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偽物令嬢〜前世で大好きな兄に殺されました。そんな悪役令嬢は静かで平和な未来をお望みです〜  作者: あいみ
第二章

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この手で守れるものは一つだけ【レイアークス】

 レディーのことは多少なりとも気にはなっているが、恋愛感情ではない。断言してもいい。


 確かに。レディーは魅力ある女性ではあるが、恋愛対象になるわけではない。


 最初は隣国に闇魔法の使い手がいると報告を受けて興味を持った。


 が、それだけ。名前も身分も。どんな生活を送っているのかなんて、興味も示さなかった。


 向こうは世界と違い、真実は語られていないため、闇は悪として後世まで受け継がれている。王家から家族にのみ真実は明かされていることだろうし、その上で自由に生きていると、誰もが思っていた。


 鑑定して、ここに来るまでずっと苦しんでいたことを知った。


 自由はなく、腫れ物扱いを受けて。悪意ある言葉と殺意ある行動によって、心身共に深い傷を負っている。


 レディーが望む“普通”の生活を送って欲しい。純粋にそう思った。


 傷ついた心が癒え、苦しみ泣く回数よりも多く笑ってくれるのなら……。


 それが叶うのがリーネットだと言うのなら、喜んで協力はする。


 こうして二人でいるのも陛下からの命令で、仕事だと割り切っているから。


 プライベートで人と会うのはあまり好きではない。


 たまの休みは好きなだけ寝ていたいし、自分の時間で好きなことをしていたいのだ。


 「レイはどうして独身のままなの?女性恐怖症とか?それとも初恋の人が忘れられないとか?」

 「期待に応えられなくて悪いが、誰かを好きになったこともない」

 「それは……ごめん」

 「なぜ謝られたのかは敢えて聞かないが。そんなにおかしいか。恋愛経験がないのは」

 「おかしいというか。理由は気になる」


 興味本位ではなく、純粋に知りたがる目。


 陛下を含めた数人には話しているし、レディーに隠し立てする理由がないから答えた。


 スウェロには教えていないが。婚約者がいるのに私の真似をされても困るからだ。


 婚約者と過ごしてきた時間を簡単に手放せるほど、想いがないわけではないが。スウェロの私への憧れは度を超えている。


 「私は器用な人間ではない。それだけだ」


 レディーと向かい合う。


 月明かりに照らされたことにより、私の色はより強調される。


 「どこの国でもそうだが、王族は金眼であることがほとんどだ。ごく稀に母親の色を受け継ぐ者もいるがな」


 私はごく稀の人間より、かなり異色の人間だった。母親からの色さえ受け継いでいない。


 両親ではなく、片方の家系から過去に遡り、先祖二人分の色を同時に受け継いでいる。


 忌み子として扱われても仕方のない私を拒絶することもなければ、金眼じゃないからと周りは私を否定することはなかったし、家族も充分すぎるほどに愛してくれていた。


 言葉や態度で「愛している」を伝えてくれる。嘘偽りがない想いだった。


 昔の兄上は気が弱くて臆病。人と話すのも得意ではない。


 いつも弟である私の背中に隠れるような人だった。


 私はそれを鬱陶しいと思わなかったし、魔法が個性のように、性格は人それぞれ。直すべきだと口にしたことは一度もない。


 第一王子が弱腰ではダメだと教育係が強く育てようとしたが、どうにもならなかった。


 雷と水と風。三つの属性を持つ兄上の魔法は使いようによっては小さな国を滅ぼすことも可能。魔力も多く、道を外れ悪事を働かれたら我々にはどうすることも出来ない。


 皆、心の底から安堵していた。兄上に『侵略』する意志がなかったことに。


 五大属性で雷魔法は特に得にくいもので、光や闇には及ばないものの希少価値は高い。


 争いが嫌いな兄上が人を傷つけるために魔法を学ぶつもりはないらしく、王太子の座は私に譲るとまで言い出す始末。


 のしかかる重圧に押し潰されてしまうよりは、そのほうがいいのだろうと兄上の代わりに継ぐつもりだった。




『色でしか人を判断出来ない君達よりも、弟のほうが誠実で頼りになる』




今となってはもうなくなったが、昔はよく瞳の色のことで絡まれていた。


 たまたま通りがかって聞こえてきた兄上は、他国の王子達に面と向かって発言していた。


 前後の会話を聞いていないため、よくわからないが私の瞳の色を貶したのだろう。


 自国が認めてくれているとはいえ、他国からしたら私は紛い物。


 言われ慣れているし、右から左に聞き流すスキルを身に付けたから全く気にしなくなった。


 それが面白くなかったのか、こうして陰口を叩かれることが増えた。


 兄上も最初からその場にいたわけではないだろうけど、私への悪口を耳にしてしまい我慢出来なくなったというところか。


