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偽物令嬢〜前世で大好きな兄に殺されました。そんな悪役令嬢は静かで平和な未来をお望みです〜  作者: あいみ
第二章

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魔法の天才【スウェロ】

 「で、どうやって殺しましょうか」


 シオン嬢を家まで送り届けたレックは満面の笑み。


 二人きりだったのが嬉しかったのかと思ったが、そうではない。この笑みは怒り狂ったときのもの。


 仕事の片手間で聞く内容ではなさそうだ。


 キリのいいとこまで終わったし、休憩しよう。


 ここは叔父上の執務室で側近を追い出すわけにもいかず、一緒に話を聞いてもらうことにした。


 「それで。殺すって何?」


 そんな物騒な考えになるには、キッカケがあったはず。レックがここまで怒るなんてシオン嬢が関係している。


 リーネットにシオン嬢を悪く言う人も、ましてや色で人を判断する人だっていない。


 「グレンジャーとケールレル。いや!!ハーストの国民を一人残らず根絶やしにしないと」

 「……スウェロ殿下。レイアークス様をお呼び致しまょうか?」

 「いや。いい」


 叔父上は繊細な作業中故に、邪魔をしたくない。


 報告案件であるからこそ、レックが何を考えているか、しっかり聞いておかないと。


 笑みが消えた。冗談ではなく本気。


 私も真剣に耳を傾ける。


 溢れる怒りをどうにか抑えようと握り締める拳。あまり外部に漏らしていい内容ではなさそうだな。


 アース殿下は水魔法で音を遮断する高度な技術を持っている。何年も前に一度だけ見ただけの魔法。


 「(これは隣国の……。一度見ただけで再現したのか。流石は兄様)」


 範囲は狭いが水のベールに包まれる。


 レックの頭を冷やすため、水魔法に多少“手”を加えた。


 「レック。わかるように説明してくれ」


 問い詰めるつもりはなく優しく問う。


 「シオンに過去のことを聞きました」


 あんなに崇拝していたシオン嬢を名前で、しかも呼び捨て。


 どういう心境の変化があったのか興味があるが今、優先すべきはそれじゃない。


 シオン嬢は家族からの虐待。婚約者からの裏切り。使用人からのいじめ。国民からの差別。


 一人で耐えるしかなかった。どんなにノアールが傍にいてくれても、苦しいことに変わりはない。


 いくら真実を明かされていないとしても酷すぎる。


 魔法は個性だ。どんな属性になろうと非難することなどありえない。


 想像を遥かに超える過去に言葉を失う。レックが怒り狂うのも納得。


 シオン嬢は……属性が判明していないときから「母親殺し」と罵倒され、ラエル・グレンジャーから理不尽な暴力を受ける日々。


 謝るときは決まって、生まれてきたことを悔い、謝罪。生きていることへの懺悔。


 成長し物心がついた頃にはシオン嬢は、これまでの理不尽さで心が壊れ悪女と呼ばれるまでに変わってしまった。


 果たしてそれは罪なのだろうか?


 好き好んで悪女になったわけではない。助けを求めて伸ばし続けた手を振り払われ、無情にも踏み付けられた代償。


 いつしか助けを求めることが無意味とわかり、深く心を閉ざすことで最後に残された“死”から自身を守ってきた。


 「レック。気持ちはわかる。でもね。お前がやろうとしていることは戦争だ」

 「いいじゃないですか。殺してやりましょうよ。一人残らず。最初はやっぱりグレンジャー家ですよね。誰にしようかな」

 「レック!!」

 「なぜですか?」


 私の言葉を理解出来ないのではなく、しようとしていない。


 レックはとても情に厚い。命を救ってくれたシオン嬢を助けたい思いが全面に押し出ている。


 恩返しのために人を殺すなんて、とても褒められたものではない。


 「フェルバー商会。彼らも殺すのかい」


 初めて会ったあの日。シオン嬢は御者に伝言を頼んだ。ブレットという男宛に。


 調べてみると元平民で婿養子となり貴族の仲間入り。シオン嬢が贔屓にしている唯一の商会。


 シオン嬢にとって特別な人達。


 国中の人間がシオン嬢を苦しめたかもしれない。でもそれは、全員ではないのだ。


 少なくともフェルバー商会だけは、シオン嬢の身を案じていた。


 救いたくても身分のせいで周りと同じにならざるを得なかっただけ。


 そんな彼らの命さえも奪おうとするのなら、私はどんな手を使ってでもレックを止める。


 「そもそも。殺してくれと、戦争をしてくれと、シオン嬢がお前に頼んだのかい?」


 恩を返したい気持ちはよくわかる。私だって弟を救ってくれたシオン嬢には感謝しかない。


 望むことがあれば何でも叶えたいと思っている。自分を苦しめた連中を殺して欲しいと頼まれれば喜んで引き受けるだろう。


 ただし。仮にそう思っていたとしても、本人が口にしないのであれば望んでいないのと同じ。察したつもりで勝手なことをするのは愚か者のすること。


 戦争をしたいだけなら、それは最早侵略者。シオン嬢を理由にしただけの。


 一番、最低な行いだ。


 レックはしばらく考え、私から目を逸らし、ガックリと項垂れる。


 シオン嬢の意志を無視して先走っていたことを自覚した。


 「この話は終わりだ」


 魔法を解除した。


 あくまでも中の音を遮断するための魔法で、水の中にいたにもかかわらず一切濡れていない。魔力を大量に使いすぎると維持が不安定になり、少なすぎると普通の水みたいに濡れてしまう。


