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偽物令嬢〜前世で大好きな兄に殺されました。そんな悪役令嬢は静かで平和な未来をお望みです〜  作者: あいみ
第三章

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終わりが近づくとき【クローラー】

 一年ぶりに訪れる領地はとても悲惨だった。


 前回の大雨でほとんどが流されてしまっている。領民の家が無事なのは不可解ではあるが、ひとまず安心した。


 今は一滴も降らない天気のせいで地面がひび割れている。


 満足のいく食事を摂れていないせいで皆、やつれ顔色が悪い。


 すぐに持ってきた食料と水を配っていく。充分な量のため、全員に行き届いてもまだ余裕はある。


 長旅の疲れを癒すため今日はもう屋敷に向かった。


 初めての長距離移動に加え、魔物にも襲われ疲労困憊。


 たかが中級魔物数匹に手こずらせられるなんて。


 本調子でなかったにしてもユファンの前で醜態を晒してしまった。


 いや、違う。本調子ではないなんて、そんなのは言い訳だ。


 私の……私達の魔力は明らかに下がっている。それを認めたくなくて、尤もらしい言い訳で自分を納得させようとしていた。


 王族をも凌ぐはずの魔力が、今では上級貴族にさえ満たない可能性が出てきた。


 これでは上級魔物に対抗する術がない。


 「クローラー様とラエル様のお手を煩わせてしまい、申し訳ございません」

 「私達がもっと頻繁に様子を見に来られたらいいのだが。解決策が見つかるまでは必要な物は送るから、それで凌いでくれ」

 「かしこまりました」


 魔力の件は後回しだ。まずはシオンを捜し出さなければ。


 管理人にラエルとユファンのことを任せて、私とヘリオンは領地内の見回りと称してシオンを捜す。


 パッと見た感じでは領民は魔法で操られているようではない。


 あんな傲慢な塊が小さな家で満足するとは思えないが、私達を困らせることを目的としているならば、裏をかいて隠れているかもしれない。


 手分けてして片っ端から当たるも、返ってくる答えは皆同じ。


 「あんな呪われたような化け物を家に入れるはずがない」


 その言葉を疑うわけではないが、家の中も隅々まで捜す。


 「どこにもいませんね」

 「グレンジャー領ではないということか」


 他にシオンが行く場所。


 ケールレル領か?


 常々、未来の大公妃として、と言っていたぐらいだ。可能性はなくはない。


 ──一族だけには飽き足らず、婚約破棄をした者達にまで迷惑をかけるなど、何様のつもりだ!?


 アレはもう大公妃にはなれない。


 珍しい物をコレクションすることで有名な伯爵へ嫁ぐことが決まっている。


 ヘリオンとの婚約破棄が決まってから、こちらから申し出た。


 みすぼらしく汚らしい(なり)をしているが、伯爵の眼鏡にかなうのではないかと。


 返事はすぐにきて、第二夫人として迎えたいと大喜び。


 子供を産む必要性がないため、魔力差など関係ない。


 厄介者を引き取ってもらうのだ。暴走しないように魔力を封じる魔道具は当然のことながら付ける。勝手に外したりしないように鍵は壊す。


 伯爵はとても寛大な方で、結納金も何もいらないと。


 髪や瞳が普通とは異なる人の形をしたものにひどく興奮していた。


 闇魔法であることも、数々の悪行三昧も知った上で、眺めるためのコレクションに加えたいと言ってくれた。


 正式な貴族となる、王立学園卒業の日が、シオンの結婚式となる。


 心広く優しい伯爵のためにもシオンを見つけ出し、グレンジャーの名を汚す噂をも消させなければ。


 「小公爵様。本当にシオンを伯爵の元に?」

 「あの穀潰しを死ぬまで養ってやる義理はないからな」


 本来であればシオンに使った金と迷惑料を回収したいところではあるが、せめてもの情けに請求はしないでおく。


 「しかし。あの男は……」

 「魔力の差からヘリオンしか婚約者になり得なかったシオンに、新たな婚約者が出来た。これほどまでに喜ばしいことがあるか?」


 伯爵の行って(おこなって)いることは違法ではないのだ。


 妻を何人娶ろうと咎められることはない。もちろん、殺したりしなければ何をしてもいいのが利点。


 暴力を振るえば虐待なんて言われるが、あれは教育。

 口で言ってもわからないバカを躾けるためのもの。苛立ちをぶつけているわけではない。


 「ヘリオン。なぜそこまで、シオンにこだわる?エイダ嬢と婚約したのではなかったのか?」

 「していません!私はユファンを……っ!!」


 ユファン?


