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偽物令嬢〜前世で大好きな兄に殺されました。そんな悪役令嬢は静かで平和な未来をお望みです〜  作者: あいみ
第一章

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嫌い

 昨日あのまま、疲れて眠ってしまっていた。あの部屋で。朝一番にお風呂に入って、そのまま支度をしてノアールに見送られながら屋敷を出た。


 長男と顔を会わせたら怒りで我を忘れてしまいそうだったから。


 ──学園にノアールも連れて行けたらいいのに。


 ノアールは賢い子だから大丈夫だと思うけど、こうして離れていると心配。


 昨日のことで長男に仕返しされていたらどうしよう。


 「シオン」


 俯きながら歩いていると不意に声をかけられた。


 顔を上げて相手を確かめるまでもない。


 ため息をつきながら顔を上げた。


 「何かご用ですか。婚約者様」


 まるで私を待っていたかのように、目の前に立つ婚約者様の雰囲気はいつもと違う。


 ドキッとはしないけどね。


 「これを……君に渡したくて」


 ピンクのリボンでラッピングされた白い箱。


 見るからにプレゼント……よね?


 嫌っているシオンに婚約者様がプレゼントってどういうこと。


 触った瞬間に爆発するとかないよね。怖いんだけど。


 警戒して受け取らないでいると、不機嫌そうに私を睨みながら一歩近付いてくる。


 から、私も反射的に下がった。


 「信じなくてすまなかった。これはその詫びだ。ユファンに選んでもらった。君に似合うはずだ」


 あぁ……。悪意なく心を抉ってくる。


 本気で悪いと思っているのなら、他人に、しかも女性に選んでもらった物を渡したりはしない。


 こんなにも誠意が感じられないプレゼントを堂々と渡してくる神経を疑う。


 「いりません」

 「なぜだ」

 「なぜ?わかりませんか?本当に?」


 聞いたところで婚約者様は何もわからない。


 「レクリエーションのときの話をしているのですよね」

 「そうだ。あのときユファンを突き落とそうとしたのではなく、助けたことを聞いた。だから……」

 「それなのに、貴方様は噂の収拾に動いてはくれないのですね。お詫びの品を他の女性と買いに行く暇はあるのに」


 そもそも、噂が広まった一番の原因は婚約者様が騒いだせいだ。


 本来ならプレゼントでご機嫌取りをするのではなく、噂は真実でないと訂正するのが筋。


 自分の勘違いだったと言ってくれれば、少なくともその時点で噂は収まっていたかもしれないんだ。

 そんな簡単なことをしてくれなかったのは、自らの恥を晒したくなかったから。


 そして……。


 婚約者様が私を理由にユファンと出掛けたかった。


 そのことを指摘したらどんな反応をするのか。


 「こちらはユファンさんに差し上げたらどうですか」

 「シオンのために買ったんだ!!」

 「婚約者様。私は物なんかよりも、信じてくれるだけで良かったのですよ」


 シオンがそんなことを言うなんて思ってもいなかったのか。一瞬、目を見開いたあと弱々しく視線を逸らした。


 そういえば一人だけいたな。私を信じると言ってくれた人。


 その場に居合わせたわけでもないのに、噂を真に受けることなく。


 ──いや……。あれは哀れみから言ってくれただけ。


 真相なんてどっちでもいいんだ。


 「婚約者様。早く婚約破棄を致しましょう。このままでは二人共、不幸になるだけです」

 「不幸……?」

 「もちろん、私達は政略結婚であることは承知しております。ですが、私と婚約したままではユファンさんと結婚はおろか、お付き合いも出来ないではありませんか」

 「待て!なぜここで、ユファンの名前が出てくる?」


 しまった。口が滑った。


 プレゼントをくれるぐらいだからてっきり、婚約者様はシオンに気があるのかと思ったけど、そうではない。


 ユファンのことを言えば、まるで秘めた恋心がバレたかのような顔をしていた。


 頬を赤らめて口元を隠す仕草。


 しばらく沈黙が続き、固く結んだ口が開かれた。


 「私ならシオンを助けてやれる」

 「助ける?信じてもくれなかったのに?」

 「あれは……!仕方ないだろう。光魔法のユファンに嫉妬していると思ったから、だから……」

 「私にとって婚約者様も小公爵様達も同じです。最初から信じるつもりがないのなら、そのようなことを口にしないで下さい」


 婚約者様を通り過ぎて学園に向かう。


 彼がどんな顔で、どんな思いをしているのかなんて興味もない。


 嫌いだ、みんな。


 信じて欲しいときに信じてくれない。助けて欲しいときに手を差し伸べてくれない。


 私のことを嫌うのに、無理やり繋がってこようとする。


 早くここを出たい。


 息苦しくて、ただ苦しいだけの世界。


 雨風がしのげれば大きな家じゃなくていい。


 私とノアールの二人で暮らす家。それだけあればきっと、私は幸せだ。


 「シオン?今日は早いんだね」


 ……アルフレッド先輩。サラッと呼び捨て&タメ口。


 いいけどね別に。向こうは先輩だし。年上だし。

 そんな些細なことを気にするほど私の器は小さくない


 「シオンが出るとき、会長はまだ屋敷にいた?」

 「さぁ。見ていませんので」

 「そう、か……。今日は生徒会の集まりがあるのに、まだ会長の姿が見えなくてね」


 長男が遅刻?予定を忘れるような性格でもないだろうに。


 意外と、昨日のノアールにやられた傷で寝込んでたりして。


 それはないか。そんな繊細なら、仮にも妹を本気で殺そうとなんてしない。


 長男の身に何が起きていようと私には関係ないんだけど。

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