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偽物令嬢〜前世で大好きな兄に殺されました。そんな悪役令嬢は静かで平和な未来をお望みです〜  作者: あいみ
最終章

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罰せられる人々

 五日後のことだった。王太子が私を尋ねて来たのは。


 一切の関わりを持つことはなくなったけど、一度だけの面会は許されていた。これを最後に私はもう二度と、王太子と会うことはない。


 私達が向かい合っているのは王宮の一室ではなく、私の家でだ。


 護衛も、外に見張りもいない。


 せめてオルゼだけは待機させろと圧をかけられたけど、ノアールがいるから平気だと返した。そしてやはり不機嫌に舌打ちされた。


 強がりでもなければ嘘でもない。


 ノアールがいてくれたら心強いし、怖いことも乗り換えられる。

 何かあればすぐ連絡するようにと念を押されたけど、話すだけなんだから何もないと思う。


 口にしたらまた舌打ちされるから心の中に留めた。


 「シオン嬢。この度は私達のせいで本当に申し訳なかった」

 「頭を上げて下さい。全ての出来事が王家のせいじゃないんですから」

 「いいや。事実確認を怠った私達の責だ。悪女、その噂が流れたときに会いに行けば良かったんだ」


 確認をしなかったのはゲームの力が働いたせいであり、個人のせいではない。


何が何でも私を悪女にして、断罪させるために。


 ヒロインのために切り捨てられた存在(いのち)


 ここは私達にとっては現実の世界であっても、ゲームにより作られた世界でもあるということ。


 責任を感じられると、いたたまれないんだけど。


 ここはゲームの世界で、ヒロインであるユファンのために私の悪女として名が広がるのは誰にも止められないことだったから、気にしないでと言いたい。


 良い人を騙すのは心が痛む。


 公爵達でなければ、私がどんな支離滅裂なことを言ったとしても笑い飛ばすことなくまずは真剣に聞いてくれる。


 話してみる価値があるとしても、悪女になるためだけにシオンが存在していたと知れば、結局のところ王太子は私のために傷つき怒り、何も出来ない自分を責めるのかもしれない。


