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偽物令嬢〜前世で大好きな兄に殺されました。そんな悪役令嬢は静かで平和な未来をお望みです〜  作者: あいみ
最終章

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93/121

幸せと共に未来へ

 今日はアルフレッドの婚約者お披露目パーティー。階級に関わらず貴族は勢揃い。普段は王都にいない、領地や辺境で暮らす貴族も今日ばかりは集まっている。


 ──私は貴族ではないのに、ここにいていいのだろうか?


 今回は派手さのない青いドレスに身を包む。前回の黒いドレスが良かったけど、同じドレスを二度着るのは好ましくないと却下された。


 別によくない?もったいないじゃん。一回しか着ないなんて。


 王妃様から新しいドレスが何着か届けられたけど、今回はフェルバー商会から買い付けた。


 というのも、フェルバー商会はリーネットに移住し、私が暮らすモーイの街を拠点に商売をしている。私が贔屓にしているからなのか、国の外からもお客が押し寄せてくる人気っぷり。


 ブレット達は住み慣れた自国を離れないと思っていたから、私はリーネットに来てほしいと言えなかった。それがまさか、来てくれるなんて。


 私がお願いしたわけではない。レイが……。彼らを不問とする条件に付け加えたのだ。フェルバー商会とその家族をリーネットに移住させると。ただし残りたい人には強制しない。


 ──まぁ、みんな来てくれたけどね。


 国を見限ったと言えば聞こえは悪い。決別したのは国ではなく過去の自分達。


 苦しみ傷ついた私に何もしなかった卑怯な自分を隣国に置いて、これからは私の助けになるために国境を超えてきてくれた。


 「シオン」

 「あれ。今日は騎士団の制服じゃないんだ」

 「みんなそうだよ。ほら」


 グルっと会場を見渡せば数人の兵はいるものの、騎士団はいない。


 いるにはいるんだけど、貴族として参加している。制服姿に見慣れすぎていて、誰も認識出来なかった。この事実はそっと胸にしまっておく。失礼だから。


 しばらくするとスウェロも会場にやってきて、一緒にアルフレッドを待つ。


 レイの姿がないのが気になる。ノアールもいないし、またおめかししているのかな?


