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偽物令嬢〜前世で大好きな兄に殺されました。そんな悪役令嬢は静かで平和な未来をお望みです〜  作者: あいみ
第二章

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当たり前なんて、この世にはない

 レイはしばらく口を開かない。目を見開いて驚いている。


 私は鑑定をされた身。そこに本当の出生が記されていても不思議ではない。


 正解だったらしく、私の隣に来ては人目を気にしながら声を潜める。


 「平民であると知っていたのか」

 「だって私だけ、誰にも何も似ていない。魔法も。私だけが二つの属性を持っていないから」


 私がこのゲームをやっていた転生者だから知っているなんて口が裂けても言えるわけもなく。


 納得されやすい理由はこれしかない。


 「それは平民である理由にはならない」


 されやすいであって、納得してくれるとは思っていなかった。


 疑うわけではないけど、その眼差しは答えを知りたがっている。


 「ユファン嬢。ご存知でしょう?光魔法の使い手」


 世界を滅ぼそうとした光魔法が生まれ、しかも持ち主が平民。近隣の国ならば一度は噂を耳にしているはず。王族ならば特に。


 「まさか……彼女が本物の公女か」


 正解。


 察しが良いレイは信じられないと言わんばかりに口元を手で覆う。


 赤紫の瞳に動揺が広がり、公爵令嬢と平民がなぜ入れ替わったのか。その経緯を探す。


 貴族と平民では出産場所は違う。赤ちゃんを取り違えるなんてミスが起こりうるはずもない。


 どれだけ考えても答えに辿り着ける人は存在しない。全ては公爵夫人の指示で行われたこと。


 「初めて見たときは驚いたわ。だってあまりにも小公爵様達に似ていたんだもん」


 似てないけどね。


 顔のパーツだけを見れば同じかも?って思うぐらいで、劇的に似ているわけではない。


 夫人の肖像画を見たことはあるけど、柔らそうな雰囲気はユファンとソックリ。


 「だったらなぜ君は、公爵家に居続けたんだ」


 私のことなのにレイのほうが苦しそう。


 お金がなかったから。物を売ってお金を作る発想がなかったから。


 主にこれが理由。我ながらバカだ。バカすぎて口にするのも恥ずかしい。


 「よく頑張ったな」


 答えなかったことを、答えられないと勘違いしたレイは優しく抱きしめてくれた。


 初めてだ。シオンが誰かに抱きしめられたのは。


 褒められることも初めてではないだろうか。


 他人の家族を横目に見てはいつも心が締め付けられていた。


 抱きしめて欲しい。頭を撫でて欲しい。殺意や怒りはなく、普通に名前を呼んで欲しい。


 家族として過ごしたかった。


 誰もが当たり前に持つ幸せは私にとっては高望み。雲の上の幸せ。手にすることは許されず、憧れるだけ。


 服の上からではわからなかったけど、意外とレイの体はガッチリしている。


 中年太りみたいなのはなくて程よく引き締まっていた。


 「レイ。こんなとこ見られたら誤解されるよ」


 この行動に他意はない。私を慰めてけれているだけ。


 している側もされている側もそれだけはわかっていて。第三者が見たらどう思われるか。


 すぐさま離れたレイは私に特別な想いを抱く予定はなさそうだ。


 幸いにもみんな王子に夢中で、誰一人としてこちらを気にする様子はない。


 「すまなかった」

 「ううん。謝らないで。結構嬉しかったから。人の温もりに触れて」


 平静を保ってはいるものの、内心では心臓がバクバク鳴っている。


 イケメンにいきなり抱きつかれたら、恋愛対象外だとしてもドキッとしてしまう。


 「そろそろだな。レディー。黒猫を起こすといい」

 「ノアール。おーい、起きて」

【ん~、やぁ~】

 「起きたら良いことあるかも」


 良いことに反応してむくりと体を起こすも、酔っているせいかすぐに倒れる。かろうじて目は開いているかな。


 「レディー。向こうだ」


 レイが指を差した方角を見ると、赤い花火が打ち上がった。


 そんなに大きくはないけど空を見上げたらリーネットのどこからでも目にすることが出来る。


 王族が主催するパーティーの日だけ、魔力持ちの平民が力を合わせて花火を打ち上げるようになった。


 魔石と魔道具を使えば簡単に作れるのに、一から手間暇をかけて作るのは感謝の気持ちだそうだ。


 いつも命を懸けて守ってくれているのに、その恩返しは何も出来ない。ならばせめてと、夜空に花を咲かせて気持ちを伝えたかった。


 守ってもらうことを当たり前と思わない。国民は日々、沢山の感謝(ありがとう)を胸に生きている。


【シオン!花!ねぇ!!空に花が咲いてるよ!!】


 花火の音ですっかり酔いが覚めたノアールは尻尾をブンブン上下に振り回しながらレイの頭に飛び乗った。


 ──少しでも高い所で見たかったのかな?


