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一太郎と話を終えた小松島が松原屋を辞したのは深夜であった。ウラシマ祭りの混雑もほぼ解消されており、人もまばらな街の中を歩いて旅人座に戻った。

「戻ったぞ」

自室の明かりはすでに消されており、暗がりの中でベッドにしらねが腰かけていた。

「あ、お帰りなさい主はん」

「シチェルは寝たのか」

「はいな、痛み止め飲んだらすぐに」

「いろいろ食べたがっていたが」

「みんな買いましたえ。主はんの分はそこに」

直径3センチほどの飴に竹串が刺さったものがテーブルの上に置いてあった。そのほか、肉と米を炒めた料理に竹串の刺さった鶏肉。

「揚げ芋だけはシチェルはんが食べてしもうて」

「まあ、そのぐらいはいい」

「温めてもらってきましょか?」

「ああ、頼む」

肉炒め飯と鶏串焼きを持ってしらねが退室し、代わって小松島がベッドに腰掛ける。

「まともに歩けるようになるまでは足止めだな・・・」

明日、国分寺商店で油を買って朝霜充てに発送するとどのみちしばらく新大坂滞在が確定する。その油が使い物になるようなら大量に買い付ける手はずを整えないといけないし、ならないようなら代替品を探さないといけない。もっとも、出発前のやりとりからみてほぼ間違いなくアトイ油店の墨油は朝霜の燃料として使い物になると思われる。

「わ・・・なんだこりゃ、空っぽかよ」

これからのことを考えながら串の飴をかじったら、中身はなく空洞になっていた。飴風船の名前の通り、薄い飴の中身はただの空気であるが、初めて見た小松島はそのことを知らなかったのである。ちなみに、中身が詰まった普通の飴より作るのが難しいので値段も高い。祭りなどのイベントで買うならともかく、普段のおやつとしてはコスパが悪い。

「温めてきましたえー・・・あれ、飴風船食べてしもたんえ?」

「ん?いけなかったか?」

「あれは少しずつ舐めて限界まで薄くして遊ぶお菓子なんやけど・・・」

そうとは知らずに一撃でかみ砕いたのだった。

「そうだ、一太郎から聞いたが、俺らの馬車が今こっちに向かってるらしい」

しらねが温めてきてくれた料理を食べながら、今後の予定について話す。

「おおー、そうなんでっか」

「戻ってきたらまた御者を頼むぞ」

「はいな。今度はどこ行きましょか?」

「それなんだが、実は未定だ。おそらく新函館を目指すことになると思うが、そこまでの経路が決まっていない」

「新函館・・・。えらい遠おまで行きますな」

「シチェルの実家はさらに遠いぞ、もしかしたらそこまで行くかもしれん」

「長旅でんな、装備きっちり整えんと」

「そうだな・・・旅慣れてるジェムザのアドバイスがほしいところだ」

「一太郎はんもジェムザはんの行方は掴んどりませんの?」

「らしいな。どの範囲まで捜索したらいいのか相談してきたんだが、どうもかなり広範囲になりそうだ。簡単には見つからんだろうよ」

「心配でんなあ・・・」


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