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偽物令嬢〜前世で大好きな兄に殺されました。そんな悪役令嬢は静かで平和な未来をお望みです〜  作者: あいみ
第二章

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何も間違っていない【クローラー】

 シオンがいなくなった。


 私が寝込み、ユファンのおかげで回復した翌日から学園を無断欠席。


 三日も過ぎれば教師から私に事情を聞かれ、その日の夕方、シオンがいないことに気が付いた。


 どうせいつもの迷惑行為。探す理由なんてなく、放っておきたかったが体面がある。


 いくら公爵家の品位にそぐわない者だとしても、グレンジャーの名を名乗っているのも事実。面倒事を起こされる前に連れ戻そうと探させたが見つからない。


 それどころか、妙な噂を耳にするようになった。


 公爵家全員が、シオンを虐待して、いじめていたと。


 噂を聞いたラエルは感情的になってシオンを《《叩いて》》しまったせいかもと反省していた。


 あのときの意識は私にはなかったが使用人から聞いた話では、私が生死を彷徨っていると知るとシオンは笑っていた。


 人の死を喜ぶ非常識を叩いたからなんだというのだ。ラエルは私のために怒ってくれただけであり非難される筋合いも、ましてや責任を感じる必要もない。


 「本当に申し訳ないが、生徒会長を辞任してくれないか」


 生徒会顧問から朝一番で言われた。頭を抱えて苦渋の決断でもしたかのように。


 「根も葉もない噂のことですか」

 「君が辞さないのであれば、他の生徒が役員を辞めると言ってきた」

 「私は虐待なんてしていない!」

 「火のないところに煙は立たない。君は本当に優秀な生徒だったのに残念だ」


 反論しても無駄だと悟った。要件を伝えた顧問は背を向ける。


 私に残された道は一足先に会長の座を後輩に譲ることだけ。


 職員室を後にして生徒会室に向かうと、他のメンバーはまだ揃っていなくアルしかいなかった。


 「どうしてだアル」

 「何がですか?」


 顔を上げることなく書類仕事に精を出す。


 「私ではなく噂を信じたのはなぜかと聞いている」


 キリの良いところまで終わったのか、ようやく顔を上げた。


 「だって叩いていたじゃないですか。ここで。シオン嬢を」


 アルが言っているのは恐らく、レクリエーションのことだ。


 だがあれは、当然の処置。


 彼女が平民で光魔法を使うというだけで、命を危険に曝した。それと比べると遥かに優しい罰。いや、罰とさえ呼べないほど甘い。


 謝罪も言い訳もない、ただ沈黙していたシオンを叱っただけ。そう、あれは躾だ。罰ですらない。


 世間で噂されていることも、虐待ではなく躾。


 忙しい父上の代わりに兄である私とラエルが率先して行う。同性ではないため我々では目が行き届かないところもあり、使用人にも協力を仰いだだけのことだ。


 虐待やいじめなどと騒がれる筋合いもない。


 私達がシオンにしてきたことは何一つ、間違ってなどいないのだ。


 「誤解があるようだから言っておくが」

 「あ、大丈夫です。引き継ぎとかもしなくていいですよ。会長……元会長以外の三年生は残っているので」

 「なっ……アル!!」

 「小公爵様。貴方を見ていると、本当は何も知らないんじゃないかと思う」

 「何?」

 「こちらの話です。それでは小公爵様。後のことは我々に任せて、卒業までの時間を謳歌して下さい」


 アルは一年のときからずっと生徒会メンバーとして良い関係を築いてきた。


 ──それをこうも簡単に突き放せるものなのだろうか?