 新たに罪の意識を持たせるぐらいなら、沈黙を選ぶことが正解なのだろうか。私にはその答えが出せない。


 一つだけ言えることがあるとすれば、私のことで苦しんでほしくはないということ。


 謝罪なら充分に受けた。こちらが申し訳なく思うほどに。


 王太子は彼らの処遇について話してくれた。


 グレンジャー家とケールレルは爵位の剥奪。公爵はともかく、大公は納得がいっていない様子で食い下がってきたものの、エイダの一件もあり完全に信頼を失っていた。


 国際問題に発展しなかったのはエイダが大事にならないよう両親を説得してくれたから。


 そうでなければ爵位の返還だけで済むはずがない。


 そんなこともわからかいのか?と冷たく問われ、大公は甘んじて受け入れるしかなかった。


 大公家はなくなったものの妻の実家である侯爵家に身を寄せることになった。私が直接、何かをされたわけではないからそれくらいが妥当なのだろう。


 両家で働いていた使用人は完全に無職となった。新しい働き口も見つからず、実家でお荷物扱い。公爵家の数名の使用人は罪人として捕まった。


 屋敷内で特に、私に態度が酷かった人達だ。


 暴言な陰口だけなら見逃してもらえたが、階段から突き落としたり、食事に虫や毒草を入れて食べられないようにしたり、ドレスを引き裂きた挙句に宝石まで盗んだり。


 公女らしからぬ私を教育していただけだと言い訳をしていたらしいけど、命を危険に晒す行為は教育ではなく殺人であると一喝。


 殺人未遂、窃盗。それが使用人の罪状。


 公爵を始めとした四人は無期懲役……要は幽閉された。ヘリオンルートで、シオンが幽閉されるはずだった塔に。


 個別に収監するのは可哀想で四人まとめて一つの牢の中で一生を過ごす。


 魔法も魔力も失ったことで元気も一緒になくなったようだと王太子は語る。


 私への憎しみや殺意は消えていないので、彼らが自らの過ちを振り返り反省することはないだろう。


 ヘリオンは相変わらず私との愛を信じていた。


 私はリーネットで虐げられている。早く助けにいかないと取り返しのつかないことになると。


 私の母親だと名乗る女性も幽閉が決定した。


 子供のすり替えには同情の余地があったものの、その後に夫を殺させたことは悪逆非道。


 我が子に一目会うことも叶わないまま、都合が悪くなる未来を回避するために他者を巻き込んで事故に見せかけ殺害。


 牢屋の中で私を呼べと連日、叫んでいる。


 私が無理なら、私を愛している王弟と王子を。


 愛する私の家族が殺されかけているのだ。助けないわけがないと喚き散らす。


 図々しいことにレイを指名していた。


 娘に惚れているのであれば、母親である自分にも好意を抱いていると、よく意味のわからないことを叫んでいる。そういうタイプの人だったのか。なんか……怖っ。


 薄々感じてはいたけど、想像を容易に超えてくるのはやめてほしい。


 あまりにもうるさ……真剣すぎたためにその旨が書かれた手紙が届くも、“シオンの家族はノアールだけだが?”と何とも素敵な返事で本件は終了。


 ユファンは修道院に入ったそうだ。


 私と関わった人で唯一、何も奪われなかった。


 残りの何十年と続く人生を全て、他人のために捧げると決意をしていた。


 地道に魔法を極めて、いずれは最上級魔法である治癒魔法を習得してみせると意気込んでいる。


 誰かに感謝されるためでも、聖女になるためでもない。あの日、私に救われた命を恥じたくないらしい。



 「殿下。ユファンさんに護衛はついていますか?」

 「護衛?いいや。なぜ?」

 「あの国の人は噂話がお好きなようです。責任を誰かのせいにすることも。怒りをぶつける相手が牢獄にいるとなれば、矛先はユファンさんに向けられます。私情に流されない騎士を二人、付けては下さいませんか」


 流石に修道院内でいじめがあるとは思えない。


 しかもユファンが入った修道院は治安が良く、院長は寛大な心と慈悲深さを持ち合わせたまさに聖母マリアのような女性。


 他のシスターも院長と同じく慈悲深さがあり、どんな人間でも快く受け入れる。


 ──まぁ元々、ユファンは何もしていないのだからいじめられる理由なんてないんだけどね。


 守ってほしいのはむしろ、中ではなく外の人間から。


 彼らだけではないのだ。物事を誰かのせいにしたがるのは。


 レイに脅迫……宰相であるレイとの話し合いで攻撃をしたことを不問に処す代わりに隠していた真実を公にすると約束した。(させられたのほうが正しい表現なのかもしれないけど)