 赤い蝶ネクタイがダメとなると、私とお揃いの青い蝶ネクタイをしてくるのかも。


 心ウキウキしながら楽しみに待っていると、国王陛下夫妻が入場し、その後にアルフレッドと女性が会場の視線を浴びながら登場した。


 アユラ・ソレーネ。たった一年で王妃教育を終了させた完璧な淑女。


 私の二つ歳上だから今は十八歳。


 元はスウェロの婚約者候補だったけど、リズに恋をしたスウェロを見て諦めて身を引いた。と、オルゼは語る。


 アルフレッドと目が合った。私に告白をしてくれた彼とは違う。王太子として微笑むアルフレッドに胸が痛んだ。


 私のことを吹っ切れたのかはわからないけど、お手本のような笑顔を浮かべるってことは、アルフレッドはまだ私のことを……。


 自惚れや勘違いであって欲しいな。


 「遅れてすまない。準備に手間取った」


 少し息を切らしたレイも来た。乱れた髪はセクシーで、令嬢や夫人は頬を赤く染めている。


 ──無自覚のモテ男はもっと周りを見るべきだ。


 「大丈夫ですよ。まだ始まっていませんから」

 「え?」


 始まってるよね。主役の二人はもう登場してるし。


 私の驚きに不審がられる。


 「誰も何も話していないのか」

 「だって叔父上が」

 「私は準備で忙しかったんだぞ。シオンとは今日まで会っていない」


 確かに。言われてみれば。


 魔法講座も開いていないみたいだし。最近、レイの姿を見た記憶がない。


 ……準備とは?この会場のことかな。


 クラッカーのようなパーン!って弾ける音がした。私だけがビクッて驚き反応していたことが恥ずかしい。


 スウェロが音魔法を発動した。何の嫌がらせだったのか。振り向くとオルゼが一歩前に出て、その手には何かが握られている。


 「シオン。これを受け取ってくれる?」


 神社で売っているお守りに似ている。


 無地で文字が書かれているわけでもない。地味ではあるけど手作り感満載なので貰えるなら嬉しいんだけど。


 「兄様みたいに完璧じゃないけど、一生懸命作ったんだ」

 「オルゼが作ったの!?」

 「不格好だからシオンには似合わないかもだけど」

 「ううん。嬉しい。本当よ」

 「私もレックと同じなんだけど」

 「え、あ、うん。ありがと……?」


 比べてしまうと、こう……ね。うん。ブレゼントは心だから見た目とかではない。


 で、なんでくれるの?貰うけどさ。


 「それね。お守りなんだ」

 「えー……っと?」


 それはわかるよ。私が知りたいのは健康、金運、恋愛、その他諸々。持っているとどんな効果があるのか。


 わざわざ作ってくれたということは効力はあるはず。


 「ないとは思うけどさ。シオンが攻撃されたときに私達の魔法が盾になって守ってくれるんだ」


 本物の《《お守り》》だった。


 「俺はカウンターで作りたかったんだけど、そんな器用じゃないから」

 「ううん。守ってくれるだけでいいよ」


 オルゼのカウンターだと相手がどうなるか。


 これも魔道具の一種だろうから込める魔力によって威力は変わってくる。最大限、満杯になるまで注いだはず。


 ──相手が瀕死になる光景が目に浮かぶ。


 「私は絶対に盾にしろと言われてね」


 残念がられても。そのほうがいいに決まっている。もう会うことのない彼らの顔を浮かべながら作ったんだろうな。


 アクセサリーにしなかったのは私の好みに合わなかったら困るから。


 本来はその人が常に身に付ける物に付与するのが一般的ではあるけど、私のブレスレットには既に通信魔道具が付けられているため、お守りの付与は不可能。


 私のためにお守りの形で作ってくれたのだ。


 何も起きなくても肌身離さず持っておく。私のために作ってくれたお守りだもん。


 「シオン嬢。私達からはこれを」


 上から下りてきた王様と王妃様の私よりも少し大きな手が私の手を包み込む。


 青と黄色の火花が螺旋を描くように回る。そのまま手の甲に吸い込まれるように消えていく。


 「これはシオン嬢に敵意を向ける者にのみ発動する魔法だ」


 お守りの力を物ではなく直接、私に刻んだということか。


 他人に魔力を流すのはとても不快で違和感を覚えさせるため、むやみやたらと使えるものでもない。


 このやり方はレイにも不可能。王様と王妃様だけが扱える守護魔法と呼んでいるらしい。


 「シオン」


 私を呼ぶアルフレッドの声は緊張していた。声をかけたはいいけど迷惑なのではと戸惑っている。


 告白をされてからアルフレッドとは一度も会っていないため、私達の関係性に進展もなければ変化もない。


 友達というにはそこまで親しいわけでもなく、ただの顔見知り。王太子直々に声をかけてもらえる仲じゃないことも周知の事実。


 隣にいるアユラに背中を押されて一歩だけ前に出る。深呼吸で気持ちを整えた。


 「このパーティーの主役は君だよ、シオン」

 「え、私……ですか」

 「叔父上から全部聞いた。君がアイツらに何を言われたのか」


 アルフレッドが悲しく笑うから……。


 私はハッと息を飲む。


 アルフレッドが登場したにも関わらずパーティーはまだ始まっていないと言った。


 私を守る魔法が付与されたお守りと守護魔法を貰った。


 そして主役は私。


 このパーティーは誰にも望まれず生まれてきた私を、祝うためのもの。


 私という存在は生まれてきて良かったのだと、ここにいる全員が思い祝福してくれている。


 「ごめん。僕は君の近くにいたのに」


 クローラーと友人で、公爵家にも遊びに来たことがある。すれ違うことすらなかったけども。


 私を助けられる距離にいながら、助けられなかったことを悔いる。弱さでは不甲斐なさを。愚かにもクローラーの嘘を信じてしまったことも。


 「謝らないで下さい。悪いのは殿下ではありませんから」


 一度目を伏せて様々な想いや記憶を巡らせる。アルフレッドの思考の邪魔をしないように一切の音が消えた。静かに見守るだけ。


 沈黙を壊さないように、誰もが息を止めているんじゃないかと心配になるほど呼吸が浅い。


 圧をかけないように穏やかな空気が流れる。


 「そんな優しい君だから僕達は君を……シオンを守りたいんだ」


 アルフレッドの周りから青いオーラのようなものが流れてくる。


 頭から順に体を包む。金粉でも混ざっているのかキラキラと光る様が美しい。


 レイだけじゃなく、他の人までもが口を開けて驚いていた。アルフレッドが私にした今の行為について。


 「闇魔法からしたら僕の水魔法なんてちっぽけなものだけど。これから先、シオンが水の恩恵を受けられるように水の加護を与えた」


 水の加護は水不足に陥ることも、水の事故で命を落とすこともなくなる。


 五大属性の魔法にも加護はあるそうだ。


 闇魔法と違って国そのものに影響を与える大きなものではない。一人、頑張って二人にのみ与えられるもので、属性によって効果が違う。


 要は炎なら火、風は風、土は土、雷は雷といった具合に命の危険や、身の回りにある何かしらにプラスの力が働く。


 炎で焼け死ぬことも、嵐で被害に遭うことも、土砂で生き埋めになることも、落雷で失うこともなくなる。


 加護というだけあって、与えられる人は早々現れない。


 アルフレッドが水の加護を使えるのは攻略対象という点が大きいのだろう。周りの反応を見るにこれまでに片鱗すらなかったのに、今突然、急に使えたっぽいな。


 婚約者の前で他の女性を特別扱いしてもいいのかと不安がっていると、アユラは気にしている様子はなかった。


 加護はアルフレッドが死んだ後も消えることがない。


 こんなにも素敵な物ばかり貰っても私には何も返せないのに。


 リーネットに加護を与えたのも、魔物被害を失くし人々の安全を保証したのだって闇魔法であり私ではない。


 そのことをわかっていながら、どうしてこんなにも私に良くしてくれるのだろうか。


 オルゼ達だけではない。騎士団員や他の貴族も私にプレゼントがあるらしく、我先に渡そうと集まってくるも大きな物は邪魔になるからと許可はされていなかった。後で家に送るようにと念まで押されて。


