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偽物令嬢〜前世で大好きな兄に殺されました。そんな悪役令嬢は静かで平和な未来をお望みです〜  作者: あいみ
第二章

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憧れ、背中を追い、そして……目指すもの

 「第三王子殿下」

 「女神様。そんな堅苦しい呼び方はやめて、もっとフランクで構いませんよ」


 終始、ニコニコ満面の笑みで表情筋疲れないのかな。


 護衛がいなくても一人で帰れるのに。


 ここには私を蔑む人はいないのだから。


 「でしたら。私のことを女神と呼ぶのはやめて下さい」

 「女神様は女神様ですよ?」


 他の人はすぐに快諾してくれたのに、目の前の王子だけは頑なに拒否。


 「それに。女神様を名前で呼ぶなんて、おこがましすぎます」


 この人は私を本当の神かなにかと思ってる?


 人間だよ。れっきとした。


 鼻歌を歌いながら、スキップでもしそうなほどに機嫌が良い。


 ノアールも体を揺らしてリズムを取る。


 警戒はするけど敵意があるわけではない。


 私とノアールの心は繋がっている。


 私が嫌いな相手は大嫌いだし敵意だって向ける。私が気を許した相手なら好きになるし自分から近付いていく。


 「それなら私も、呼び方を変えるつもりはありません」

 「う……。わかりました。これからはシオン様と」

 「シオンで構いません。同い歳ですよね?」

 「それは流石に」

 「こんなこと言うのは不敬罪かもしれませんが」

 「めが……シオン様の発言が不敬になることはありません!!」

 「子供っぽいと笑うかもしれないけど……友達が……欲しいんです」


 シオンに友達はいない。取り巻きならいるけど。


 損得勘定なく、ありのままを受け入れてくれる友人。

 くだらないことで笑い合って、時には喧嘩もする。ケーキでも食べて仲直り。


 友達は多いほうが嬉しいけど、誰でもいいわけではない。もちろん、優しくされたから友達になりたいなんて単純思考でもない。


 誠実で言葉に嘘はなく、一緒にいて楽しいと思える人。


 「ノアールは友達ではないのですか」

 「この子はたった一人の家族よ」


 王子は小さく笑って目を伏せた。すぐに開かれて、さっきまでの笑顔とは打って変わる。幼さが残る無邪気な笑顔。


 「俺のことはレクシオルゼでいいよ。シオン」


 命を懸けて人々を守ってきた影響なのか、どこか大人びていた。最年少の団長して立ち振る舞いも子供らしさを感じせないように頑張っていた。


 実力で勝ち取った座でも、身分のせいで後ろめたさがあるのかも。


 騎士の人達は王族だから従っているようには見えなかった。


 地位を奪われたくないからではなく、誇りを持っているからこそ必死に早く大人になろうとしている。


 周りに歳上しかいないのも、背伸びをさせる原因の一つかもしれない。


 「オルゼじゃ嫌?」

 「ううん。好きに呼んでいいよ」

 「ありがと。これからよろしくね。オルゼ」


 男女の友情は成立しないとよく聞くけど、本当にそうだろうか?


