表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽物令嬢〜前世で大好きな兄に殺されました。そんな悪役令嬢は静かで平和な未来をお望みです〜  作者: あいみ
最終章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/121

番外編 王太子の本性【アルフレッド】

 「いや、助かったぞ。アルフレッド」


 僕は今、隣国……自国へと帰る真っ最中。父上から直々に帰るよにと手紙を貰った。


 現状、混乱の渦に飲み込まれたハーストでは学園の開校は現実的ではない。


 というのも、今にしてようやく真実が明かされたのだ。


 これまで当たり前だった平和の終わり。国民はシオンがいなくなった事実を受け入れることはせず、誘拐されたと騒ぎ出す者もいる。


 早く助けにいくべきだと一致団結して声を上げ始めた。


 そんなおかしな状況に笑うしかない。


 確かに直接、何かをしたわけではないものの噂でシオンに傷をつけたじゃないか。それさえもなかったことにして被害者ぶれる図太い神経に恐れ入る。


 ま、それは僕の目の前にいる二人も同じだけど。


 「全く。あの役立たずのせいで、私達の魔法が奪われたのよ!」


 話を聞くに、どうも叔父上と兄上が訪問していたらしい。久しぶりに会いたかったけど、そういうわけにはいかず僕に知らせはこなかった。


 真実が公になる前にブルーメルの血を引く者は全員、叔父上の手によって魔法を奪われ、シオンに対する誹謗中傷及び、王家を欺いた偽証罪で爵位の返上。


 ──どうせなら死刑にすれば良かったのに。


 プライドの塊でもある自己中人間が、ずっと誇ってきた魔法と身分を奪われるだけでも充分な罰なのか。


 平民として暮らすことに屈辱を受けながらも、そこから抜け出す術はない。


 突然、グラン伯爵の屋敷に飛び込んで来たかと思えば、しばらく匿えなんて命令してきて。


 孫の友人にも態度を崩さない傲慢さには呆れる。見事な小物っぷり。


 こんな人間とシオンの血が繋がっているなんてゾッとしていたけど、実は赤の他人だと知ったときはホッとし安堵した。


 結局のところ、見下しているんだろう。自分より階級が下だから。


 今でも命令出来る立場にいると思っていることが怖い。どんな思考回路しているんだ。


 僕の正体は隠したままリーネットに行くと言えば、勝手に馬車に同乗してきた。


 ──いいけどさ、別に。


 馬車を引く御者は迎えに来てくれた僕の従者。我が物顔でふんぞり返る元侯爵夫婦に良い顔はしていない。


 面倒(さわぎ)を起こすなと命じたから黙って引いてくれているが、命令を取り下げればすぐに首が飛ぶ。首なし死体を鑑賞する趣味はないので、取り下げさるつもりはないが。


 自分達がこうなったことがまるでシオンのせいだと言うように文句を呟く二人を誤って殺してしまわないように、精神統一で心を落ち着かせる。


 他人の言葉を聞き流せる魔法が欲しい。


 そうだ!リーネットに帰ったら、そういう魔道具を作ろう。


 僕だけでは難しくても、叔父上の協力があれば完全したも同然。


 「ところでアルフレッド。後ろの荷はなんだ」

 「お気になさらず。いらない物ですので」

 「そうか。では私が貰ってやろう。勘違いするなよ。お前が処分に困っているだろうから仕方なくだ」


 貴族でなくなり平民となった。


 勝手に国を出ることはまだいい。勝手に他国との国境を超えることは犯罪。


 自ら犯罪者となった彼らには、金は必要だ。


 売りさばこうって魂胆が見え見え。こんなも感情を隠せない人間が元貴族だったなんて。


 上級貴族が聞いて呆れる。


 「大丈夫です。ここに捨てていきますから」

 「アルフ……」


 場所は止まった。森の中で。リーネットまでは距離がある。


 御者を叱責しようと降りた二人の足を水の槍で貫く。バランスを崩し受け身をとれないまま顔から倒れ、顎を強打。


 現状を把握しきれていないようで、魔物が襲ってきたと大騒ぎ。討伐しろと命令してくる始末。


 僕は自分を襲ってくる魔物以外を討伐するつもりはない。


 無駄な殺生は避けないとね。


 命は有限なのだから。


 僕の二人を見る目は冷たい。見下しながら馬車を降りて、同じく冷たい目で一瞥した従者に声をかける。


 「出してあげて」


 荷台から乱暴に降ろされたのは元侯爵の子供。ブルーメルの血を引く者。


 騒がれるのは嫌なので気絶させたまま、拘束して放り込んでいた。


 「貴様!!私の娘に何をした!!」

