初めての出会いで芽生えた感情【sideなし】
自分の婚約者が公女であると知ったとき、何も思わなかった。
魔力のことを考えると、必然的にそうなるからだ。
初めての顔合わせ。
陽光で光る白銀はとても美しくて。
あまり慣れていない、ぎこちない笑顔。
忌避感を覚える黒い瞳。
ヘリオンは思った。心の底から。
──なんて……穢らわしく醜いのだろう。
視界に入るだけでも気持ちが悪い化け物を妻として娶る。
世界中の誰もが非難する中で自分だけが肯定して、愛を与えたとなれば。
それは最早、聖人君子。
ヘリオンは酔っていた。
嫌われ者の公女を寛大な愛情で包み込む未来の自分を。
魔力のせいでまともな嫁を娶れないヘリオンは同情され、文句一つ言わない姿は賞賛に値する。
だが、その想いには敢えて蓋をした。
邪な気持ちを持っていては聖人ではないから。
あくまでも。恋をしたという偽りの感情でなくてはならない。
本心からだった。
公女を「おぞましい」と言ったのは。
本人が聞いていることに気付きながら、ハッキリと。
どう思われてもいい。
将来、公女が縋れるのはヘリオンだけ。
家族どころか、使用人にも冷遇される哀れな公女。
内なる喜びは、自然と笑みが零れた。
それはとても醜悪で、公女を愛していないことを物語っている。