 予想外の名前に驚いたのは私だけではない。ヘリオン自身も大きく驚いていた。


 先程の発言が間違いであるかのように口元を手で覆う。


 視線が合わない。ずっと宙を舞う。


 まさかヘリオンまでもが、ユファンに気があったとは。


 よくよく考えたら、おかしなことではない。魔力差という一般的理由からヘリオンにはシオン以外の選択肢がなかった。だが、ユファンに可能性が出てきたのならば、愛想が良く雰囲気もふんわりとし柔らかく、何より。守ってあげたくなるような愛らしいユファンに惹かれるのも納得。


 貴族である我々からの告白を平民のユファンが断れるわけもない。脅迫になってしまう行動は慎まなくてはならないため、誰も想いを伝えることはしないはず。


 ヘリオンが聞かなかったことにして欲しい話題故に、私から蒸し返すつもりはなかった。


 グレンジャー領にシオンがいないのであれば、長居するつもりもない。


 移動の疲れがすぐ取れるわけでもなく、あと一日はゆっくり休むつもりだ。


 討伐隊を組んだ時点で、我々は各地を回ると決めていた。


 シオンがいる可能性があるケールレル領に絞れた今、先を急ぐことはない。焦らずゆっくりと、シオンに辿り着く道を進めばいい。


 再会の暁には一生癒えない傷をプレゼントしてやろう。髪と瞳さえ無事なら、顔に火傷を負うぐらい、伯爵も許してくれる。



 長期休暇の一ヵ月を使ってグレンジャー領を出発点に各地を回る。


 途中、ケールレル領に到着しシオンを捜したが、どこにもいなかった。


 そんなはずはない。アイツの行き場などたかが知れている!


 屋敷を飛び出したのなら、領地しか宛はない。 見知らぬ国で生きていけるはずがないのだ。


 グレンジャー領でもケールレル領でもなき、他の場所となると……思い当たる場所がない。


 まさか王族が匿っているのか?


