信じていいの?
「ど・こ・に・し・よ・う・か・な」
空き部屋の多い一階から適当に選んだそこは、公爵夫人が公爵から買い与えられた物が埃を被って放置されていた。
一欠片の愛情でもあればこの部屋は綺麗なまま保たれていたはず。
愛情の反対は無関心とはよく言ったものだ。
こんなにも酷い仕打ちをするぐらいなら離婚を申し出れば良かったのに。世間体なんて気にするような性格じゃないでしょ。
母親大好き長男がそれを許さかったとか?
公爵の性格から考えると、離婚したら女性からのアプローチで仕事の時間が割かれることが嫌だったのかも。
そっちの線が濃厚だね。
ま、私にはどうでいいけど。
どんな考えを持っていようと、彼らにとって空気であり、その辺の石ころと同じ扱い。
「お嬢様。お嬢様!!こんな所に……」
メイド長が走り回って私を捜してた?珍しいこともあるものだ。
息を整えもせずメイド長は私の部屋が何者かに荒らされたと報告してきた。
驚いた。メイド長が自ら私に……。
ドッキリかな。陰でメイドが私を笑ってたりしてね。
廊下に誰かがいる気配はない。
『信じております』
不意にあの日のことを思い出した。
メイド長は本当に私の味方なのだろうか。信じるにはあまりにも………私には敵が多すぎる。
ゲームにだってシオンに味方がいるなんて設定なかった。
黒幕は誰。メイド長にこんなバカなことをさせている。
公爵様の可能性は低い。私がどうなろうが興味ないはず。
となると長男か次男。婚約者という立場を利用して私を監視しようとしているのかも。
この三人以外は流石にありえない。
「お嬢様。こちらのお部屋に移られるのですか」
「まさか」
この部屋を使おうものなら問答無用で長男が殺しに来る。
娘が生まれたせいで夫人が死んだのなら、それはユファンのせいなのに。
なぜゲームでは、そこが追求されなかったのか。ユファンが本物の妹だとわかった途端、角が取れて丸くなった。
優しく微笑んだ。
夫人が死んだことを一度も責めなかった。
心のどこかで私が偽物であって欲しいと願っているんだろう。
せめて髪の色だけでも夫人に似ていれば、少しはマシだったのかな。
【シオン。どこに痛いの?辛そうな顔してる】
「何でもないわ。ノアール。貴方が決めて。私達の部屋を」
【うん!!】
ノアールは本当に可愛い。
尻尾を振りながら大股でお気に入りの部屋を探す。
「お嬢様……」
「ついてこないで」
この屋敷にいる人間は誰一人として信用しない。
どうせ裏切る。
優しくしておいて最後には自分の都合で。藤兄のように。
あんな思いは二度とごめんだ。
「誠意を見せない人を信じるほど、私はお人好しじゃないわ」
──裏切られて殺されるのはあの一回で充分。
私は……どうしたいの。
死にたくないから周りを遠ざけて、でも独りぼっちは嫌で。
ユファンには傷ついて欲しくないから陰ながら守る。
友達になりたいくせに悪態ついて自分から悪者になろうとしている。