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レクリエーション

 レクリエーションという名の学校行事が始まった。


 ルールは簡単。ポーションを作る薬草を仲良く取ってくること。


 二人からは三メートル程の距離を開けた。これなら何が起きても誤解はされない。だってユファンの隣りにいるのは婚約者様だもん。


 これ以上ない証人。


 ユファンが口裏を合わせない限り私が無実の罪で裁かれることもない。


 どうしてこういう世界の裏山というのはこんなにも広いのだろうか。


 学校の裏に山があるのもビックリなんだけどさ。


 裏山はレクリエーション以外にも魔法の訓練をする場でもあり、所々に破壊された跡がある。


 ここで習った魔法をどこで活かすわけでもないのに、どうせ貴族に生まれた優越感に浸りたいだけなんでしょ。


「シオン様はどうですか?」

「え?ごめんなさい。聞いていませんでした」

「今日の放課後。三人で街にお出掛けしませんか?こうして同じ班になったのも何かの縁ですし」

「お断りします。用事があるので」

「そうですか……」

「シオン。そんなキツく言わなくてもいいだろう」

「では婚約者様がお二人で、行って差し上げては?」


 私は嫉妬しないので、どうぞご自由に。


 後からネチネチ言うつもりもないので、好きなだけどうぞ。


 こっちは無条件で生きられるあんたらと違って行動一つ一つに気を配らないと死に直行なの。


 ユファンは可愛いけど、ヒロインという立場である彼女と一緒にいたら絶対に誤解を生む。


 一年後を待たずして長男に殺されるなんてごめんよ。普段は冷静なのにシオンが関わると人が変わったように敵意が剥き出し。


 長男は一度だってシオンの言葉を聞こうとはしなかった。次男はまぁ一回ぐらいはあったと思う。


「シオン様も魔法の基礎はお家のほうで?」


 めっちゃ話しかけてくる。


 平民だろうがこの国にいれば私の噂は耳にしてるはず。


 どうして話しかけてこれるの。怖くないの?


 やめてよ。親しくなんてなりたくない。


「当然ですわ。私はこの国の公女。貴女とは育ちが違うのよ」

「いい加減にしろ。彼女は平民かもしれないが、このアカデミーで通うための魔力は持ち合わせている」

「そうでしょうね。私と同じできっと、独学で勉強して多少は使いこなせるようになったんでしょう」

「シオン様には先生が……」

「いないわよ。公爵様が私のために用意するわけない」


 ここまで家族との不仲を言っておけば何も聞いてこないはず。というか、聞いてこないで。


 婚約者様は私の家の状態を知っているからこの話題には触れようともしない。


 婚約者様の家と比べると、それほど私の扱いは悲惨なもの。


 見下してんのよね。要は。


 身分とか関係ないと口にしておきながら、嫌いな相手には許されるわけ?


 それとも私だけがダメで他の人はいいとでも?


 随分と自分勝手な思考回路をお持ちなことで。


 このままだと時間がかかりそうで一人で先に行くことにした。地図がなくてもゲームでの見た景色から場所はある程度目星がつく。


「待てシオン。勝手に行くな」

「婚約者様は彼女の手を引いて差し上げては?私は全っっ然気にしませんので」


 長男と次男なんかとユファンをくっつけたくない。婚約者様のほうがマシ。


 やたらと攻撃してこないし、私が何をしてもいちいち近づいてこない。


 お膳立てしてあげるんだから、くだらない噂に惑わされて私を幽閉なんてしないでよ。


 ──お、この景色。見覚えがある。


 あったあった。この薬草がポーションになるんだ。


 そういう専門知識は希望すれば教えてもらえるけど習いたいと思う生徒はいない。


 だって地味でキツい上に家に帰れない。寮のようなとこに住み込み。


 他人のための労働はやらない。だから研究員になるのは平民。研究員に求められるのは魔力ではなく知識だから。


 研究員になったら騎士団の人と会うこともあり目の保養になると説明に書いてあった。


 ストーリーの都合上、ゲームには一切出てこなかったけどきっとイケメン。


 あれだけハードル上げといてムキムキのハゲとかだったらやだな。


 公爵の権限なら用もなく騎士団寮に行けるけど、男漁りをしていると噂が立つのも困る。


 焦らなくてもいずれ運が良ければ顔は拝める。


 余計なことをして寿命を縮めるより、定着した悪女のイメージからいかに払拭するか。


 手当り次第に薬草を摘んで後ろに残してきた二人と合流しようと急いでると、最悪のシュチュエーションに遭遇した。


 私とユファン。


 ゲームでシオンがユファンを突き落とした崖。


 汗が止まらない。


 大丈夫だよね?何もしないし。


 心臓がすっごいバクバク鳴ってる。


 使えない婚約者様め。手ぐらいちゃんと握っててよ。


 あぁ、ユファン!こっち来ないでよ。


「シオン様は私が嫌いですか?私が平民…。だから…」

「はぁ。それは関係ないわ。そもそも貴女自体に興味がないの」

「そう…ですか」


 しょんぼりされると私が悪いみたいじゃない。悪いんだけど。


 こんな危険地帯はさっさと離れるに限る。


 背を向けた瞬間、お決まりのパターンが訪れた。


 ユファンの足場が崩れた。


 何となーくそうなる予感はしてた。


 ゲームの世界だから強制的に修正が入ったんだ。本来ならユファンを助けるのは婚約者様。私ではない。


 でも……。ここには私しかいない。


 私がユファンを助けないと!!


 落ちていくユファンの手を闇魔法で掴んで引っ張り上げた。


「シオン!!何をしているんだ!!」


 来るのが遅いのよ。もうちょっと早ければ……


「ユファンを落とそうとしたのか?」

「は?何を……」


 落ち着け私。


 今の状況を整理しよう。


 私は魔法を発動している。その魔法でユファンを掴んでいる。ユファンは宙ぶらりん。


 うん……。落とそうとしてるね。


 って、ちがーーーう!!


「勝手な憶測はやめて下さい。私は彼女を助けたまでです」

「信じられんな」


 それはこの状況しか見てない上にシオンの噂を真に受けてるからでしょ。


 噂は嘘ではないから否定は出来ないんだけど。


「お、おまち、くださ…。私はシオン様に助けてもら……」


 ユファンの言葉を無視してキッと睨んでくる。


 どうせこの悪行は瞬く間に広がっていくんだろうな。


 やっぱり休めば良かった。


 どさくさに紛れてユファンの腰に手を回す婚約者様を一瞥して、一人でスタート地点に戻る。

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