 いや、それだけはない。闇魔法を匿うなど、王家の威厳に関わる。


 母上の実家になど絶対に行けるはずもなく。自分が生まれたせいで母上を殺したのだ。謝罪のために足を運ぶことがあっても、図々しく暮らすために行くはずが……。


 自分ご都合主義のシオンに限ってなら、絶対にない、とは言い切れない。


 だが、私の予想に反してシオンは国のどこにもいなかった。


 ヘリオンもありえないという顔をしている。それでも見つけられないのは……。


 私とヘリオンの視線は自然と国外に向いた。


 闇魔法では魔物を操ることは出来ない。


 魔物の存在を知らないシオンが一人で境界線を越えようとしたのなら。


 笑みが零れた。自然と、無自覚に。


 父上は母上を殺したシオンを殺してはならないと言った。どんな形であれ、生まれてきたのだから、と。


 あんな奴に慈悲を与えたところで損をするのは我々。


 生まれたことが罪であると自覚をさせながら殺したほうが、私達の、そして世界のためでもある。


 存在しているだけで私の神経を逆撫でしていたシオンが死んだ。


 みすぼらしい姿にお似合いのように、魔物に喰われ、きっと!汚らしく血まみれで。


 想像するだけで愉快だった。


 噂の収拾が出来ないことも、伯爵に渡すことも叶わなくなったのに、私の気分は過去最高に良い。


 死に目に会えなかったのは非常に残念ではあるが、この世界から厄介者が消えてくれたことは祝福すべきこと。


 同時にシオンの死は、ユファンの心の不安を取り除いた。もう怯えることはない。堂々と胸を張って生きていける。


 光魔法は世界を照らす唯一。


 シオンが死んだことは、まだ伏せておいたほうがいい。


 死体は全て魔物に喰われてしまいなくなっているだろうから、遺品か何かがあれば良いのだが。


 髪が一房でもいい。獣の黒い毛があればより信ぴょう性は増す。


 この国どころか世界中を捜してもあんなおぞましい色は他にない。


 偽装のために染めるにしても、あんな色では目立ってしまう。


 ──くそ!死んでも迷惑しかかけない奴だ。


 ただ、父上にだけは報告しておかなければ。


 新学期の前日には王都に帰り着き、翌日また会う約束をして別れた。


 魔物討伐に赴いたおかげか、私達の噂は新たに上書きされた。


 学生の身分でありながら、国民のために命を懸けて戦ってくれた若き英雄達、と。


 幸いだったのは上級魔物と遭遇することはなく、初級、中級ばかりと戦う。


 連戦で魔法のコツを思い出し、中盤からはラエルも生き生きしていた。


 ユファンの特訓も上手くいった。種は芽を出し花が咲く。土魔法で水分を奪い枯らせた花を元に戻した。


 初級と中級の魔法をたった一ヵ月で習得しただけでも素晴らしいことなのに、油断をし切断された腕を治す上級魔法まで完璧に覚えてしまったのだ。


 隠れた才能が一気に開花したと言っても過言ではない。魔力も格段に増えもう誰も、ユファンをバカにする者はいなくなる。


 上級魔法を使う際に体から黄金の光を放つユファンは聖女を超えた女神。


 「シオンがいなくても、何とかなったな」


 私達がシオンを虐待していたなどというくだらない嘘は消え去る。


 自己中心的なシオンがフェルバー夫妻を脅して都合の良い噂を流させた。一部ではそんな噂が流れるようになったと執事長から聞いた。


 「クローラー、ラエル。戻ったか」


 父上が帰っているのは珍しい。


 長期休暇中に屋敷で姿を見るのは初めてではないだろうか。


 険しい表情にラエルは息を飲む。部屋にいた使用人を下がらせて私達だけになった。


 「体調はどうだ?」


 突然、何を言い出すのか。


 あの日の怪我はユファンが治してくれたおかげで、すっかり良くなった。後遺症もない。


 ラエルも同様。そもそも、腕が切断されたのはヘリオンであり、私とラエルは大きな傷を負っていない。


 「魔物討伐には平民の村にも出向いたのだな?」

 「ええ。もちろん」


 行きたくはなかったが身分差別をしていると思われるのが心外で、我慢して行った。


 シオンがいるわけがないとわかっていても、確実にこの目で確認をしたかったのも理由。


 「そこで、病に苦しむ村人を見たか?」

 「いえ。父上。一体どうしたのですか」


 父上が何を言いたいのか全くわからない。


 労って欲しいわけではないが、意図が読めないせいで警戒してしまう。


 「お前達が討伐に言っている間、知らせが入った。今、国中に原因不明の病が流行っている」


 幾つかの村を思い出した。


 数人が風邪を引いてしまい隔離している。近づかないでくれと頼まれた。


 平民はどんな病を持っているかもわからない。頼まれなくても近づくつもりはない。


 心優しいユファンは治したいと治療を買って出たが、万が一にでも移ったら……。


 村人よりも私達が止めた。


 ユファンにもしものことがあったら、その責任は村人が負わなくてはならない。


 貴族でなくとも魔法を使う人間は貴重。大切にされるべき存在。


 ただの平民なんかとは命の価値が違う。


 父上は首筋に手を当て、深いため息をついた。


 「平民の間だけで流行っていたはずの病が、数週間前から王都にも広まっている。そのことに関して王宮から呼び出しを受けている」

 「今からですか?」

 「そうだ。着替えなくていい。とにかく急げとのことだ」


 ふと、窓の外に目をやると、力ずくでも連れて行けるように騎士の姿があった。ここからでもわかる。殺伐とした空気に包まれていた。


 魔道具で汚れだけは落とし、門で待機している馬車に乗り込む。出発すると左右に騎士が配置される。


 並行して走りながら時折、視線だけをこちらに向け中を確認してきた。これはまるで護衛というより、逃げられないようにするための監視。


 事情を知らない者達は、私達が陛下に賞賛されるために直々に迎えを寄越したのだと思う。


 羨望の眼差しが向けられる。


 ──国民を騙している詐欺師のような気分だ。


 カーテンを閉めて中が見えないようにした。国民よりも騎士の視線のほうが堪える。罪を犯したことなど一度もないというのに。


 空気が重たく息苦しい。


 足を組み目を閉じたまま、父上は微動だにしない。ラエルの表情にも緊張が走る。




 王宮に着くと、すぐさま謁見の間に通された。

 奥の椅子には国王陛下と王妃陛下が座っている。


 ──アース殿下はいないようだな。


 急を要する案件のため、挨拶は不要とのこと。


 その割にお二人はとても落ち着いている。


 「さて。グレンジャー公爵。此度の蔓延している病のことだが。どう収拾するつもりかね?」

 「はい……?」


 いつも変わらぬ父親の表情が今回ばかりは崩れた。


 陛下は非常時に冗談を言うようなお方ではない。


 顔は笑っているものの、瞳の奥は冷たく、まるでこうなった原因は私達にあると言っているかのようで。


 シオンじゃあるまいし、国を危険を晒す愚行を我々がするはずがない。


 ──一体どれだけ、献身的に仕えてきたと思っているのだ!?