 団員からはオルゼに対してのみ不満がぶつけられるも、自分は小さいサイズだからいいのだと暴君のようなことを言い出す。


 ──聖剣に選ばれた清く正しい心の持ち主、ねぇ……。


 「レイは?くれないの?」

 「…………欲しいのか」

 「ううん。特には。レイからはもう貰ってるから」


 生まれてきて良かったと、欲しかった言葉をくれた。形じゃなくても私の心にずっと残り続ける。


 私は生きていていいのだと希望の光が差した。


 「義姉上、お願いします」


 王妃様はニッコリと微笑み、会場の壁一面に水のスクリーンを作り出す。


 そこに映るのはここにはいない平民の姿が。向こうの声も聞こえるので全国民が集まっているかのよう。


 「聖女……シオン様!リーネットに来てくれてありがとう!!」


 投げかけられる感謝の数々。


 意地の悪い宰相だ。私のことを泣かせにきている。


 「なぜ睨む?」


 反抗するかのように耐えていると、何かが宙を舞っていた。それも一つじゃなくて沢山。


 手に取って見ると、四つ葉のクローバーだった。


 雪のように降り注ぐクローバーに誰もが上を見上げる。


 「四つ葉のクローバーは幸運とされている」


 ──知っています。


 どんなに探してもこんな大量のクローバーを見つけた試しがない。一枚あればラッキー。


 私は人生で四つ葉のクローバーを見つけたことはないけどね。


 結局、欲がある人間の元に欲しい物は現れないということか。


 「叔父上の趣味はね。花の品種改良なんだよ」

 「何それ!可愛いっ!!」


 心の声は大音量で口から発せられていた。


 顔に似合わず…………。男性にしては意外な趣味。個人の温室を持っており、そこで三つ葉を四つ葉に改良するため半月間、仕事をスウェロに任せて温室に篭っていた。

 満足な食事を摂らずポーションで空腹を満たしていたことに王様はご立腹ではあったものの、私のためという名目であったために怒れなかったという。


 クローバーは天井に繋がった空間から降っていて、ナンシーが協力者。


 「屋外のほうが直接、彼らの顔を見られたんだがな。空間を広げる範囲が広いと長時間持たないんだ。こちらの都合を押し付ける形となってすまない」


 謝る要素はどこにもない。むしろ顔が見られるように考えたのが水のスクリーン。


 王妃様の魔力を流した水を各村や街に配置することで、こうして姿を映す。この魔法習得するために王妃様も半月間、頑張ってくれていた。


【シオン!シオン!】


 人の間を縫って走ってくるノアールは勢いよく胸に飛び込んできた。


 青い蝶ネクタイが私ドレスとお揃いの色であることに興奮して喜ぶ。毛並みもサラサラでどんな高級をブラシを使っているのか。私にくれないかな。


【アーク!早く!!シオンに渡して!!】


 アーク?新しい人と仲良くなったのかな。


 みゃあみゃあと鳴くノアールに癒される人が続出。ほっこり顔と温かな目。


 パタパタと激しく動く尻尾。急かすような鳴き声。


 「アークさん?ノアールが渡してほしい物があるみたいなんですが」

 「よりにもよって中途半端なところを区切っているのか」

 「あ、レイのことなんだ」


 そうか。名前はレイアークスだもんね。忘れていたわけではないけど、いつもレイと呼んでいるからピンとはこなかった。


 「これはノアールからだ。加工のために私が多少、手を加えはしたが」


 小さな木箱。蓋には月と星が掘られている。この形状とサイズ。中身はきっと……。


 受け取り、震える手で、緊張しながら開けた。誤って落とさないようにしっかりと持って。


 中にはシロツメクサで作れた指輪。


【指輪はね。ずーーっと一緒って証なんだよ!】


 知識を披露するノアールのドヤ顔と、さりげないプロポーズ。


 自分では作れないから数ある中でノアールが私を想い選んでくれたに違いない。


 ノアールの代わりにレイが作り、生まれた私の色を否定しないよう白銀に染めてくれた。萎れてしまわないように加工までしてくれて。


 ずっと一緒。それは永遠の愛。私なんかにはもったいない贈り物。一生分の幸運を使い果たしかのように幸せで溢れている。