 私は誰かを好きになることはないから大丈夫だろうけど、オルゼは……。


 崇拝の念が恋愛感情に変わるなんて滅多にないと思う。絶対とは言い切るのは失礼だし、好きにならないで欲しいと願うのは最低。


 もしも好きになってくれたら「ごめん」以外の言葉で、オルゼを傷つけないように慎重に選ばないと。


 「あ、ねぇ。ここに寄っていい?」

 「いいよ」


 家から王宮までの道のりで営業しているカフェ・ベラーノ。ここではメイが働いている。


 生きていくのにお金は必要。


 宝石を売ったお金がいつまでもあるわけもなく、当然のことながら働かなくてはならない。


 そこでメイが、働き手を募集していたカフェ、ベラーノで採用された。


 有難いことに、この世界の食文化は前世とほとんど同じ。そりゃそうだよね。ここは人間が作った世界なんだもん。


 聞いたこともないような料理名なんて、あるわけがない。


 ベラーノには貴族や平民といった身分なんて関係なく、幅広い客層が足を運ぶ。


 サンドイッチを頼むと紅茶がサービスで付いてくる。


 あくまでも貴族が主役の世界だからね。飲み物は紅茶。平民は井戸から汲んだ水。紅茶は贅沢とされる。


 コーヒーはない。あっても飲まないけど。カフェオレなら全然飲める。


 果物はあるけど、それをジュースにするという発想はない。皮を剥いて食べるだけ。


 「お待たせ致しました。お嬢様」


 シンプルなレタスサンドが好きだ。トマトもみずみずしくて美味しい。


 騎士団もよく訓練終わりにベラーノには通う。一息つくには最高の場所。


 「スウェロ兄様のことだけどね。叔父上に強く憧れている。俺がシオンを崇拝しているのと同じように」


 わかりやすい表現。憧れでは生ぬるい。心酔しきっている。


 「だからね。兄様は叔父上の仕事をすべて引き継ぐつもりなんだ」


 スウェロ殿下には才能がある。あと数年もすれば宰相の仕事を完璧にこなせるほどの。


 外交も問題はない。感情に左右されず物事を冷静に見極められる広い視野と判断力を持っている。


 今でもレイに魔力コントロールを教わっているから将来、同じようなポーションも作れるようになるとまで言わしめた。


 文官育成も魔法講義も。スウェロ殿下は人に教えるのが得意。


 図書館管理に関しては鑑定魔法がないため、本のチェックを手作業で行わなければならない。


 レイが一番頭を悩ませているのは剣術。


 「兄様には剣の才能がないんだ」


 レイに剣術を教わっていたのはオルゼだけではない。スウェロ殿下と会ったことのない王太子。三兄弟全員。


 ただ、スウェロ殿下の限界は二人の弟よりも低かった。努力だけでは越えられはいものがある。


 弱音を吐かずに努力を続け、手にマメが出来て皮が剥けても毎日毎日、剣を振るスウェロ殿下に「諦めろ」と酷なことは言えない。


 才能も実力もないことは誰よりもよく理解しているのに、高くそびえ立つ壁を越えようとする姿は滑稽ではなくカッコ良い、だ。


 「でもね。魔法の才能は断トツなんだ。叔父上が忙しいときは俺とアル兄様はスウェロ兄様に教えてもらってるし。叔父上だって褒めてたよ。スウェロ兄様の魔法の才は、他の追随を許さないって」

 「それって私も教えてもらえたりするのかな」

 「もちろん。今は叔父上の手伝いが忙しいから、時間に余裕のあるときだけど」

 「そっか。レイはお祭りの準備してるんだっけ。ところでさ。なんのお祭りするの」

 「五日後はね。英雄が世界を救った日」

 「あ……」

 「隣国であるリーネットはハーストと同じぐらい強く魅了されていた。だからこそ毎年、感謝の意を伝えるために祭りを開催することになったんだ。ハーストでも、その……祭りはやらなかった?」

 「やってた。でも、参加したことはないから」


 地下にいただけの私が詳細を知るわけもなく。


 そうか。毎年、とある日、地下に足を運んで私に魔法を使い虐げていたのは、そういうことだったんだ。

 手足を、体を焼かれた。


 重たい石に押し潰されて骨が折れるときもあった。


 魔力を封じられているから一切の抵抗は出来ない。


 長男も次男も私を痛めつけることを楽しんでいたわけではなく、正当な行いだと信じていた。


 ハーストにとって闇魔法は悪の象徴。王族の代わりに私を罰していたのだろう。


 私は世界を滅ぼそうとした悪魔だから。


 それ以外にも理由はあったと思うけど。


 ただ私を痛めつけたかっただけ。日頃の憂さを晴らしたかっただけ。


 理由(せいぎ)さえあれば(あく)には何をしてもいい。


 暗闇の中でも見えた目は完全に私を敵視していた。


 ボロボロになり指一本動かせなくなると、気が済んだかのように私を放置して地上へと戻る。


 去り際に回復魔道具を使うのは体に傷痕を残さないようにするため。


 悪いことをしている意識なんて、これっぽちもない。

 将来、私が嫁ぐときに傷だらけの体では醜いから。欠陥品を差し出したと思われるのを避けるため。


 要は全て、自分達のためにすぎない。私のことなんて一ミリも考えたことなんてないだろう。


 傷は治っても痛みまでもが消えることはなかった。


 「シオン。辛いとは思うけど話して……くれないかな。君がアイツらに何をされたのか」

 「どうして」

 「許さないため」

 「許さない?」

 「うん。ケールレルはともかく、グレンジャーは君の家族だから。曖昧なことしか知らない今のままでは、家族ということを理由に許してしまうかもしれない。そんなの絶対に嫌だ」


