愛をくれる人
王太子が帰ってすぐ。別の人が訪ねて来た。
見た顔だ。
金髪に……金眼。瞳の色だけが違う。
扉を開けた向こうにいたのは、風に髪をなびかせて泣きそうな、嬉しそうな表情を浮かべた……
「アルフレッド……殿下」
彼はもう先輩ではない。アルフレッド・リーネットとして私の前に現れた。瞳の色がその証拠。
「リーネットにいたのか」
まるで私に会いたかったかのような口ぶり。
アルフレッドは背中に隠していた花束を差し出した。
真っ白な薔薇がよく映えるほどに顔が真っ赤。手も震えている。
「シオン。君のことが好きです」
「……え?」
私は今、告白をされたのだろうか。ドッキリではなさそうだ。周りに人の気配はない。
アルフレッドは攻略対象者。ユファンを好きなはず。ということはこれは、ユファンが修道院に入る原因を作った私への復讐。
幸せ絶頂期、結婚当日にでも殺されるのだろうか?
「って、いきなり言われても困るよね」
アルフレッドは苦笑しながら頬を掻く。
目が合うだけで初心な反応をされると、本当に私のことが好きなのではと思ってしまう。
立ち話もなんだから中に入るよう勧めた。中を確認して人がいないとわかると、未婚の男女が二人きりで室内にいるわけにはと断られてしまう。
──ノアールがいるから三人だけどね。
小さいながらに存在を主張しようと胸を張っているのが微笑ましい。
顔だけではなく耳も首も赤くして、私を好きになった理由を語ってくれるアルフレッドの想いが本物であると知る。
入学式で花を付けてくれたのも、ユファンを突き落とした噂に流されることなく信じてくれたのも、私が好きだから?
生涯、私には無縁だと思っていた恋愛。厚意ではなく好意を向けられるなんて誰が予想した?それも攻略対象者に。
魔法でもなければ、外見で判断したわけでもない。私を見て好きになってくれた。
ユファンとその母親と偶然にも出会ったあの日あの場所に、アルフレッドもいたそうだ。
遠くにいて会話が聞こえたわけではないけど、千年前のこともありユファンのことをかなり警戒していた。
既に魅了を習得していて周りの人間を操っているのではないかと。
杞憂に終わったとひと安心した矢先に私が泣いてしまうものだから、アルフレッドにとってユファンは敵となった。
魅了から逃れる方法は所有者より魔力が高いことが絶対条件。
まぁ、そうだよね。貴族ならともなく王族の魔力を上回るなんて、主人公補正がかかっていたとしてもありえない。子供が生めるように同等の魔力は持っているかもしれないけど。
「僕は君が辛いときに助けられなかった。見て見ぬふりをしたいわけじゃないのに、なぜか足が動かなかったんだ。本当にごめん」
悪女に味方がいるのは許されないことの一つ。
アルフレッドとメイの違いは立ち位置。隠れキャラとはいえアルフレッドは攻略対象。
私と親しくすることはシナリオに反する。片やメイはそこまで影響力があるわけではない。言い方は悪いけどモブなわけだし。
クローラーの友達でありながら私と一度も顔を会わせたことがなかったのも、運命を捻じ曲げないための軌道修正。
「アルフレッド殿下は悪くありません。ですから謝らないで下さい」
アルフレッドは首を横に振った。ユファンでさえゲームの力には抗えないのだ。
いくら攻略対象といえど他の人が体の自由を奪われても不思議ではない。
ほんと気にしないでいいんだよね。
だって自らの意志で私を無視していたわけじゃないんでしょ?助けたいって思ってくれていた。それだけで嬉しいことだもん。
行動に移せなかったことを悔いるアルフレッドに、助けようとしてくれた気持ちだけで充分だと本音を伝えた。
「どうして君のような優しい人を、連中は虐げることが出来たんだろう」
「私のことが嫌いだから。それだけです」
髪の色も魔法も、存在そのものが気に食わない。難しく考えることはなく、単純な考え方で答えは導き出せる。
「僕は君が好きだ。世界で一番愛している」
一世一代の告白に、アルフレッドの緊張が私にも移った。
「ありがとう」や「ごめん」よりも「好き」と伝えることのほうが勇気がいる。
恋人になるためには告白をして、夫婦になるためにはプロポーズをしなくてはならない。
当たり前のように手を取り合い愛し合っている人達は、勇気を出したんだ。愛する人の隣にいるために。
私が欲しかった愛情とは異なるけど、アルフレッドは私に愛をくれようとしている。
粉々に砕けた心の欠片を拾い集めては、新しい形になるように作り直そうとしてくれていた。
誰かを好きになる気持ちも、好きになってもらえることも、私には関係ないものだったのに。
愛しているなんて、そんなの……。嬉しいと恥ずかしいが混じったような感情が渦巻く。
アルフレッドの緊張のせいで私も緊張してきた。
玉座を継ぐ王太子が自らの感情に素直になり、想いを告げることには勇気がいる。
少女漫画育ちとはいえ、現実の恋愛とは違うものだ。告白されて嫌な気持ちになることはないけど、返事に困り悩む。
私のほうから目を逸らすと、ノアールが肩に乗り頬ずりをしてくれた。大丈夫だと言ってくれている気がする。
本気の想いに嘘偽りを交ぜた言葉で返すのは失礼。
誰よりも濃い金色の瞳を真っ直ぐと見つめた。
「殿下。ありがとうございます」
白い薔薇を受け取った。きっとこれは私の髪の色を意識してくれている。
醜いと誹謗中傷を浴び続けた私の髪色は、綺麗であると。
──ここにもいた。私の色を嫌わない人が。
熱を帯びた瞳は眩しい。アルフレッドが歩み寄ってくれたとき、私も心を開くべきだったと後悔した。
「殿下のお気持ち、とても嬉しいです」
私の答えは……。




