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翌朝、シチェルの足の痛みはほぼひいていた。しかし、爪が割れるほどのケガである。無理をさせたくはなかったのだが、ついていきたいというので結局3人でウエストナリィを目指すことにした。
「徒歩で2時間ぐらいですわな。距離はそうありませんが・・・前にも言うたとおり、治安については」
「ああ、わかってる」
しらねがくどいほどに治安について繰り返し注意を促してくる。出身者の言うことなのでほぼ真実なのだろうが・・・。
ちょうどウエストナリィに向かう途中に医師座があるので昨日の掲示板を確認してみたが、一太郎の書き込み以外は増えていなかった。
念のため途中で休憩をはさむがシチェルの足の痛みは悪化することもなく、新通天閣と煙突が並ぶ光景が見えてきた。
「このへんから下町なのか?」
街並みも少々変化し始め、つぎはぎがなされた建物が増えてくる。
「ギリギリ子供のころのうちの移動範囲どす」
「見覚えのある街並みか?」
「見覚えどころか、なーんも変わっとりまへん。そこの鋳物屋んとこ右に曲がって、ようわからん液体並んどる店が見えたら道はおうとるはずです」
そしてしらねの言う通りの風景。
「何屋だあれ」
「どくいりきけんのんだらしぬで、て言われてました」
少なくともドリンクショップではなさそうだ。
「もうちょい進むと大通り・・・おっと」
しらねの前に人が倒れこんできたが、それを避けるとそのまま進む。
「大通りに出たら左折しま。あとは一本道どす」
そして何事もなく解説を続けた。人が倒れた理由すら気に留めずに。
「あ、そろそろそれ準備しときましょか」
さらに、三八式を構えておくように教えてくれた。
「ひどいところだな」
「まあろくな町やあらしまへん」
大通りに出ると何軒かの焦げた建物、屋根の崩れた建物、門扉の外れた建物がたくさん並んでいた。新京都との違いは人の出入りが割と頻繁にみられるところだろう。つまりこれらの建物は単に修理されていないだけで、普通に使われているのだ。
「なあ、なんか斬りあってるんだけど」
「放っときなはれ」
剣を交える音が聞こえても無視である。
「あ、あれでんな」
まだ少し遠いが、火の向こうに国分寺商店の看板が見えた。
「って火事になってんじゃねーか!」
「放っときなはれ」
さらに、別の店から食料品らしい大量の紙箱を抱えて走り出てくる者。
「・・・あれ買い物客じゃないよな?強盗だよな?」
「放っときなはれ」
「なんちゅう町だ」
放っておけと言われても気になるのでちらちら見ながら少しずつ進む。そしてようやく目的の店にたどりついた。新静岡以来探し求めた店がついに小松島の前にある。