 絶妙な加減が難しい。


 この魔法を編み出したアース殿下は柔軟な発想が得意。


 魔法といえば攻撃や防御、日常生活で使えるぐらいの、似たり寄ったりの使い方しか存在しない中で、アース殿下だけは突飛な使い方をする。


 発想も然る事乍ら、それを実現してしまうのだからすごい。


 「兄様。ありがとう」

 「ん?」

 「兄様がいなかったらシオンの気持ちを無視するところだった」

 「思い留まってくれて良かったよ」


 レックは感情で動くタイプではあるけど、説明に納得がいけば自らの過ちを認められる。


 久しく見なかった無邪気な笑顔。引き出したのはシオン嬢。


 ──彼女にはほんと、頭が上がらないな。


 隣国への怒りが収まったわけではなく、爆発させないように体を動かして発散するらしい。


 「私は別に戦争をしてもいいんだけどね」

 「はい?」

 「スウェロ殿下?」


 独り言のはずが、二人には聞こえていたようで顔をしかめていた。


 冗談ではなく本気だと捉えているからこそ、どうやって私を説得させるか悩んでいる様子。


 一つ勘違いしないで欲しいのは、私は「してもいい」だけであり「やりたい」わけではない。


 アース殿下とは友達だし、隣国ともそれなりに交友関係は結べている。


 可能なら現状維持が好ましい。


 アース殿下達は愚か(バカ)ではなく、事態を悪化させる真似はしないはず。


 この期に及んでシオン嬢を返せなどと言うのであれば、こちらも容赦はしない。


 例え神であったとしても、シオン嬢を縛るなんて出来やしないのだ。


 「考えないとな。断罪の理由」


 シオン嬢への仕打ちは決して許されるものではないものの、それを理由に私達が手を下していいはずもない。

 私達が手を出す正当な理由があれば、すぐにでも出向くのに。


 叔父上に要相談が増えた。シオン嬢のことは気に入っているし、知恵は出してくれる。協力してくれるかは別として。


 「「殿下!!?」」


 しまった。心の声が声に出てしまった。


 「ここだけの話にしておいて。今はまだ」


 叔父上には自分から言わないとね。今は忙しいし、祭りが終わったあともシオン嬢の魔力コントロールの特訓。


 やっぱりタイミングとしてはシオン嬢が完璧に魔力をコントロール出来るようになって、時間に余裕があるとき。


 いつだったか、叔父上に言われたことがある。


 父上は小さな国なら滅ぼす力を持つ。私は大帝国であろうと滅ぼす力がある。剣術の才を持たなかった私への慰めかと思ったが、真剣すぎる表情に本音であると伝わってきた。


 巨大な力は制御しなくてはならない。大切な人を傷つけないようにするためにも。


 あの頃は必死だった。


 初めて使った水魔法はコントロールしきれずに一緒に訓練をしていたアルとレックを襲ってしまった。


 幸いなことに大きな怪我ではなかったものの、心に傷を負うには充分すぎる出来事。


 何日も部屋に閉じこもっては、誰もいないのに謝罪を繰り返す。


 大丈夫だと笑っていた二人はきっと、私を恨んでいるだろう。


 怖い。ただ、怖かった。


 魔力のコントロールもロクに出来ないのに、魔法を使わなければならない現実が。


 生きていることではなく、日常が怖い。


 鍵をかけた扉なんて、叔父上にはあってないような物。蹴破り、中に入ってきた叔父上は何も言わずに抱きしめてくれた。


 久しぶりに感じる温もり。私の怖さを共感してくれているようで。


 叔父上は魔物討伐隊隊長を務めていた強くてすごい人。


 五大魔法を持つことなく、鍛え上げた身体能力と()()を使い次々に魔物を倒していく。


 自分が弱ければ、指示をミスすれば、部下が死ぬ。他人の命を預かる恐怖に負けることなくやり切ったレイアークス・リーネットは英雄となり国民から称えられ帰還を祝福された。


 出来ないことの怖さを知っているこの人は私を見捨てない。出来なくても呆れることなく、出来るようになるまで傍にいてくれる。


 それは勘であり、確信めいたものがあった。


 一歩を踏み出さず蹲っているだけの弱虫になりたくない。


 顔を上げて、笑って、一生治ることのない心に傷をつけたまま、自らを閉じ込める殻の外に出た。


 魔法は使いこなせなければ暴力。使い方を間違えても暴力。


 だからこそ。死に物狂いで努力したんだ。自分の力で誰かを傷つけたくない。守りたい。


 私の持つ魔法を、何者をも弾く盾として扱うために。

 今でも時々、夢を視る。夢が現実とならないように魔力コントロールは毎日の日課とした。


 怖い思いをしたくない。それだけを胸に。


 人がいるときになるべく魔法は使いたくない。いつ暴走して怪我をさせるかわからないから。


 さっきの水魔法だって、発動中は気が気じゃなかった。秘密の会話をするためだけの空間。苦しくならないように調節し、レックの頭を冷やすために()()()()()()()()()()()


 神経を使う。微細な魔力コントロールほど疲れるものはない。


 「私は皆を守る盾でいい」


 壊れることなく常に前に立ち、この命尽きるまで守り続ける。それこそが私の理想。


 願わずにはいられない。私の盾が矛とならないときを。

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