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偽物令嬢〜前世で大好きな兄に殺されました。そんな悪役令嬢は静かで平和な未来をお望みです〜  作者: あいみ
第一章

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想いを馳せる【ヘリオン】

 こんなにも腹が立つのは生まれて初めてだ。


 放課後、シオンが行きたがっていた店に誘うと断られただけでなく、あろうことか他の女性、ユファンと行けなどと。


 腹を立てているのは、そのことではなくて。


 シオンに断られ、一人で帰ろうとすると小公爵とよく一緒にいるアルフレッド先輩に話しかけられた。


 こちらから一方的に見たことがあるだけで、初対面に変わりはなかった。


 爵位ではこちらが上でも、学園内では歳上には敬意を払わなくてはならない。仲の良い友人や幼馴染みといった関係があれば、変わらず親しく接する者もいる。


 初対面でもある彼は唐突に


 「シオン・グレンジャーと婚約破棄してくれ」


 などと言った。


 伯爵如きにそんなことを言われる筋合いはなく無視した。あの男に関係のないことだから。


 すると、どうだ。



 「貴方は彼女を好きではないのでしょう?」



 そう言った。ハッキリと。真っ直ぐと絶対の自信を持ちながら。


 怒りに支配されたが、攻撃することなく帰路を急いだ。


階級に差があるとはいえ、向こうは三年の先輩。


 屋敷に帰り、人の目がない自分の部屋に入るとカバンをベッドに投げ付けた。


 ──ふざけるな。ふざけるな!!


 確かにシオンとは政略結婚だ。


 魔力に差がありすぎると子供が出来ないため、必然的に俺の相手はシオンしかいない。


 その事実に屋敷の者は酷く嘆き悲しんでいた。喜ぶ者などいない。


 この国の唯一の公女なのに。


 シオン・グレンジャーは呪われたような白い髪をしていて、性格も最悪。


 ドレスや宝石を買い漁り、毎日のように使用人をいじめている。


 極めつけが闇魔法の使い手。


 当時の俺には、たったそんなことで?としか思えなかった。


 見た目なんて気にしない。


 いじめているなんて所詮は噂。


 闇魔法?それがどうした。


 国王陛下だって仰っていた。魔法は個性であると。


 それなのに邪険にして悪者に仕立てようとする意味がわからない。


 政略結婚でも結婚することに変わりはないのに、祝福の言葉をまだ一度も聞いていないことに気が付いた。


 毎日のように可哀想だと言われ続けると、俺は本当に可哀想なんだと思うようになっていった。



 迎えた顔合わせ当日。


 シオンの髪は真っ白ではなく銀色も含んでいた。みんなが悪くいうほど酷いものではない。太陽の光が当たるとキラキラ反射して綺麗だった。


 子供なのに整った顔も美しく、好きに……なっていたんだ。初めて会ったあの日から。


 妻となる人が女神のような美しさを持っているなんて。嬉しくて嬉しくて、浮かれた。


 こんなに美しいのであれば、ドレスや宝石が欲しくなるのもよくわかった。大公家だ。金なら腐るほどある。

 シオンが望む贅沢だって、させてあげられる。


 きっと、いじめの噂はシオンの美しさに嫉妬した使用人の嘘。


 闇魔法だって、光魔法と同じく希少価値が高い。


 シオンは何から何まで完璧だった。


 その日の帰り、俺は浮かれていたのかもしれない。


 だから従者に「そんなに気を落とさないで下さいね」と言われるまで忘れていた。俺の婚約は誰にも祝福などされていなかったことに。


 相手がシオンで良かったと言いたかったのに、俺の口から出た言葉はシオンを侮辱し軽蔑していた。


 ──大丈夫。本人に言ったわけではない。


 そうやって自分を納得させるしかなかった。


 それなのに……聞かれていた。当の本人に。


 言い訳なんて出来なかった。言ったことに変わりはないのだから。


 少なからずシオンは俺に好意を抱いていると思った。時折見せる優しい笑顔は作られたものではないからだ。


 何度か足を運べばシオンが冷遇されていることにも気が付いた。使用人如きが公女をいじめる。兄二人は止めることもなければ、時には自ら手をくだす。公爵に関しては興味を持つつもりもない。


 今の俺ではシオンを救ってやれない。婚約者の立場で我が家に招いても扱いは同じ。それなら大人しく卒業まで待って、俺が家を継いだときに使用人を全員追い出して、二人だけで暮らせばいいと思った。


 俺だけがシオンを救える。助けてあげられると、本気でそう信じていたのに……。


 「よりにもよって、婚約破棄など……!!」


 あんなにも冷たい目を見たのは初めてだ。感情のない虚ろな瞳。


 ユファンを突き落とそうとしたと、決めつけたことを怒って?


 確かにあれは俺が悪かった。シオンは助けたと言っていたのに信じようともせず。


 あの後、ユファンから事の真相を聞いてようやく、自分の間違いを認めた。


 本来なら婚約者である俺が、誰よりもシオンを信じなければならなかったのに、嬉しかったんだ。シオンがユファンを突き落とそうとしたことが。


 シオンが……皆の言っていたように最低の悪女であったことが。


 あのときの俺はどうかしていた。そうに決まっている。


 そうでなければ、シオンが悪女であることを願うはずがない。


 お詫びにと、シオンのために買ったブレスレットを取り出す。女性の好みがわからなくてユファンに選んでもらい、あとは渡すだけなのだが……。


 俺はシオンを手放したくない。強く思うのに、ユファンの笑顔を見ると胸の奥が熱くなる。

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