 全国民に届くよう風魔法に声を乗せて、語られた真実によりこの先の未来に不安を募らせる人が続出。


 これまで当たり前に続いていた平和は終わり、災害や病、魔物被害、望んだ天気。それらが牙を剥いたかのように猛威を振るう。


 誰かが口にした疑問。もう平和は訪れないのか。


 一欠片の希望も与えないよう冷たく「ない」と言い放つ。それはこれから、不幸になると宣言したようなもの。


 絶望の淵に立たされた国民は怒りと不安から、自分達を窮地に追いやった人間に仕返しをしたがる。


 幸か不幸か、その四人は幽閉され外に出ることは叶わない。ブルーメル侯……彼も爵位は剥奪された。もう侯爵ではないのか。


 彼らもレイに魔法と魔力を奪われた後から行方がわからないらしい。


 プライドは人一倍高いブルーメルの血を引く者は見下してきた人々に責められることに耐えきれず姿を隠したか、既に国を出て逃げたか。


 魔法も地位も失った彼らはこれまでと同じ生き方が出来るはずもない。幽閉されずとも、それだけで充分な罰。


 やり場のない怒りは別の誰かに向けられる。


 私と彼らとも関係があり、尚且つ行方が知れている唯一の人物、ユファン。


 暴力だけではなく、女性としての尊厳さえ失われるかもしれない今の状況でユファンを一人にしたらどうなるか。襲ってくれと言っているようなもの。


 王太子はバカではないので帰ったらすぐに護衛を付けると約束してくれた。


 もう既に日は経っているけど、まだ間に合うはず。今はまだ混乱しているけど、一ヵ月もすればユファンは犠牲になる。


 自分達のことを棚に上げて怒りに燃えるのは、私の恩恵を求めてリーネットに移住しようとしたが門前払いを食らったことが原因。


 国境警備の人数を増やしただけでなく、目を盗んで入り込めないように五メートルの壁で完全に侵入者を拒む。


 数日でそんな巨大な壁を国境に作るなんて神業、人間には不可能でしかない。本物が完成するまではスウェロの森林魔法で生み出した大木が壁の役割を果たす。


 「それと。千年前のことで伝えるべきことがあります」


 ヘルトと触れ合うことで初代の想い、隠れ埋もれた真実を見た。


 私が口を噤むことで、ユファンが第二の私になる。終わりのない暴力に苦しめられ、泣くことさえも許されない。


 生まれただけで罪になる人なんていないのだ。私はそう教わった。


 生まれてこなければ良かった命なんて、一人もいない。


 千年前の悲劇は一概に初代だけが悪いわけではなかった。ただ……やり方を間違えただけ。


 親友を助けたい思いが先走り、多くの犠牲を厭わなかった。悲劇を生むのではなく話し合うべきだったのだ。


 「本当に優しいね」

 「人よりも痛みに敏感なだけです」

 「シオン嬢。君は今、幸せなのか」

 「はいっ!」


 心からそう思う。


 生まれてきたこと、リーネットで生きられること。


 憧れるだけだった夢が叶った。理不尽に謝ってばかりの人生はもう歩まなくていい。


 私は……自由なのだ。


 死ぬことを望まれ、死を強要されるわけでもなく。私らしく生きてもいい。


 絶えず笑顔でいられることがこんなにも幸せだったなんて。


 受けた痛みはいつか薄れ、幸せの記憶で上書きされる。そんな日がくると私は信じたい。


 「こんなことを思う資格が私にはないけれど、君が幸せな日々を送っていて、本当に良かった」


 私は隣国のために祈ることはない。でも、私の身を案じてくれている人がいたことを忘れるつもりもなかった。


 立ち上がった王太子は最後に握手を求めてきた。これに応えたら彼は帰るのだろう。


 必要最低限の報告だけをして、謝罪と、もう二度と彼らが私と関わらないことを断言してくれた。


 「アース殿下。お元気で。」


 握手に応えるともう片方の手でも包み込んでくれる。握る力が強くなった。


 「ありがとう。ありが……」


 涙を零しながら繰り返し感謝を伝える。王太子にとって、愛すべき国民が救われたのは私のおかげだと。


 魔力暴走で人が死ぬことはほとんどない。終わりのない痛みと苦しみが死ぬまで続くだけ。


 ただ……。魔力が私よりも多い人は死んでいた。


 体内で魔力が暴れ、命を蝕む。実際に死んだ人がいないため死に方は推測でしかないけど、その人が持つ属性が刃となり内側から体を貫く。


 そんな感じなことを旅商人が話しているのを聞いた平民から、聞いた話。興味を引く話題ではあるけど、信ぴょう性には欠ける。


 色を帯びた刃はとても美しく、死体というよりかは芸術にも似ているとか。


 どこまでが本当かは今となっては検証のしようがない。


 私が祈らなければ真実を確かめられたと物騒な独り言を呟くレイは無視した。助けるよ。人として。


 「君のこれからの未来が、幸多からんことを願う」


 顔を上げた王太子はまだ泣いているものの、綺麗な笑顔を浮かべていた。

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