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偽物令嬢〜前世で大好きな兄に殺されました。そんな悪役令嬢は静かで平和な未来をお望みです〜  作者: あいみ
第二章

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誰かを救うことは出来る

 女の子の家に行くのは私とノアールだけ。メイは家具を見に行くそうだ。


 ルイセの魔法は家と、食事をするためのテーブル、眠れるようにベッドだけは造られていただけで、その他の物は自分達で調達しなければならない。


 私としてはくつろぐためのフカフカのソファーがあれば文句を言うつもりはない。あと、ノアールの遊び道具。


 家なんて物が少ないほうが良いに決まっている。広いほうがノアールも走り回れて楽しいだろうし。


 シンプル・イズ・ベスト。


 女の子は家の外で立っていて、まるで誰かを待っているかのよう。


 私を見つけると女の子は走ってきた。


 向き合うと決めたんだ。


 目は治らないことを伝えて、それから……。謝らなくては。期待をさせてしまったことを。

 ありもしない希望に縋る惨めさは時に苦しみを与える。


 「聖女様!ありがとうございます!!お母さんの目が、また見えるようになりました」


 子供の笑顔はなぜこんなにもキラキラ輝いているのか。


 純粋で欲にまみれていないからだろう。


 気休めの祈りしかしていないのに治った理由がわからなくて頭が混乱していると、女の子が私の手を取り家まで走った。


 朝、見えるようになったばかりの母親は子供達にベッドから起きることを止められていた。上半身だけを起こし、小さい子が危ないことをしないか見張っていた。

 昨日まで閉ざされていた目が開いている。


 私を見た母親はその場に正座をして深い土下座をした。


 「聖女様。この度は本当にありがとうございます」


 腕の中から顔を出したノアールは「うみゃ?」と緊張感のない愛らしい声で鳴く。


 魔法を使ったわけでもないのになぜ、目が見えるようになったのか。


 泣いて感謝されると良心が痛む。私は本当に何もしていないのに。


 「体調に変化はありませんか?医師に診てもらったほうがいいのでは」


 素人判断は一番怖い。きちんとその道に精通したプロの意見を聞かないと。


 何かあってからでは遅いのだ。


 朝一番だというのに、呼ばれたら駆け付けてくれる五十代前後の男性医師はとても慕われている。


 医師は驚いていた。


 失明や失った体の一部を治すのは最上級光魔法でしかありえない。


 これは奇跡だと大声を張り上げる。


 そう、奇跡が起きたんだ。


 子供達が母親を想う美しい姿に、神様が魔法をかけてくれた。


 そう思ってもいいよね。


 音を立てずにそっと外に出た。何もしていない私があの場にいても気まずいだけ。


【シオン。人の熱がすごいね】


 言われてみれば確かに。


 さっきは気付かなかったけど、お祭りみたいな飾りが至るところに付けられている。


 露店の店主に何があるか聞いてみると、魔物討伐に出ていた第三王子が帰還すると連絡があり、国民は大盛り上がりらしい。


 第三王子は王太子の座を早々に辞退し、国民を守る剣となるために騎士団に入団。実力は本物のため、みるみる成果を上げて今では騎士団長。


 ──人望が厚い人なんだな。


【ねぇシオン。昨日行った建物、すごく騒がしいよ】


 耳をピクピクさせるノアールは、遠くの音を正確に拾う聴覚を持つ。


 騒がしいのはきっと王子が帰還したから。


 …………待って。それならなぜ、国民には帰ってきたことが知らされていないの?


 こんなにも慕ってくれているのだから、パレードのようにその姿を見せながら王宮に戻ったほうが良い。


 魔物討伐なんて危険な仕事から帰ってきて、国民だって無事な姿を望んでいるはず。


 人前には出られない。大怪我をしているとか。


 私が行ったって何かが出来るわけではない。そもそも、大怪我をしたかもしれないなんて私の想像。


 悪い予感なんて滅多に当たるわけがない。


 そう思いつつも足は王宮へと向かい、気付けば走っていた。


 門兵は髪の色が変わっても私の顔を覚えていた。スウェロ殿下の命の恩人だと。


 第三王子のことを尋ねると、騎士寮で治療を受けていた。寮は敷地内にあり、持ち場を離れられない門兵は行き方を丁寧に教えてくれる。


 寮に近づくにつれて私にも人のざわめきが聞こえてきた。そのどれもが心配する声。


 嫌な予感が当たってしまった。


 騎士の間を縫って中に入り、入り口を塞ぐように人集りが出来ている部屋を見つけた。


 この部屋だけ、やけに光っている。


 多分、回復魔道具が埋め込まれているのだろう。回復専用の部屋とか、そういう感じかな。


 騎士は訓練でも怪我をするから、その都度魔道具を使うより部屋に入って回復させたほうが効率は良い。


 ──中に入った人の魔力で作動するのかな?