 尻尾がレイの後頭部を攻撃してるのは気にしていない。


 むしろ、ちょっと嬉しそう。レイって猫好き?


 聞くのはやめておこう。違っていたら勘違いした私が恥ずかしいから。


 ノアールの目が子供みたいにキラキラ輝いていた。


 間隔が空かずに何発も打ち上がると更にテンションが上がる。


 私もノアールも花火を見るのは初めて。


 開催される祭りに足を運んだことは一度もない。


 パーティーならある程度の問題が起きても公爵家の力で口止めは出来るし、必要なら揉み消せる。


 祭りは違う。多くの人が一斉に集まるため、その場で噂は広がっていく。


 対処が遅れたらグレンジャー家の名に傷がつく。


 だから私を閉じ込めた。


 魔法が使えないように魔力を封じる魔道具を両手首に付けられて。


 何もない真っ暗な地下に。


 ノアールと出会う前は一人ぼっち。暗くて怖くて、「出して」と大声で叫んでいた。


 私の存在を疎ましく思う彼らは、私を地下に閉じ込めたことさえ忘れて何日も放置されることもしばしば。


 ずっと暗闇の中だから時間の感覚もわからず、お腹が空いて喉が乾く。


 夏場なんて最悪だ。窓がないから暑く脱水症状を起こす寸前。


 扉が開く瞬間はいつも、私、まだ生きてる。そんなことを思う。


 暗闇に光が差し込むと、安堵と同時に生きていることに絶望した時期もあった。


 自分で死ぬ勇気はないけど、死ぬかもしれない状況下に置かれて死ねないのは辛い。


 人ならざる扱いを受け続けてまでも、生きる意味はあるのか。


 冷たい地べたに寝転んで、温かいノアールを抱きしめながらネガティブ思考に陥っていた。


 あのときの答えは未だにわからない。


 人は等しく平等だと言うけど。その平等に私は含まれていなかったのだから。


 私を外に出してくれていたのは……メイだ。動けない私を抱き抱えて部屋まで運んでくれていた。


 自室に戻るといつもブレットの姿もあった。何も言わずに頭を下げて帰っていく。


 確かあの商会は、お祭り期間の限定商品としてブレスレットを売っていた。どんな物も新作なら必ず買う私のために、忙しいのに時間を作って来てくれていた。


 使用人は追い返すこともなく、普通に中に通してしまうから、今思うと、何を考えていたんだろうと疑問が浮かぶ。


 公爵は仕事、兄達は友達と祭りに出掛けて留守。


 私は地下室に閉じ込められている。


 さて、ブレットの商品は誰が買うのか。


 初めてのときはさぞ、驚いただろう。


 いるはずの、私がいない部屋に通されたときは。


 だからブレットは、お祭りの日はいつも来てくれていたのか。忙しい時間の合間を縫って。


 地下室に放置されている私を助けるために。


 どんなに忘れていても、名前を聞けば存在は思い出す。


 私が死んでいるかもしれない地下室に行く人はおらず、メイド長だったメイが降りてきた。


 二人は協力関係にあったわけではないけど、私を助けようとしてくれていた思いに嘘はない。


 正面からはやり合えないから、遠回りのやり方で。


 「ねぇレイ。人の優しさにはどうやったら気付けるのかな」


 優しい人がいると本当は知っていたのに、知らないふりをして目を閉ざし耳を塞いだ。


 殻に閉じ込もり、色眼鏡をかけた状態で人と接するから隠された本心(やさしさ)にも気付けない。


 メイもブレットも昔から私の味方でいてくれていたのに。


 どうせ私なんか……と卑屈になっていたことは認める。


 助けを求めても手を差し伸べてもらえないなら、求めることをやめてしまえばいい。


 私を想い、愛してくれているのはノアールだけ。


 「人と接していれば気付けるようになると思うが」

 「うん。そっか。そうだよね」


 今度こそ私は間違えずに生きていけるだろうか。


 与えてくれる優しさと温かさに気付いて触れて。


 世界を狭めることなく、視野も広くしないと。


 いつの間にか会場にいた人達は花火を見るために外に出ていた。


 中庭のほうは人が多く、テラスには王子を始めとする騎士団数人。


 ──もしかして私達に気を遣ってくれた?


 そんな関係性じゃないのに。


 レイは仕事だからガードをしてくれていただけ。

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