私がリーダー
やってしまった。
そう思ったときには遅かった。
今の段階で婚約破棄は私にしかメリットがない。
この政略結婚は大公御一家様が持ちかけてきたこと。公爵様は断ってこの先何度も足を運ばれるのが面倒だったから受け入れた。仕事の邪魔をされたくないからだ。
仕事の時間を奪うのは家族でも、例え国王だろうと許しはしない。
これからどうしようかな。婚約者様にハッキリと伝えてあげるべき?
貴方はもうユファンさんが好きなんです!!って。
──はは……。バカ丸出し。
いくら攻略キャラと縁を切りたいからって早まった。
「シオン様。こんなところで何をしていらっしゃるのですか」
モブ令嬢か。今はお呼びではないんだよね。どっか行ってくれないかな。
「そういえば。お聞きになりましたか?」
「何を」
面倒だから追っ払いたくて睨むと息を飲みながら後ずさった。
このまま逃げ出してくれればいいんだけど、そんな可愛げのある性格ではない。
あのシオンに引けを取らないほどの悪役だしね。
ゲームでも罪の全てをシオンに擦り付けて生き残ってた。
「昨日。あの平民が事故に遭ったそうで」
事故っちゃあ事故か。勝手に足場が崩れただけだし。
「あれはあの女の自作自演らしいですわ」
どこからそんな根も葉もない噂が流れたんだろ。
ユファンはそんな器用な人間じゃないから無理なんだけとな。
モブ令嬢の確信したような目。噂の出処は貴女ね?
それを聞いたところで素直に答えるわけもない。
「私の時間を割くほどの内容ではないわね」
「それだけではありません!そんなことをした理由がシオン様の婚約者ヘリオン様を誘惑するためですわ!!」
絶対にそんなわけないけどモブ令嬢の話の続きをもっと聞きたくなった。退屈しのぎにはちょうどいい。
「見たんです私。昨日の夕方、ヘリオン様とあの女が二人でいるのを。しかも!!あろうことかヘリオン様にブローチを強請ってました」
私も見た。楽しそうに笑い合ってた。
どこに人の目があるかわからないのに、婚約者のいる身で他の女と二人でいれば噂も流したくなる。
「なので身の程知らずのあの女に立場を弁えさせてあげましたわ」
「そう」
それおかしくない?
ユファンをいじめる理由がどうして私のためなの。
平民であることが気に食わないならそう言えばいい。
恩着せがましいことを言っては、いざとなったら私を盾に助かるつもりね。
この女こそ断罪されるべきじゃない。
──このまま私を理由にユファンをいじめられたら私がやらせたことになる。それだけは絶対に嫌!!
私の敵となる人間は排除すると決めた。モブ令嬢には学園を去ってもらわなければ。
他人のせいで殺されるなんて真っ平。
危険な芽は早めに刈り取るとして、誰に密告すれば上手く事が運ぶかしら。
私のほうが権力があるから教師に真実を告げても、私の罪を被せて退学にさせたと思われる。
長男に至っては論外。まず私の話すら聞かない。
ユファンがいじめられてるのは私のせいだと決めつけて、逆に私を退学に追い込む。
──だとすると残された方法は……。
私が彼女らを牽制するしかなさそうね。
退学させられないなら、いじめさせなければいい。そうよ!むしろこれしかないじゃない。
なんでもっと早く気付かなかったのかな。
ということは……うん。私が彼女達のリーダーとなるわけで。
一歩間違えたら確実に私は殺される。
知らないとこで好き勝手やられて冤罪になるよりかはマシ。
「貴女の友人を私に紹介してくれないかしら」
「え?」
「聞こえなかったかしら?」
「い、いいえ!」
厄介者は私が気にかけておくから、ユファンのことは婚約者様なり長男なり、適当な人が守ってあげてよ。
最初から私を悪だと決めつけるあんたらみたいなクズに名誉ある役目を与えてあげる。
しっかりと働きなさいよ。