 人の隙間から目に飛び込んできた光景は、全身に酷い火傷を負い呼吸も浅く、今にも死んでしまいそうな男性。


 部屋の隅に亀裂が入り、そこからレイと側近の女性が出てきた。


 光魔法を持っていないレイがこの状況で現れたことに疑問を抱く。


 腕に触れたということは鑑定しているのかも。


 「レイアークス様!団長は……レクシオルゼ様は助かりますよね!?」


 副団長と思われる騎士がレイに詰め寄った。よく見ると彼も、軽傷ではあるものの体のあちこちに火傷がある。


 ──庇ったのね。


 騎士団長とはいえ、やはり他人のために命を懸けられる姿はカッコ良い。


 あの火力は上級魔物と対峙したのだろう。


 一撃で人間を殺すほどの威力の攻撃を食らって生きているのは、王族としての巨大な魔力を駆使した魔法のおかげ。


 並の貴族なら死んでいる。かろうじてでも息をして生きているのは運が良いのか、それとも……。すぐに死ねずに苦しみ続けることが不幸なのか。


 「レクシオルゼのことは諦めろ」


 告げられた言葉は残酷で、告げた本人は苦しそう。


 この部屋にいることで火傷の激痛は和らぐ。それ以上に出来ることはないと。


 無力な自分に腹を立てているのか爪が食い込むほどに拳を握り締めていた。


 「レイアークス様!私になにかお力になれることはありませんか」

 「レディー?なぜここに……。いや、今はいい。君がいればレクシオルゼは助かる」


 まるで希望を見つけたかのような表情を浮かべながら、私に手を差し出した。


 誰かに必要とされることは嬉しいはずなのに、今の私にあるのは第三王子を救いたい思いだけ。


 自然に作られた道を通り部屋の真ん中に移動した。


 近くで見ると、この状態でも生きているのが不思議なほどだ。

 回復が追いついていないから全身が黒焦げのまま。


 「時間がない。レディーの最上級魔法で傷を全て飲み込んでほしい」

 「待って下さい。私の最上級魔法は……」


 腐敗。


 腐らせてなかったことにするという意味は最適かもしれないけど、あの魔法は人体にのみ発動するもの。

 体の表面の傷には使えない。


 「どんな物も闇に飲み込む。傷も例外ではない。それがレディーの最上級魔法だ」


 どういうこと?だってゲームでは……。


 そうか!腐敗は偶然の産物。シオンの心の闇から生まれた最後の魔法。


 元から持つべき最上級魔法はレイの言っている魔法のこと。


 「集中するんだ。魔力を全て手に集める感覚で」


 両手を王子に向けて、言われた通りに魔力を集める。

 人の命がかかっているんだ。軽い気持ちでやっているわけではないけど。


 失敗したら王子自身を飲み込んでしまう可能性がある。


 私は魔法の基礎を何も習っていない。大雑把に使うことは出来ても、繊細な技術を要する魔法は……無理だ。

 自分から協力を志願したのに、怖くてたまらない。失敗すれば、私が殺したことになる。


 余計なことをしなければ、短い時間だけは生きられる。


 成功するイメージが湧かない。


 どうせ失敗する。


 ギリギリまで生かしてあげるのが優しさ。



 無能は引っ込んでいろ。



 顔のない、今まで出会ってきた人が私を指差す。


 「母親の次は王子を殺すのか」


 唯一、長男だけはハッキリと現れる。


 私を嫌悪し、人殺しと口にする長男に怯えてしまう。


 別に長男が怖いわけではない。


 死んだら終わる。命は有限だ。


 ならばせめて、限られた短い時間を、ギリギリまで生きることこそが幸せではないだろうか。


 無意識に手が下がる。


 「落ち着くんだ、レディー」


 私の手にレイの手が重なる。


 後ろから抱きしめられているような形。耳元で喋られるとくすぐったい。


 「魔力が乱れている」

 「す、すみません」

 「失敗していい。仮にもし、万が一が起きてもレディーの責任にはならない。それでももし、心が苦しいと言うなら、その苦しみは私が半分背負おう。元々、無茶なお願いをしているのは私なのだ。君の共犯になるぐらい、どうってことない」


