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偽物令嬢〜前世で大好きな兄に殺されました。そんな悪役令嬢は静かで平和な未来をお望みです〜  作者: あいみ
第一章

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噂は当てにならない

 最悪だ。よりによってなぜこんなとこに。


 見間違いではない。


 この人は、いや、このお方は……紛れもなく王太子様。


 一国の王太子が護衛も付けずに街をフラフラしてるなんて。


 ゲームでもその存在は出てきはしたものの、攻略対象ではなかった。


 彼には婚約者がいてラブラブだと噂はある。歳下で、お互いを尊重し合っているとか。


 だからこそ、より鮮明に覚えている。メインキャラに負けないほどの綺麗な顔立ち。

 王族だからこそモブのようや平凡な顔にできなかっただけかもしれないけど。


「ちょっとごめんね」


 私が謝るよりも先に抱き寄せられ、魔法で透明になった。


 申し訳なさそうな声と、晴れやかな笑顔。合ってなさすぎる。


 これはもう悪いと思ってないな。


 「あの……」

 「しぃー。静かに」


 キレイすぎるその顔に思わず言うことを聞いてしまう。


 ──近っ!!


 意識すると普通ではありえない距離感に頭の中がパニック状態。


 王太子めっちゃいい匂いしてる。

 香水?花のような香りに包まれてここだけ別次元みたい。

 髪もフワッとしてて綺麗。太陽に当てられて色がより強調されて、まさにシンボル。


 「で、殿下」

「ごめんね。少し静かにしてて」


 それはいいけど何なのこの状況!!?意味わかんないんですけど。


 三度目の発言は許されそうにない。ので、黙り込む。

 かろうじて息はしているよ。呼吸止めたら一分と持たずに死にそうだし。


 逆らわず大人しくしていると、王太子は鋭い目で遠くを見ていた。

 こんなにも真剣な表情で……。まさか刺客に命を狙われている!?


 点数稼ぎをするわけではないけど、どんな形であれ知り合った人が殺されるのは目覚めが悪い。

 私に何が出来るかなんてわからないけど、最低限のことはして時間を稼げたら。


「アース様!!隠れてないで出てきて下さい!!」


 腰に剣を差した赤髪のイケメン。

 焦ったように辺りを見渡す。


 なぜだろう。どう見ても暗殺者には見えない。


 ──というかあれは……。


 王太子を捜しているってことはあの人は護衛騎士。恐らく、多分。絶対。


 なるほど。王太子はあの護衛から逃げてるわけね。


 呼吸を浅く極限まで存在感まで消して。


 どう見ても彼は団長。その団長が見つけられないほどこの魔法はレベルが高い。

 背景と同化でもしているのだろうか?


 こんなイケメンに抱きしめられる状態なのに、全然ドキドキしないな。

 どこか他人事のよう。


 付近にはいないと判断したのか護衛騎士別の場所へと移動した。

 緊迫した空気と苛立ちを隠しながら。


「悪かったねグレンジャー嬢。いつもは別の護衛なんだけど今日は用事があってね。セインは融通が利かないとこがあって困ってたんだ」

「だから逃げたのですか?彼は職務を全うしているだけでは?」


 つい正論をぶつけてしまった。王太子は不機嫌になることなく、困らせている自覚があるこのような笑みを浮かべる。


「そうだよ。でもね。私だって一人になりたいときはある」


 それはそうだ。


 次期国王として色んなことを制限されて我慢している。たまの息抜きは大事だ。


 護衛を困らせるのは違うでしょうに。私に口出し出来る問題ではないので、特に何も言うまい。


 彼の人生に私なんかが関わることはないんだ。もう二度と。


「グレンジャー嬢。君がユファン嬢を突き落としたと噂が流れ始めているが、弁明があるならその場を設けよう」

「大丈夫です。それでいいので」

「それでいい?それは自らの非を認めるということになるよ?」

「はい。ですから、それでいいんです。どうせ私の言葉は誰にも届かないので。それでは私はこれで。先を急ぎますので」


 王太子の悪い噂は聞かないからぶつかっただけで死刑になるとは思っていないけど、相手が相手なだけに緊張してしまった。


 このゲームって王太子は攻略対象に入ってないんだよね。普通は王族が攻略対象にいるものなのに。


 私としてはラッキーだよ。ただでさえ他の三人が超絶めんどくさいのに王太子まで攻略者だったら既に死刑宣告を受けているだろうから。


 どいつもこいつもユファンのために容赦なくシオン(わたし)を断罪してくる。


 ──冤罪だけどね!!


 私はユファンに危害を加えるつもりは一切ない。そんな暇はないし、人をいじめる趣味だって持ち合わせていないのだ。


 過去の行いのせいで誰も私の言葉に耳を貸さず信じてはくれないから異議を唱えるつもりもない。


 真実なんてありはしなかった。いつだって彼らが感じた思いが真実であり、私の言葉は意味も力も持たない。


 言葉は(くう)。発しては消えていくだけの。


 私が罪を被らない事には事態が収束しないなら、受け入れるしかないじゃん。


 信じて欲しい人がいるわけでもないし、信じてもらえなくたって……。

 それが当たり前となった今、悲しいとさえ思わない。


 信じてと泣いて喚きながら、必死になって縋ったところで伸ばした手は踏み付けられるだけ。


 惨めだ。冷たく見下されて、それでも尚。縋るしかないのは。


「ふむ……。世間の噂とは少し違うようだな。やはり君の悪女は“自作自演”なのかな?シオン・グレンジャー嬢」


 そう。当たり前になりすぎたんだ。蔑まれることに。

 だから、気付きもしなかった。


 王太子が私に憎しみも嫌悪もなく、一人の人間てして接してくれていることに。

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