天に届いた願いと祈り。生まれてきてくれて、ありがとう
「本当に来るのか」
一年が過ぎたある日。夢を見た。
リーネットから五日ほどで着くエーフェリル国の子供が二人、西の国境で異種魔物に襲われる。
夢というよりかはお告げに近い感じではあったな。目が覚めて、行かなくてはと思ったんだ。
勝手に行動すると後で怒られるので、レイとオルゼに話して着いてきてもらう。深くを聞かれることはなかった。聞かれても困るのでそれは助かる。
ぼんやりとした景色。顔の見えない二人の子供。私はそのどちらかに会いたくてたまらない。
見晴らしの良い荒野の向こう側から荷馬車が走ってきた。子供が乗っている可能性があるので、睨むのはやめて欲しい。
国境よりも遥か手前で突然、大地が割れ巨大なサソリみたいな荷馬車を襲う。転倒し中にいた子供が外に投げ出された。
レイとオルゼはいち早く馬に乗り駆けつける。夢…よりも遠い場所なのでギリギリ間に合わない。
女の子を刺そうとする毒々しい針のような尻尾を、男の子の水魔法で攻撃するも効いてはいなかった。
魔物の意識は男の子に向く。
両手を前に出し、魔物を飲み込むイメージを浮かべる。集中するために閉じた目を開けば、走る馬の上に立ったオルゼが魔物目掛けて聖剣を投げていた。黄金の光を纏いながら一直線。
心臓を貫き大きな体が倒れる。衝撃で土煙が舞い一瞬、視界が遮られた。目を凝らしてよく見れば、魔物は起き上がり怒り狂っているのか、尻尾を地面に叩きつけているみたい。
異種魔物の中でも更なる変異体。心臓がない魔物。不死身というわけではない。
「充分だ、レクシオルゼ。これならば間に合う」
紅蓮の炎が魔物だけを取り囲み、高熱で肺にしてしまう。魔物は跡形もなく消え、脅威は去った。
私達も急いで駆け寄ると、男の子が女の子に手を差し伸べているところだった。
薄いピンク色の髪をした女の子と目が合う。さっきまでの不安や恐怖から灰色の瞳は揺れている。
ドクンと心臓が跳ねた。まるで時間が止まったかのように、静まり返る。
一歩、一歩。ゆっくりと歩み寄り、頬に手を伸ばす。しゃがみ込んで目線を合わせた。
「貴女、名前は?」
声が震えた。緊張が伝わらないように出来るだけ平静を保つ。
その間にオルゼが荷馬車を起こしていた。荷物に損傷がないかを確認している。
「セリシール、です」
可愛らしい声。歳は五~六歳といったことろかな。
辺りを警戒するように荷馬車から降りてきたフワフワで真っ白な毛並みの猫。ノアールも私と同じようにその猫を見つめる。
「あの子は?」
「ブランシュです。私が飼っている」
──あぁ、この二人は……。
藤兄に聞いたことがある。
外国語でノアールは黒。ブランシュは白。
ノアールが意味する色が黒であることは当たり前に知っていたけど、対照となる白は知らなかった。
私の質問に悩むことなく答えてくれた藤兄のカッコ良さ。きっと忘れることはない。
涙が溢れた。そして、抱きしめた。
「あ、あの……?」
私の願いとヘルトの祈りが天に届いた。
溢れ出る想い。伝えたいことがある。セリシールは戸惑いながらも私を突き放したりはしない。背中に回そうとした手は途中で止まり、どうしていいかわからない様子。
「生まれてきてくれて、私と出会ってくれてありがとう。セリシール」
私とノアールだけがわかる。この子はシオンの生まれ変わり。
痛くて苦しい記憶のない、これからの人生、幸せになる普通の子。
「私、祈るから。セリシールが幸せになるように。笑顔を絶やすことなく生きていけるように」
それは約束ではなく誓い。
もう二度と、シオン……セリシールが「生まれてこなければ良かった」などと口にしないように。
ありがとう、ヘルト。
私とセリシールを出会わせてくれて。




