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偽物令嬢〜前世で大好きな兄に殺されました。そんな悪役令嬢は静かで平和な未来をお望みです〜  作者: あいみ
第二章

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憧れの叔父上と自慢の弟【スウェロ】

 私は物心がつく前から叔父上のことが好きだ。異性としてではなく人としてである。


 ずっと憧れを抱いたまま。


 憧れは薄れるどころか、成長するにつれて膨らんでいく。


 父上に似て私はおっとりした性格だからだろう。


 ──まぁ、父上は一国の王であり、ちゃんとするときには威厳を保つけど。


 私はそういうのが苦手だ。だから、いつも凛々しくカッコ良い叔父上のような大人になりたかった。


 女性をレディーと呼ぶのは昔。叔父上が人の名前を覚えるのが苦手で、誤魔化していたからだとか。


 完璧な叔父上にそういう一面があったことは、驚きと共に嬉しさもある。


 叔父上も人の子だったのだと。


 一時期、私も真似をしてレディーと呼んでいたがやめろと言われてやめた。


本気のトーンだったので、無理にでも続ければどんな火の粉が飛んできたことか。


 「気に入ったのか。シオン嬢のこと」

 「何のことですか」

 「普段部屋から出てこないお前が、自発的に出てきたからな」


 叔父上は真面目に仕事に取り組みすぎるせいで、休日は部屋から一歩も出ないことが多い。食事は摂っているし、プライベートの時間に口を出すわけにもいかず、好きなようにさせている。