 「降り積もるクローバーよりも、シオンの未来を幸せにすると、我々リーネットは誓おう」


 レイの誓いに賛同するかの如く、力強く皆が頷く。


 十六年経ってようやく、私が生まれたことを祝福してくれる人達と出会えた。生きていいんだと言ってくれる人達がこんなにもいてくれる。


 嬉しくて泣きたいのに涙は出ない。代わりに微笑んでいた。子供のように、無邪気に。


 言葉を返すべきだったんだろうけど、笑顔を作るだけで精一杯。そんな私の気持ちを汲んでくれるのだから、この国の人はみんな優しい。










 ꕤ︎︎





 私の日常はいつもと変わらない。


 青い空と白い雲。燦々と輝く太陽に照らせれ、夜になれば月と星が現れる。


 人々が迷わないように、暗闇を照らす光。


 「シオン様~!遊ぼ~!」


 街の人は私を聖女と呼ぶことがなくなった。


 名前で呼んだほうが私は喜ぶと教わったらしく。あのパーティー以来、私を聖女と呼ぶ人はいなくなった。それはそれで寂しい気もするけど、やっぱり名前で呼ばれるほうが好きだ。


 「ごめんね。今、ハンカチに刺繍してるから、終わったら遊ぼ」


 駆け寄ってきた子供達は悪気のない純粋な質問をぶつけてきた。


 「この黒いの何?」


 ハンカチを見ては首を傾げる。


 器用でもなければ美的センスもない。美術の成績で平均さえ取ったことのない私でも、好きな人なら完璧に仕上げられると自信に満ちていたのに……。


 理想と現実は重ならないものだ。


【これ、ぼく!?】

 「ええ、そうよ」


 黒い塊をノアールだとわかってくれるのは本人だけ。嬉しいような悲しいような。これでも頑張ったほうではあるけど、かろうじてでさえノアールに見えないことが大問題。


 思っている以上に下手だとしても、心が折れてやめる選択肢はない。


 「休憩!休憩するの!」


 針を持った私の手を引っ張ることはないけど、どうにか遊んでもらおうと必死。


 休憩ならいいか。朝からずっと座りっぱなしで体も痛いし。


 ノアールから貰った指輪をハメると私の指にフィットするように大きさが変わる。


外すときは魔力を込めればいい。傷がつかないように保護みたいな加工までしてくれているけど、針を扱うときは外すようにしている。


 家の周りに広がっていた緑はパーティーの日を境に少しだけ変化をもたらした。


 四つ葉のクローバーが風に吹かれる。たまに強風が吹くと数本が宙を舞い飛んでいく。ノアールはそれを追いかけるのが好きで、私は微笑ましく見るのが日課。


 柵の向こうには美しいリーネットの街並みが広がっている。


この景色の素晴らしさを教えてもらっていなければ、私はここにはいなかった。


 優しさに疎かったせいで、私はブレットの優しさに気付かないまま、自分勝手な怒りで傷をつけた。


 人は過去には戻れない。仮に戻れたとしても、傷をつけた事実が消えるわけでもないのだ。罪を背負って生きていくことで償うしかない。


 私の味方でいようとしてくれた、味方で在ってくれたフェルバー商会はノアールの次に大切な人であるとようやく気付いた私は、やっぱり鈍いのだろう。


 私には生まれた意味はなかったかもしれない。生きる理由も。


 蔑まれ疎まれるほどに醜い容姿だったのだろう。


 死だけを望まれ生きてきた時間は痛みと苦痛でしかなかった。


 それでも……。私を縛っていた呪いが解けていく感じがする。がんじがらめの糸は解け、私が私を肯定していた。


 首を絞められ、体を踏みつけられる。心臓を握り潰そうする黒い手も、もうない。


 時々、過去を思い出すことはあるけど、呪いとなり私を苦しめることがなくなってきた。


 きっとそれはリーネットで暮らすようになり人の優しさと温かさに触れるようになったからだ。


 生きることを諦めないで良かったと思う。だってこんなにも幸せな毎日を送れるのだから。


 私達はもう二人ぼっちではないけれど。優しく温かい世界で、今日も生きていく。


 私の未来と幸せを守ると誓ってくれた、愛しい彼らの幸せを祈りながら。

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