 立ち上がったアルは笑顔。入り口に移動した。



 ──それとも、アルがおかしいのか。


 どちらでもいい。


 あからさまに開かれたままの扉。私の居場所はここにはないと示している。


 笑顔はすっかり消えた。


 気さくで温厚。誰にでも平等だったアルの瞳は冷たく、心底私を軽蔑しているようにも見えた。


 そんな目をすることにも驚いたが、アルにとって私と過ごした時間は、たかが噂程度で壊れるものだったのかと大きな喪失感を抱く。


 生徒会室を出た瞬間、扉は閉められる。無情にも音を立てて。

 私の存在を拒絶するかのように。


 「クローラー様!」

 「あぁ、君か」


 今までは生徒会の仕事が忙しくて時間に余裕がなかったが、職を辞した今ではどう時間を潰せばいいのかわからない。


 屋上で風に当たりながら何もせずに過ごしていると、ユファンから声をかけられた。


 ユファンを見ていると胸の奥が温かくなる。他の男と喋っているのを見ると、とてつもない胸の痛みに襲われたりもした。


 その手を引いて抱きしめたい衝動に駆られるが、紳士として適切な距離感を保つ。


 「ちょうどいい。レクリエーションの後、シオンに突き落とされたか聞いたとき君は、そうだと答えたな?」


 ヘリオンから報告を受け、被害者であるユファンにも確認をした。


 そのときに「襲われた」と答えたから私はその言葉を信じた。


 この国に生きる者ならば、シオンの悪行の数々を知らないわけがない。


 嘘をつく理由も、公爵家を敵に回す度胸もユファンは持ち合わせていないはず。


 周りの人間には「噂は嘘だ」と否定しているようだが、それらはシオンに脅されているからに決まっている。


 身分やユファンの性格的にも命令されてしまえば従わざるを得ない。


 「もう一度だけ聞く。君はシオンに突き落とされそうになったのか?」

 「…………はい。信じて下さい」


 あの日と同じだ。


 この話題になると、まるで別人のようにユファンの瞳から色がなくなり虚ろとなる。


 本人がそのことに気付いているかは定かではない。


 魔法で操られているわけでもなさそうだ。


 私にはどうしてもユファンが嘘をついているとは思えない。思いたくはない。


 だから信じる。


 疑ったことを詫びるとユファンは私の体に抱きついてきた。


 突然のことすぎて理解が追いつかない。


 ──何が起きているのだ?


 感じる温もり。私の夢でもなければ現実。


 「あぁ。信じている。嘘をつく理由がないからな」


 私を見上げる目には嬉しさからの涙が溢れ、照れたような控えめな笑みを浮かべていた。


 「信じてくれてありがとうございます。クローラー様」


 心臓が跳ねた。


 小さな背中に手を回して抱きしめることは簡単。


 ユファンのほうから抱きついてきたのだから、それに応えることはおかしなことではない。


 「すまない。急用を思い出した」


 背中に回すはずだった手を肩に置き、優しく体を引き剥がす。


 付き合ってもいない男女の抱擁など褒められたものではない。


 ユファンの瞳はいつの間にか色が戻り、慌てて私から距離を取る。


 激しく何度も頭を下げながら非礼を詫びるユファンは、私が知っているユファン。


 無邪気で天真爛漫。貴族にはない愛らしさ。


 三年間。王立学園で魔法を学べば自然と魔力は増える。私と同等になるかはわからないが、上級貴族並の魔力を得ることが出来れば周りは文句は言わないだろう。


 私とユファンが将来を誓い合ったとしても。


 おかしな話だ。私の未来にはユファンがいると確信しているのだから。







 ꕤ︎︎







 「ブレット・フェルバー。貴様の言い訳とやらを聞いてやる」


 噂の出処なんて探せば簡単に見つかる。


 グレンジャー家だけではなく、ケールレルの家事情もやけに事細かに流れていた。頻繁に両家に出入りしている人間はこの男一人。


 放課後に訪ねる予定だったが、私の居場所が急速に失われつつある学園に居づらくなり体調が悪いと偽って早退させてもらった。


 店の奥で子爵と話し合うつもりだったが、なぜか子爵夫人も同席している。


 男は元平民の婿養子。公爵(きぞく)相手に無礼を働かないか監視でもしているのだろう。


 たかが下級貴族が私と対等になったかのように、背筋を伸ばし私から目を逸らすこともない。


 「私は自分の目で見たことを皆に伝えたまでです。言い訳なんて、するつもりはありません」

 「商人風情が知ったような口を聞くな!!」

 「では小公爵様は公女様の何を知っているのですか!?」


 何を、だと?