 鑑定魔法は人の全てがわかってしまうため、極力使わないようにはしているらしい。鑑定から逃れる唯一の方法は、叔父上より魔力が高いこと。


 リーネットでは父上だけが鑑定されない魔力を持つ。

 見られている側はわからないし、叔父上も頻繁に魔法を使うわけでもない。


 「レディーはグレンジャー家の長女だったな」

 「それがどうした」

 「いや。何でもない」


 叔父上は秘密主義者というか。


 人のことをペラペラ喋らないのは利点ではあるけど、情報共有をあまりしてくれない。


 私達が知る必要がないと判断されたのなら、それまでだ。あまりしつこくは聞けない。


 「(それではなぜ、出生が平民になっている?公爵の隠し子というわけでもなさそうだし、レディーは生粋の平民。本人がそのことを知っているのかどうか……)」


 難しい顔をするときは絶対、私達に知り得た情報を語ってくれない。


 一度こうと決めたことは何があっても曲げない姿勢は本当にカッコ良いし、どうやったらあんな鉄の信念を持てるのか。


 育った環境に差はないはずなのに。


 幼い頃からその背中を見てきた。いつかは追いつけると信じて、ひたすらに走って手を伸ばし続けてきた。


 成長するにつれて、叔父上の凄さだけを目の当たりにするだけ。心が折れるどころか益々、憧れの対象に。


 「レイアークス。話を逸らすな。シオン嬢は気に入ったのか」

 「本気で聞いているのですか。兄上」

 「当然だ」


 叔父上はこれまで浮いた話の一つもない。歴史上初。女性と付き合ったことのない王族。


 婚約も全て断るほど。


 女性が嫌いなわけではなく、一生独身を貫くと謎の決意をしたとか。


 そんな叔父上が女性に興味を示したかもしれない。だって叔父上の髪や瞳をあんな風に褒める人は今までいなかった。ちょっとしたことがキッカケになるのが恋愛。

 兄として色々、手を貸したいのだろう。


 シオン嬢の意志を無視しない程度に。


 「あそこまで歳下すぎると恋愛感情なんて湧かない。それに、レディーは王太子殿下の想い人ですよ」


 私は王太子ではない。


 向いていないのだ。性格的にも。


 人に厳しくすることが出来ない。怒るのも苦手。改善点を一緒に考えるだけで、根本的に何がどういけないのか、本人に伝える勇気を持ち合わせていない。


 他人の良い所は簡単に見つけられるのに、(ダメ)な所はからっきし。見ようともしない。


 家臣に頼りっぱなしの情けない王になることは目に見えているので弟のアルフレッドに継いでもらった。


 最初のうちは私を気にしていたアルも、私にその気が全くないとわかると首を縦に振ってくれた。


 その際に、私は頼りなくはない。自慢の兄だと言ってくれたのが嬉しかった。私にとってもアルは自慢の弟。

 もう一人の弟。レクシオルゼは十五歳で騎士団長に任命された実力者。


 コネではない。魔物討伐を専門とする第二騎士団は身分というコネだけでやっていけるほど甘くはないのだ。

 兄としては複雑な気分。


 史上最年少で団長になったのは誇らしくはあるけど、大切な弟が命を落とすかもしれない。


 毎度の事ながら、無事な姿を確認するまで生きた心地がしない。


 レクシオルゼが自分で選んで決めた道を、兄という理由で否定して奪っていいはずもなく。


 辞めてほしいとは言わないけど、せめて生きて帰ってきてほしいと願うばかり。


 「今は身分を隠して伯爵として王立学園に通っているんでしたっけ」


 隣国の王太子の誕生日に初めて出向いた日。アルは恋をして帰ってきた。


 あの時点ではまだ、初恋の相手が闇魔法の使い手だとは知らずに、彼女自身を好きになった。


 相手のことを詳しく調べていくうちにグレンジャー家の公女であることが判明。色々な噂も流れており、悪名が轟いていた。


 悪女。


 たった一言で表せてしまう。


 でも、アルは誇張された悪意ある噂に耳を傾けることなく、その目で見た彼女の涙を信じた。


 アルは彼女に笑顔でいてほしくて、彼女の幸せの傍には自分がいたくて。必死に父上を説得して隣国への留学を認めてもらえた。


 三年間。正体がバレずに過ごせたら彼女……シオン・グレンジャーへの告白を許された。告白のときにも身分を明かしてはならない。


 当然だ。隣国といえど、王太子からの誘いを断ることは公女にも不可能だ。


 強制してはならない。


 誰を好きになり、生涯を共にするかを決めるのは彼女だけ。


 身分や権力しか持たない私達が介入することは出来ない。


 アルと彼女はたった一年しか一緒にいられないけど、《《ちゃんと》》していれば普通に恋愛対象になるんだけど……。


 アルは一途すぎる。それが裏目に出ないか心配していたが、まさか。婚約破棄させるために王族の力を借りるとは。


 本人が望んでいた婚約ではなかったため、向こうも協力してくれたに過ぎない。


 アルはバカじゃないからそのことはわかっているはず。


 決してアルの味方をしてくれたわけではない。


 「レディーの居場所は王太子殿下にも教えないつもりですか」

 「当たり前だろ」


 叔父上の疑問にキョトンとしながら父上は答えた。


 アルが言いふらすことはないとはいえ、わざわざ教える必要もない。アルの想い人だとしても。


 約束まで一年を切った。卒業前にアルが戻ってくるとは思えない。卒業して、そのままシオン嬢を探しに行くのかな。


 その前に、私達に連絡の一つでも送ってくるはず。


 私が無理に王太子の座を押し付けたのだ。戻って来いなんて言えない。


 王太子としての勉強は既に終えているし、二十歳までに帰ってくるのであれば、私も父上を説得するつもりだ。


 ──シオン嬢はリーネットにいるんだけど。


 ただ、本気で叔父上がシオン嬢に気があるのなら、父上はきっとアルより叔父上を応援する。

 父親としてより兄として、弟の幸せを願ってきた人だから。


 「あ、あの!シオン嬢には伝えなくていいんですか」

 「何をだ?」

 「ですから……。ハースト国はこれから」

 「スウェロ」


 名前を呼ばれた。それだけで理解する。


 それは口にするなと言われた。


 確かに国を出たシオン嬢には関係のないこと。わざわざ教えて、晴れやかな気持ちを台無しにするなんて。

 シオン嬢がどんな思いで危険な森を抜けて国境を超えてきたのか。


 言葉で聞くしかない私には想像も出来ない数々の痛みに耐え兼ねてなのだろう。


 痛みを知る人間は優しい。シオン嬢がハースト国の現状を知れば胸を痛める。


 闇魔法の加護を受けた国は災害や天災から守られ、人々は恩恵を受ける。


 が、逆も然り。


 加護がなくなれば災害や天災は起こり得る。全ての必然が返ってくるのだ。


 彼女が受けた痛みはいずれ必ずハースト国を襲うだろう。


 因果報応とはまさにこのこと。


 ──甘んじて受け入れるのか。ハースト国王家は。

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