 「へぇ。自分の怪我よりも娘の心配するんだ」


 普通に感心した。この人は自分ファースト。家族であっても自分が助かるためなら平気で犠牲にするクズだと思っていたのに。意外にも家族愛に溢れていた。


 その愛情を一欠片だけでもシオンに向けていたら。


 どんなに過去を振り返り嘆いたところで、何も変わらない。起きたことが全て。


 僕がシオンを助けられなかったことと、コイツらがシオンにしてきたことは同罪。


 父上から手紙が届いたとき、本当はその日に帰りたかったけど罪人を裁かずして帰るのが嫌だった。


 真実が明らかになれば小心者のブルーメルの血を引く連中は、自分達がシオンにしたことが罪になるのではと父親に助けを求め実家へと帰っていたのだ。


 単細胞の行動パターンは読みやすい。待ち伏せして、軽く電流を流して気絶させた。

 人目につかないうちにさっさと荷台に放り込み、これまでお世話になったグラン伯爵にお礼を言って僕は……シオンがいるリーネットへと出発。


 ──そういえば。なぜか娘の一人の声がやけにしゃがれていたな。


 「僕はね。シオンを泣かせた奴を、絶対に許さない」


 胸ぐらを掴んで威圧するように魔力を放出した。上から押し付けるように加減はしない。


 上手く息が吸えずに口をパクパクさせながら恐怖に顔が歪む。


 這ってでも逃げようとする夫人を炎で囲んだ。小さな悲鳴を上げて、気絶した娘を起こし助けを求めようとするもまだ当分は起きない。


 「たかが伯爵如きが!覚えておけ!!」

 「覚えておく、とは?」


 爵位もない。魔法もなくなり、コイツらにあるのはシオンを傷つけた罪だけ。


 たかが平民が


 「このアルフレッド・リーネットを脅すのか?」


 癇に障り、痛みを与えるように掴んだ胸ぐらから皮膚を焦がす程度の威力で電流を流してやれば森中に響く悲鳴を上げた。


 鳥は一斉に羽ばたく。森に住む小動物も姿を隠す。


 血を流し穴の開いた足には倍の痛みがあるらしく、気絶する暇もない。


 「僕はシオンを愛しているんだ。これから先の未来、守っていきたいと思っている」

 「は、はは。そうか。私の目に狂いはなかったようだな。お前からは高貴なオーラが見えていたんだ」


 フルネームを名乗るとすっかり僕の正体を信じた。


 「ハッ。面白い冗談だな」


 この期に及んでまだ僕と対等、僕より上からものを言う元侯爵の首を締めるように手を当てる。指先に力を込めれば大袈裟に抵抗をし始めた。


 「殺すわけないだろう?僕がお前のような穢らわしい人間を。手が汚れるじゃないか」


 パッと手を離し、助かったと安心する元侯爵の顔面に一撃を入れる。


 鼻が折れた感触があった。前歯も一本折れて、初めての衝撃に瞬きの回数が増える。


 「そうそう。この森ね。厄介な異種魔物が生息しているんですよ。知らなかったでしょ」

 「厄介……?」


 炎を鎮め娘二人は足の腱を切った。わざと深く傷をつける。肥やしにもならない血が土に染み込んでいく。


 魔物の詳細を教えてあげる義理はない。

 

 「それでは皆様。お元気で。命があれば、またいつかどこかで」


 嫌味なほどに清々しい笑みで別れを告げた。もう二度と会うことのない、僕にとってはどうでもいい命。


 どうせ助かりはしたいのだ。残された僅かな時間で、せめてシオンに詫びればいい。


 「ま、待て……待ってくれ!アルフレッド!!」

 「お前如きが気安く僕の名を呼ぶな」


 魔法のない人間がこの森を生きて抜けられる確率は限りなくゼロ。


 縋ろうと伸ばされた手が僕に触れる前に、水の柱で遮った。


 シオンは助けを求めることさえ許されなかったというのに。虐げてきたコイツらは、当たり前のように縋り助けを求めた。


 ──反吐が出る。


 これ以上は言葉を交わす必要もなく、待ってくれていた従者にお礼を言って馬車に乗り込む。


 血の匂いに誘われ魔物が群がってきたのを確認した。あの足で逃げられるわけもなく、奴らは魔物に噛みつかれる。聞くに絶えない悲鳴を上げて、もう僕に助けを求めるどころではない。


 いい歳をした大人が涙や鼻水を垂らしながら泣き叫ぶ姿は滑稽。


 つい笑みが零れてしまう。手で口元を隠すも堪えきれない。


 声は段々と遠くなる。気配がなくなると自然と表情も戻った。


 「あの異種魔物はかなり特異なんだよなぁ」


 どこだったかな。西かどこかの大陸で同じ魔物が出現した。その魔物は普段は無害。人間を見ても興味を示さない。危害を加えると襲ってくるので生息区域に入れないよう柵を作ったと聞く。