 よもや、忠誠心どころか謀反を疑われているのだろうか。それとも単に試されてるだけか。


 答えを誤れば一気に信頼を失くす。


 父上は目を閉じ、しばらく考える。十秒もしないうちに口を開いた。


 「陛下。私共には身に覚えがございません。ですが、もし陛下が何か不審に思われていることがあるのでしたら、屋敷から領地。私の執務室も全て調べて頂いて結構です」


 私とラエルも力強くうなづいた。


 やましいことは一つもない。潔白だからこそ、隅々まで調べて欲しいものだ。


 「まさか、其方の口からそのようなことが聞けるとは」


 驚きと感心。


 高い所から見下ろす金眼は明確な罪の証拠を持っていた。


 ──本当に父上が……?


 反論しないのは罪を認めているからなのですか。


 「公爵。今一度問う。王宮からの手紙は全て、目を通したか?」


 研ぎ澄まされた魔力は一直線に父上を襲う。正確に父上だけを狙っているのに、近くにいる私達も陛下の魔力に当てられる。


 上から押し潰される感覚。


 直接、食らっている父上は息をするのもやっと。額から汗が流れ、左胸を抑えその場に膝を付く。


 「ああ、すまない。これでは話せないな」


 魔力が切られると大きく咳き込んだ。


 実際に王族の魔力を目の当たりにしたせいか、指先の震えが止まらない。


 気付けば莫大な魔力を持った私達を、王族をも凌ぐ魔力量だと言った者がいる。本当にそう思っていたわけではないだろう。


 私達の機嫌を取るためのお世辞。だが、それはいつしか人から人に伝わり、国中の人間にまで知れ渡った。当然のことながら王族にも。


 だが、不遜だと咎められることはなく、むしろ喜ばれた。素晴らしいと。


 王族が認めるのであれば、私達の魔力は本当に上回っている。そう確信していた。


 この瞬間までは。


 比べるまでもない。魔力の差は歴然。上回るどころか届いてすらいない。


 「シオン嬢の属性が判明したとき、私は其方に手紙を出した。その内容を覚えている限り、今ここで。言ってみてはくれないか」


 私も覚えている。手紙は確かに届いた。執事長から父上に手渡されたのも、この目でしっかりと見た。


 シオンの属性がわかり、王宮から帰ってきた父上は陛下の厚意もあり、しばらくは休みとなった。働きすぎだと誰もが思っていたのだ。当然の配慮である。


 その翌日だったか。ラエルの魔法が暴走して、止めるために父上も手を貸してくれた。


 もしもあのとき、手紙を読む直前だったら?魔法の暴走だけではなく、魔力暴走をも止めるために丸二日、ラエルに付きっきり。


 その後もやることが波のように押し寄せてきて、手紙を読んだと勘違いしてもおかしくはない状況だった。


 口を開けないことが、読んでいないと証明してしまっていた。記憶を掘り起こし、読んでいないとわかってしまったのだ。


 「おお、来たか」


 再び扉が開いた。


 ヘリオンとユファン。そして……拘束されて無理やりに連れて来られたであろう平民の女性。


 騎士は一礼して退室。


 役者は揃ったとでも言うように、陛下の魔法が扉を塞ぐ。これでもう、誰も入っては来られない。


 陛下は深く座り直した。


 もう魔力の放出はしていないのに、まとわりつく空気は痛く、そんな中で陛下の声はよく響いた。風魔法でより伝わるようにしているのだろう。


 告げられた二つの内容は突拍子もなく、とても信じられるものではない。語っているのが陛下でなければ、ただ頭がおかしいだけだと切り捨てられる。


 二つ目の内容に関してのみ、まるで知っていたかのような反応を見せた者がいた。


 ユファンが「お母さん」と呼んだ平民の女性。顔面蒼白になり、口元を教える手は震えている。ユファンは混乱しているようで、話についていけていない。


 頭の中が真っ白になった。


 「違う」と否定するわけでもなく、隠された秘密が暴かれたかのように恐怖する態度。


 それが事実だったとして、私達が正義だと信じてやってきたことは一体……。

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