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「骨が折れている様子はありませんね、小指の爪が割れただけです」
シチェルを診察した医師はそう診断した。
「きつめに包帯を巻いておくので、辛かったら緩めてください」
「わかりました」
とりあえず自力で歩けるようにはしてくれるとのこと。とはいえ。
「これで町を移動するのは無理だな、少なくとも明日は座で留守番してろ」
「えー」
「しらね、シチェルの身の回りの世話をしてやってくれ」
「はいな」
数秒置いて、しらねの反応を確認して付け足す。
「世話というのは、いらんことをしないように見張るっていう意味も含むからな」
「あ、なるほど」
「いらんことって、なんだそりゃ」
放っておくと勝手に歩き出しかねないと考えての対処である。
「ちょっと休んだら帰るぞ」
「祭りは?プララネすくいは?」
「行けるわけないだろ」
「そりゃないよー」
見張りの必要性を再実感した小松島であった。
「せめて揚げ芋買って帰らせてくれよ、もしくは鳥の串焼き」
「・・・帰り道にあったらそのぐらいは買ってやる、とにかく混雑がましになるまで少し休んでろ」
「あーい」
不承不承ではあるが肯定の返事。これなら少なくとも今日は無茶をすることはないだろう。小松島は時間を潰すために掲示板を見に行く。
「医者の募集か」
〇〇の治療ができる方求む!とか、△△で勤務できる医師募集!といったお知らせが目に付く。他、旅に同行できる医師の募集や金持ちの家に住み込む専属医師募集というのもあった。
「ん?」
さっき自分が貼ったジェムザと一太郎一行の捜索願に何か書き足されていた。
『一太郎、松原屋に投宿中』
「・・・本人の字・・・か?」
だとしたら、一太郎は新大坂までやってきて待っているところだろう。思いがけず早い合流ができそうだ。
「シチェル、しらね。予定変更だ、お前らだけで旅人座に帰ってくれ。俺は一太郎のところに行く」
「掲示板に返事ありましたん?」
「ああ、書き込みがあった」
「おー」
「やったぜ、まずは1人見つけたな!」
「1人・・・より多いといいんだがな」
欲を言えばそこに仲間4人全員が揃っていてくれると嬉しいのだが。一太郎は確定として、共に追手を食い止めてくれたヒーナもいるだろうか。ケガもなく無事でいてくれると嬉しい。
「よし、シチェルのことはしらねに任せた。俺は一太郎のところに行く」
「はいな。混雑が引いた頃合いをみて旅人座に帰ればよろしいんどすな?」
「ああ、途中で食べたいものがあれば買ってもいい」
「承知どす」
「シチェル。くれぐれも、くれぐれも無理をして悪化させるようなことをするなよ」
と、念を押しまくっておく。
「・・・揚げ芋と鶏串焼きと、飴風船。あと肉炒め飯」
「買ってよし」
おとなしくする代償なら安いものと許可する。また、食べている間は歩けまいという打算もあった。