 その異種魔物がいつからこの森で生息しているのかは記録にはないが、目撃はされている。


 血を好む魔物は生きている内に全てを吸い取り、肉体が干からびるまで木に吊るす。血が通っている状態が好物なのか、まず最初に食すのは目玉。


 シオンがいなくなった今、リーネットとの国境が繋がる北の森には魔物が大量発生していた。


 森はすぐさま立ち入り禁止となり、騎士団が見回るほどに事態は急変。


 人手や準備不足。しばらくは四苦八苦することだろう。


 間違っても協力を要請してくることはない。

 だってこれは他の誰でもない、自分達で撒いた種なのだから。


 まぁ、どうしても無理そうなら騎士を派遣してもいいかな。


 これでもお世話になった身だし。


 受けた恩を返すだけなら、叔父上も文句は言わないはず。


 「死ぬかなぁ」


 僕は自他共に認める一途だ。好きになったものはとことん好きだし、傷をつける奴は絶対に許さない。


 誰かを好きになったら幸せにする自信しかなかった。僕にとってシオンは、僕の全てを懸けて幸せにしたい唯一。


 そのシオンを泣かせたアイツらは、己の罪を償うべきなんだ。


 「死ぬでしょうね」


 僕の独り言を拾った従者はどこか呆れ声。


 「殿下の性格の悪さだけは、どうにかならないものですかね」

 「性格が悪い?むしろ優しいでしょ」


 本来なら王家も含めた全員を罰せられるべきなんだ。もちろん僕も含めて。


 それを、たった四人を森に放置するだけなのだから、優しいというか甘い。魔物に襲われたのは不運だっただけ。


 僕はちょっと足を怪我させた程度。命までは奪っていない。


 幼馴染みでもある従者はこうして二人のときは態度や言葉遣いが崩れる。

 僕としては四六時中、お堅いままでいられるよりずっといい。


 忠誠心も高く、僕が間違っていると判断すれば立場関係なく注意や助言もしてくれる。何度助けられたことか。

 僕を支えてくれると誓ってくれた。僕はそんな彼に恥じないように生きていかなくては。


 「優しいというのはシオン様のような人を指すんですよ」

 「ねぇ。リーネットでシオンはどんな感じ?泣いてない?大丈夫?」

 「私はそこまで関わっていないのですが、レクシオルゼ様が女神のように美しいと大絶賛されておりました」

 「あーー!わかる。シオンの美しさは世界で一番なんだ。でもね!天使のような可愛さも兼ね備えているんだよ」

 「はぁ、そうですか」

 「それにね」

 「殿下!一秒でも早くお帰りになりたいのですよね?スピードを上げますので、舌を噛まないよう口は閉じていて下さい」

 「うん。そうだね」


 異種魔物に喰わせ……後処理を任せるためにわざわざ生息しているこんな場所まで遠回りをしたんだ。

 運が良ければ襲われないし、生きられるかもしれないが見込みは薄い。


 日頃の行いの悪さが原因だろう。責められる理由はないな。


 それにどうせ、生きていても白い目を向けられるだけ。恥辱にまみれた人生を送るくらいならいっそ、命を捨てたほうがマシだ。


 死ぬことによって初めてシオンの役に立てる。後悔も反省もしないならせめて、一度だけでも役に立つべき。


 シオンが生きていく世界に、シオンを傷つけるだけの人間はいらないんだ。


 アイツらがこの世からいなくなったとシオンに告げるつもりはない。今はまだ。


 いつか……。時間が過ぎ去った未来で、命を落としていたと教えてあげるんだ。


 あくまでも自然に。


 逃亡の末に魔物に襲われたと真実の一部を削って。


平民が魔物に殺されるなんて、よくあること。


 圧倒的に助からない人が多いだけで。

 ──シオンは喜んでくれるだろうか?


 受けた傷は簡単に癒えることはないけれど。ほんの少しだけでも、心が軽くなってくれたのなら。


 目を閉じて浮かんでくるのは、たった一人の愛する人。


 四人のおかけで帰るまでに一日以上の時間を要することになったじゃないか。


 早く帰らないと。シオンに会って、想いを伝えるんだ。


 僕は君を愛している。一緒に未来を築き歩んで行きたいと。


 リーネットとハーストを繋ぐ国境に兄上の森林魔法で作られた大木が塀の役割を果たていると知るのはまだ先のこと。


 馬車は進む。


 さぁ、リーネットまでもうすぐだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