 心が軽くなった。


 失敗してもいいと言われたからじゃない。


 苦しみを半分、背負ってくれると言ってくれたからだ。


 レイの言葉は本心しかないから信用出来る。


 小さく息を吐いてもう一度深く集中した。


 イメージした。全身の火傷だけを少しずつ黒く塗り潰すように。


 焦ると体ごといってしまうから、丁寧に、素早く。


 レイの手が離れると終わったのだと思い顔を上げると超至近距離にレイの顔があって一瞬、息が止まった。


 王族というのは美形揃い。歳を重ねて色気が出たことにより昔の倍はモテているとみた。


 私は親子ほど歳が離れた人は恋愛対象にはならないから普通にビックリしたけど、歳上好きからしたら最高すぎるシチュエーションで下手をしたら死ぬんじゃないかな。


 あとめっちゃ良い匂いがしてる。爽やかな大人の香り。


 イケてる歳上男性は身なり以外にも気を使っているな。モテるためではなく他人を不快な思いにさせないためのマナーとしてだから、よりモテるのかも。


 モテるコツはモテようとしないこと。なるほど。勉強になる。


 火傷が取り除かれた第三王子はスヤスヤ眠っていた。


 呼吸も正常に戻り脅威はもうない。緊張は一転、安堵の空気に包まれる。


 「レディー」


 レイは正面に移動しては、今度は大きな手で私の両手を包み込む。


 「ありがとう。レクシオルゼを助けてくれて」


 真っ直ぐと私に届けられた言葉。


 力強い瞳が揺れている。涙を堪えているんだ。


 なぜか視界が滲む。


 ノアールが小さな体でレイに体当たりしているのは見えた。


 頬に冷たい何かが流れる。それは涙だった。


【シオン。泣かされたの?ぼくがやっつけてあげる!】


 違う。違うのノアール。


 レイを引っ掻こうとするノアールを抱きしめた。

 嬉しいんだ。


 人目もはばからず子供みたいに声を荒げて泣く姿は滑稽に映るだろう。


 泣き止まなければみんなを困らせてしまうとわかっているのに。感情が爆発して自分では止められない。


 どんなに良家に生まれようとも、魔法一つで人生は変わる。


 周りからの視線や態度、陰口。


 闇魔法を持っていることへの同情はなく、闇魔法を持っていることは罪であると責められる。


 気丈に振る舞ったところで、一人の人間であることに変わりないのに。


 傷つくんだよ。私だって。


 人間には等しく心があるんだから。


 誰かを傷つけて嫌われて。


 闇魔法が忌むべきものではないと言ってくれても、世界を救ったのは私ではない。私は運良く特別な魔法を持っているだけ。


 魔法のことも、使い方でさえわかってもいない。


 それでも……助けることが出来た。


 回復とは無縁の闇魔法で、命を救えた。その事実が嬉しくて。


 ありがとうは私の台詞だ。


 信じてくれなければ私は何も出来なかった。


 王子が生きることを諦めなければ結果は変わっていた。


 リーネットにいれば私はきっと、自分の魔法を好きになれる。


 自分自身で嫌っていた魔法で人の命を救えたことで、ようやくシオンはこの世界に生まれて来て良かったのだと認められた気がした。


 私が泣いている間、レイが気を利かせてくれていて部屋の外にいた騎士はみんないなくなり、絶対安静の王子は副団長と共に別の部屋、もしくは王宮へと空間魔法で移動していた。


 レイ自身は何かあったときにと一人残ってくれていて、私が泣き止むのを待っていてくれる。泣いている姿など見ていないというように、気まずそうに背を向けて。


 そりゃそうだ。いきなり目の前でギャン泣きされて。しかも、その原因が全くわからない。慰めようにもどんな言葉をかけたらいいのかさえも。


 そんな不器用な優しさに気付いたのは気持ちが落ち着いて、泣き止んだあと。


 今日は朝から泣いてばかりだ。


 朝は悲しくて泣いて。今度は嬉しくて泣いて。


 目が腫れずに声も枯れていないのは、この部屋のおかげかな。


 まだ二日目だよ。ここに来て。


 いくら何でも醜態を曝すのが早すぎる。


 背後に隠されたレイの手にはハンカチが握られていて、渡すべきか悩んでいた。


 ハンカチを差し出せば私が泣いたところを見たことになるし、差し出さなければ紳士としてあるまじき行為。


 「レディーが泣いたことは他言しない。他の者にも箝口令を敷いておく」


 渋い青色のハンカチ。受け取ってうっすら残る涙を拭いた。


 「レクシオルゼの帰還パーティーが明日の夜に開かれる。レディーにも招待状が届くはずだ」

 「病み上がりでパーティーですか」

 「上級魔物を三体も倒したからな。功績を讃えたいのだろう」

 「そうじゃなくて……。死にかけた翌日ですよ?」

 「あぁ、そっちか。レクシオルゼは丈夫だから気にすることはない」


 身内がそう言うなら、そうなんだろう。


 私はもう考えるのをやめた。

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