 それが何だか無性に嬉しくて、他人を思いやれる兄上こそが玉座に座ることが至極当然だと思った瞬間。


 その日から私は兄上を説得した。


 人前で話すことが嫌なら私が代わりに話す。汚れ仕事も、政治も全て。


 世界を照らす光でも、世界を救った闇でもない。


 国民を正しく導ける兄上こそが人の上に立つに相応しいのだと。


 「それがなぜ、独身でいることに繋がるの」

 「結婚して家庭を持てば、当然のことながら家族も守らなければならない。私にはそれが出来ないんだ」


 兄上に忠誠を誓ったあの日から、兄上が愛するリーネットを守ると決めた。


 同じように家族を守れるかと問われたら無理だ。大切な物を同時に守れるほど器用ではない。


 中途半端になって、どちらかを守れないらいっそ、守るべき物を一つだけにすればいいだけ。


 ワガママの度が超えていることは理解している。それでも、私は兄上に世界中の誰もが認める王になって欲しかった。


 「よく許されたね。そのワガママ」

 「兄上が変わったことが大きかったのだろう」


 説得が上手くいき正式に王太子が発表されてから、それまでの弱々しい兄上はいなくなり、私の背中に隠れることなく堂々と胸を張って歩くようになった。


 …………いなくなったというのは誇張しすぎた。


 正確な表現をするなら、怖いことに立ち向かうようになった、だ。


 元々、芯の強い人であったからキッカケさえあれば変わる。


 優しくて強い王として民を待ってきた兄上の人望は歴代最高。


 「飲み物のおかわりは?」

 「同じのを」


 空になったグラスを受け取り給仕を呼んで、新しいのと空のグラスを交換した。


 レディーからそんなに離れているわけでもないのに、子息達は果敢にも声をかけようとテラスに出ようとする。


 兄上……陛下は脅しに近い笑顔を向けてくる。


 レディーには恋愛感情を抱いていないと説明したにもかかわらず、私を虫除けに使う理由とは一体。


 陛下から下った命令のため投げ出すつもりはないがな。


 喜んでレディーの盾となる男なら一人いるだろうに。そっちに頼んでくれればいいものを。


 若者の出会いやチャンスを奪う権利など、我々には持ち合わせてはいない。


 「待たせてすまない」

 「いえいえ。待ってないよ」


 匂いだけで酔っ払った黒猫を起こさないように優しく撫でる姿は悪女とは程遠い。


 噂なんてものは尾ヒレが付いたり、悪意によって捻じ曲げられることのほうが多い。


 ハーストは真実を覆い隠してしまっているから尚更。


 「そうだ。第三王子の……。あのとき何を鑑定していたの」

 「怪我の具合だ。魔法で受けた怪我は属性によっては緩和したり、痛みを消すことは出来る」

 「んー。例えば炎で焼かれたときは水で冷やす、みたいな?」

 「そういう感じだな」

 「鑑定って実はめちゃくちゃすごい魔法なんだ」

 「鑑定だけだ。私に出来ることは」

 「だけって……。その鑑定のおかげで助かった命があるなら、レイが助けたも同じじゃないかな」

 「そういうものか?」

 「うん!」

 「そうか。なら、これからは誇ることにしよう」


 滅多に私が呼ばれることはないが。


 あそこまで酷い怪我は年に一度あるかないか。


 今までは緩和するための魔法と回復魔道具で命を繋げてきた。レディーがいなければレクシオルゼの功績が称えられ、当の本人はこの場にはいなかった。


 救えなかった命は多い。自らの命を投げ打ってでも魔物を討伐してくれる彼らには感謝する日々。


 騎士団が巡回と討伐をしてくれるおかげで、人や国の被害は抑えられている。


 「あ!それと変なこと聞いてもいい?」

 「私に答えられることなら」

 「おかしかったら笑ってくれてもいいから。その……私って……美人、なの?」

 「…………ふっ、くく」


 笑うつもりなんて、これっぽちもなかったのについ笑ってしまった。


 生まれて初めての質問に笑いが止まらない。別のことを考えようとしても、レディーが隣りにいるだけで自然と面白くなり笑いが込み上げてくる。


 熱を冷ますように片手で顔を仰ぐレディーは今の質問を取り消そうとする。


 「レディーはとても美しいよ」

 「乗らなくていいから。私をダンスに誘ってくれた人達の目が好意的だったから。気のせいかもしれないんだけど!!」

 「大声を出すと猫が起きるぞ」


 慌てて口を閉じ、寝返りを打った黒猫が起きていないかを確認した。


 幸せそうな寝顔。どんな夢を視ているのかが気になる。


 「自意識過剰でもなければ気のせいでもない。彼らはレディーが美しいから一緒に踊りたかったんだ」


 新しいカクテルを渡すと一気に飲み干した。


 体の内側から冷やそうとしているようだが、そこまで冷たいわけではない。


 物理的に距離を取り、大きく深呼吸をしていた。


 何とも不思議な質問だったな。


 鏡を見れば容姿が整った自分が映るだろうに。黒髪もそうだが、以前の髪色もよく似合っていた。


 「レディーは自分に自信がないのか?」

 「元婚約者が私の姿はおぞましいと言ってるのを聞いて」


