわけではない。同じ悲劇を繰り返さないために、そうするべきだと判断した。


 例えそれが、ヘルトの意志に反することだとしても。


 その場の凌ぎの嘘ではなく、硬い揺るぎない決意に目を伏せた。


 陛下の英断がこれから先、ハーストに生まれる闇魔法の使い手を不幸にしないことを願う。










 ꕤ︎︎






 「お前達は先に帰っていいぞ」

 「叔父上は残るんですか」

 「フェルバー商会の護衛があるからな」

 「ナンシーの魔法を使えば一瞬なのに」

 「長距離に加えて大人数と大荷物の移動。空間を保てるか」

 「途中で切れると思います」 

 「それに。見届けたいんだ。真実が明かされる瞬間を」

 「私達も残ります。レイアークス様をお一人にするのは」

 「ルイセ。私達は先に戻ろう」


 留まろうとするルイセの背中を押して、繋がれた空間に飛び込んだ。


 フェルバー商会への説明もあるだろうし、叔父上は一人になりたいんだと思う。


 金眼を持たない叔父上は偽物の色と陰口を叩かることが多かった。世界で一番、シオンの辛さがわかる人。


 ただ、現実は想像するよりも残酷で、感情がぐちゃぐちゃになる。


 ブルーメルの記憶を見ていて、泣いてしまいたかったけど耐えた。シオンが泣いていないのに私達が泣くなんて許されない。


 「おかえり、スウェロ」

 「ただいま」


 出迎えてくれたリズ抱きしめると、そこにある体温に心地良さと安心を覚えた。


 「リズは私にとって特別だ。この世でたった一人。唯一無二の存在」

 「どうしたの急に」


 私と未来を歩んでくれる最愛の女性。それでいて、シオンの幸せを強く願う者でもある。


 「シオンの未来がもっと幸せになるよう、力を貸してくれないかな」

 「当たり前よ。シオンにはずっと笑顔でいて欲しいもの」


 空は今日も青い。シオンがそのことに気付いたのは、一体いつだったのか。


 ──ごめんね、シオン。君を見つけるのが遅くなって。

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