 私の痛みは私だけのもの。オルゼはそれを共に背負ってくれると言っている。


 真剣な思いに私は口を開いた。


 つまることはなくスラスラと言えてしまうのは、あの屋敷で受けた暴力や暴言の数々に恐怖をしていないからだ。


 私は何も悪くなかった。世界を滅ぼそうとしたわけでもなければ、夫人が死んだのはユファンを生んだせい。


 ヘリオンの婚約者になったのも向こうが私を指名したから。魔力が釣り合うという理由だけで。


 ではなぜ私は、あんなにも傷つけられていたのか。

 その答えを考えたくはない。


 「シオン。やっぱ殺そう。アイツら」

 「物騒ね」


 デザートのタルトを食べながら、本気で実行しかねないオルゼをどうやって止めるか悩む。


 怒りのあまりフォークをへし折ったんだけど。


 先端部分はカランと音を立て床に落ちる。誰か特定の人の首に見立てて折ったのかは聞かない。


 「女神様への無礼な行い。斬首に値する」


 呼び方が戻ってることに気付いていない。金色の瞳が闘志に燃えている。

 殺すつもりしかない。


 「オルゼ。気にしなくていいいよ」

 「大丈夫。絶対に俺のほうが強いから」

 「そういうことじゃなくて」


 強いのは知ってる。一年のほとんどを魔物討伐に費やしている強者。


 魔法にばかり頼っている彼らとは格が違う。


 「下級魔物より弱い連中、一瞬で首を斬ってあげるよ」

 「一瞬は無理じゃない?」

 「簡単だよ。弱い卑怯者なんて正面から戦っても勝てる」


 自信がすごい。


 毎日、鍛えているとはいえ長兄も魔法に関しては才能があるほうだ。


 オルゼが負ける姿が想像つかないけど、悔しいことに長兄の凄さは身をもって体験した。


 油断をしていると足元をすくわれる。


 「ねぇシオン。アイツらはどうして魔力封じの魔道具を君に付けたんだと思う?」

 「私が魔法で扉を破壊して外に出ないためじゃないの」

 「ブブー。正解は……君を恐れていたからだよ」

 「あの二人が?私を?ないない」

 「確かに闇魔法は強力だ。でもね。強すぎる力は制御しなければ使えない。当時の君は魔力をコントロールして魔法を制御出来てた?」

 「あの頃はまだ……」


 魔法をコントロール出来るようになったのは十二歳のとき。


 教えてくれる人がいないから、ほとんど独学で。と言いたいとこだけど、そんなカッコ良いものではない。


 屋敷にいる間は部屋にこもって、ひたすら魔法の特訓をしていただけ。


 努力する姿を見られたら才能がないと笑われるから。


 長男と次男は五歳から魔法を完璧に扱えたと使用人達が自慢するように口にしていたのを覚えている。


 あの頃の私は無知だった。


 それを聞いて魔法をロクに扱えない私は出来損ないであるとひどく落ち込んだものだ。でもね。よく考えてみたのよ。


 家庭教師がいて、マンツーマンで教えてもらっていたら上達するに決まってるじゃん。


 しかも!自分達の子供でもないあの二人の自慢を、なぜに使用人がしていたのか。


 遠回しに私をバカにしていた。


 「シオンの魔法は特別だから。魔力を封じないと、まともに攻撃出来なかったんだ」

 「成長してからは魔道具なんてなくても、攻撃されたけど」

 「いくら貴族でも、一般家庭に魔力を完全に封じる魔道具はないよ」

 「……?」

 「ええっと、つまりね。幼少期のときは魔力がまだ少ないからゼロに出来るけど、成長して増えたら十とか二十とか残るってことなんだけど。あぁ!こういうの無理!兄様と違って頭使う系は苦手なんだ」

 「大丈夫。言いたいことはわかるから」

 「魔力を抑えるのは魔法を使わせないことを目的にしてるから、王宮で保管してるんじゃないかな。罪人用に」

 「リーネットもそうなの?」

 「いや。うちは叔父上…………。何でもない。忘れて」


 レイが魔道具でも作るんだろうか。


 通信魔道具を懐中電灯やループタイに組み込める辺り、作れそうだよね。


 チートを超えた完璧超人。


 出来ないことがないのではないだろうか。


 「うん。わかった」


 口が滑ったみたいな顔をしている。口元を手で隠すのは不用意に話さないため。


 本人の許可なしに勝手に喋るのは良くないもんね。


 ──大丈夫大丈夫。私は何も聞いてませんよ。


 誤魔化すようにタルトを平らげる。


 「オルゼの言ったこと、信じてもいいかな」

 「うん?」

 「ほら、さっきの。あの二人が私を恐れてるってやつ」


 本当はそんなことないんだろうけど、真実なんて興味はない。


 人は物事を都合の良いように考える生き物。あの二人、特に長男は自分の思うことだけが正しくて、真実も事実も関係なく。だったら私だって真実なんてどうでもよく、好きなように思うことにする。


 世界を滅ぼす力を持った私に恐怖していた情けない卑怯者。


 うん。なんだか気持ちがスッキリする。


 「ありがとう、オルゼ」

 「え?俺は何もしてないけど」

 「そんなことないよ」


 二人だけじゃない。公爵が仕事ばかりで私と顔を合わせないのは私の存在が怖いから。


 使用人の態度が目に余るのも私への恐怖を隠し平常を保とうとしていたから。……だとしても、あの態度はないわ。どうせ出て行くんだったら仕返しでもしておけばよかったかな。


 「ま、俺達は許さないけどね」


 チャンスを逃したことを残念がっていて、オルゼがポツリと呟いたのを聴き逃した。


 ふと、見ると笑顔のまま。ただ、その目はここにはいない彼らを映しているようで。

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