 アイツが生まれたせいで母上が死んだ。仕事ばかりで私達とほとんど顔を合わせることのなかった父上。


 公爵として忙しいのは理解していたため、寂しくはなかった。父上の代わりに母上が私とラエルを無性の愛で包んでくれていたからだ。


 そんな優しい母上は、あのおぞましい化け物のせいで死んだ。殺されたも同然。


 ──シオンは……アイツは母親を殺した人殺し。


 「小公爵様。公女様はずっと苦しんでいました。助けを求めていました。それを無視し続けてきた結果、あの方は心を失った」

 「ハッ。何を言うかと思えば。アレは一度として、助けて欲しいなどと口にしたことはない。貴様のくだらん妄想で、公爵家を敵に回した自覚はあるのか」

 「助けを求めなかったのではなく、求められなかったのではありませんか。ご家族である貴方方に冷たく突き放されたせいで」

 「その発言。公爵家への侮辱と捉えていいのだな?」

 「お好きにどうぞ」


 子爵如きがよくもここまで私に盾突けるものだ。それは勇敢ではなく無謀というもの。


 小物は小物。違いをわからせてやるために魔力を放出すれば、膝に置かれた手は小刻みに震え、額からは汗が流れる。


 姿勢を崩さないのは流石だが、早い段階で限界がきたようで顔色が悪い。


 「夫人。今日にでも噂の収束をしておくように」


 生まれたときから貴族だった夫人なら、これがお願いではなく命令だと伝わっているはず。


 逆らえば店だけでなく実家も潰れると理解出来ない愚か者ではない。


 「お断りします」

 「なんだと?」

 「虚偽の噂なんて流した覚えはありませんので」

 「それがどういう意味かわかっているのか」

 「助けを求めていた女の子を助けられない代償が、家と店を失うだけなら安いです」

 「夫人。其方は賢いと思っていたが、どうやら私の勘違いだったようだな」

 「愛する人と一緒にいられるのならば、全てを失ってもゼロになるわけではありません」

 「小公爵様。当店は物を売る、或いは買取りを専門としております。小公爵様はそのどちらでも用事がないようですので、本日はお引き取り下さい」


 いくら抑えたと言っても相手は平民。正面から私の魔力をぶつけられて気を失わないなんて、ありえるはずがない。


 部屋に特別な魔道具は見当たらず、この男が耐え抜いたということになるが……。小石程度の魔力しか持たぬ元平民の分際で。


 コイツらと話し合っても埒が明かない。この程度の店ならば今日中に潰せるだろう。


 大して流行っていない店が潰れたところで、誰も困りはしない。



 いつもより早い帰宅に使用人は驚いている。


 体調不良だと伝える前に、執事長が息を切らせて私の元に走ってきた。


 「小公爵様!領地が!!」


 執事長が告げた内容に思わず顔をしかめた。


 予測不能の大雨が領地に降り注ぎ、水が氾濫し畑が飲み込まれた。


 災害は公爵領だけではない。他の領地でも同日に大雨に襲われ、同じように被害に遭っていた。


 そのことで各家門の当主達は王宮へと足を運んだ。


 災害被害は王宮から補償が出ることもあると聞く。被害が多すぎると、特に酷い領地が優先されるため全員に補償がされるわけでもない。


 今回のように同等の被害だった場合、位の高い身分が優先される。


 自室に戻る前にシオンの部屋に立ち寄ると、ゴミが散乱しているからか異臭が漂う。


 母親殺しのためにそこそこの部屋を与えてやったというに、たかが《《嫌がらせ》》をされたぐらいで勝手に部屋を移るなど。


 アイツ一人のせいで、なぜ我々が誹謗を受けなければならない。


 他人の関心を引きたいだけの家出のせいで、長い時間をかけて作り上げたグレンジャー家の名に泥を付けた。


 くだらない承認欲求のためだけに!!グレンジャー家の誇りを汚したのだ。


 許せるわけがない。


 たかがシオン如きが原因で、これ以上失ってなるものか。


 行く当てもない嫌われ者だ。国中を虱潰しに探せばすぐに見つかる。


 見つけた暁にはこの手で必ず……。


 父上が帰ってきたのは陽が沈む前。


 いつもより顔色が悪い。というより暗い。疲れが見て取れる。


 どんなに忙しくても疲れを出すような人ではないはずなのに。


 夕食前。父上は眉間に皺を寄せながら、陛下からご決断を聞かされた。


 領地被害において、グレンジャー領とケールレル領だけが補償されないとのこと。


 「待って下さい!!他の領地は補償されるのに!?」


 驚きだけではなく怒りも混じっている。


 グレンジャー家とケールレル家は古くから国に貢献してきた家門。


 それを補償しないなんて、陛下は何を考えておられるのだ。


 「陛下は、我々が決断したこと故に受け入れろと仰った」

 「決断?一体、どういう意味ですか?」

 「災害が俺達のせいだとでも言うんですか!?」

 「ハッキリと言ったわけではないが、私にはそう聞こえた」


 最近、私達の身の回りで変わったことがあるとすればシオンの家出。


 あれはシオンが勝手にしたことであり、我々は関与さえしていない。

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― 新着の感想 ―
「学園に居ずらくなり」 →「学園に居づらくなり」 細かい指摘すみません。
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