 過去のことと割り切るにはあまりにも傷ついたのだろう。


 言っているのを聞いたということは、陰で悪口を言っているのを偶然にも聞いてしまった。


 よりにもよって婚約者の口からそんなことを言われたら自信もなくす。


 ──私には庇ってくれる兄がいたが、レディーには……。


 黒猫を調べるためにレディーを鑑定したときに過去を少しだけ見てしまった。


 味方のいない世界で生きるのはさぞ、辛かったに違いない。


 「はぁ!?女神様の元婚約者はケールレルでしたね!?その首は今すぐに俺がはねてきます!!」

 「「…………」」


 今日の主役であるレクシオルゼが目の前で怒りの炎に包まれているのを見ると冷静になれた。


 命を救われた瞬間、ほとんど意識のなかったレクシオルゼはぼんやりと霞む視界の中で泣きじゃくるレディーを女神だと思い込んだ。


 ──いや……まぁ、私も悪かったと反省している。


 レクシオルゼがあまりにもレディーのことをしつこく聞いてくるから、適当にあしらったのがいけなかったのだろう。


 恋に落ちるのではなく、崇拝する理由が謎で仕方ない。


 よくよく考えたらレディーは黒髪。捜し出すのに時間はかからない。


 会場で一際目立ち注目されていたレディーが、レクシオルゼの目に留まらないわけはなかった。


 陛下や私に招待状を送らない選択肢はなく、君のおかげで救われた命があるのだと知って欲しかった。


 レクシオルゼの目は輝いていた。レディーの前で片膝を付いては感謝を述べる。


 「女神様。俺を、いえ。私を治してくださりありがとうございました。貴女様がいなければ、こうしてお会いすることも出来なかったです」


 うっとりとした表情は恋とは別物の、尊敬を通り越した崇拝者。


 そんな目を向けられるレディーが一番困惑している。


 助けを求めているようだが正直、私もどう扱っていいのかがわからない。


 スウェロのことも放置気味なのだ。新たなる崇拝者の誕生など勘弁して欲しかった。


 「と、とりあえず。立って下さい」

 「しかし。女神様とお話するのに見下ろすなど」


 レクシオルゼのほうが身長は高いため、ごく普通の男女のようになるのは当たり前。


 見下ろすことが嫌だから見下ろされていたのか。


 これが甥とは認めたくないな。


 「その女神様というのもやめて下さい」

 「私如きが女神様のお名前を口にするなんて恐れ多い」


 色々と諦めて受け入れたほうが楽になる。


 レディーはそんなことを求めているわけではないだろうから、私としても口は出せない。


 このまま見て見ぬふりをしていたら、陛下の命令に背くことになる。


 「レディーを困らせるな」


 首根っこを掴んで力ずくで立たせた。


 「何をするのですか、叔父上」

 「会場に戻れ。皆がお前を捜しているぞ」


 主役がいないことで会場内はやや騒がしい。


 視線だけを動かし中を見ては、頭を抱えたくなることを堂々と言い切った。


 「パーティーより女神様と過ごす時間のほうが大切です」

 「はぁ。レディーからも言ってもくれ」

 「王子……殿下。このパーティーは殿下と騎士の皆さんの功績を称えるものです。ここにいるより中にいたほうがいいのではありませんか」

 「女神様が仰るなら。わかりました!今から戻ります。また後で、会いに来ます」

 「え……」


 驚きの後には「嫌だ」と続きそうだ。相手が王族だから気を遣って言葉を飲み込んでくれた。


 嫌なことは嫌とハッキリ言ってくれて構わない。不敬にはならないし、言わなければ調子に乗らせるだけ。


 レクシオルゼは大人しく戻り、すぐさま人に囲まれる。


 人気はあるからな。


 外見もそうだが、とにかく性格が良い。


 スウェロとアルフレッドもだが。


 レクシオルゼは騎士団長ということもあり、困っている人間は放っておけないし、魔物討伐でも仲間を庇い怪我をすることも多い。


 そのせいで命を落とす結果となってしまっても、仲間を守れたことに安堵する。


 全く。他人を思いやれるのもいいが、少しは自分のことも考えて欲しいものだ。


 まさか、自分が死んでも誰も悲しまないと思っているわけではないだろうな。


 あんなにも慕ってくれている部下や国民が泣く姿を想像しないとは。


 今度、そういうことも含めて話し合うべきかどうか。


 わざわざ口にしなくてもレクシオルゼなら周りの想いを感じ取っているはず。


 「レディー。私も君に聞きたいことがある」


 レクシオルゼのおかげでレディーの熱はすっかり引き、いつも通りに戻っていた。


 「私に?」


 聞いてもいいのだろうか。本人でさえ知らない可能性のほうが高いのに。


 心に傷をつけることになってしまったら責任の取りようがない。


 なるべくオブラートに包むように言葉を探していると


 「もしかして、私の出生のこと?」

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