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「まずいことに気が付いたぞ」
「何でありますか」
小松島は少しよろしくないことに気づいてしまった。
「艦尾旗竿と艦首旗竿がない、そしてマストもない」
「ありませんね」
「つまり国旗を掲げる場所がない」
ということは、こちらがどこの所属艦であるかを相手に示すことができないというわけだ。おまけに第一煙突も吹っ飛んだせいで、菊水紋も表示できていないがこれについては大した障害にはなるまい。
「軍規どころか国際法違反だぞコレは」
「上等兵殿が処罰されてしまいますな」
「・・・急いで仮設の旗竿を用意して、日章旗と軍艦旗を掲げさせろ。たしか予備の軍艦旗はこの下の電探室にあったはずだ」
「了解しました」
中田が羅針艦橋から駆け出していく。
「さて・・・あの船はどこの船かだが」
国旗らしきものを掲げた3隻の帆船。3つとも同じデザインの旗だが、少なくとも米英のものではない。
「わかるか?」
「いえ、わかりません」
「自分も知らないであります」
金長、日峰ともに知らないようだ。さすがに国旗の識別表は搭載されていないはず。
「しかし、本当に帆船だな」
「あ、乗組員が見えます」
日峰が双眼鏡で帆船の乗組員を見ていた。
「さっきの漂流者の服装と似たようなものです」
「ということは、この船団からはぐれた漂流者だったのか?」
「・・・上等兵殿、亀の向こうに帆船の残骸が多数見えます」
「ん?」
確かにそれらしきものはたくさん浮いている。そして、多数の漂流者が木片や木箱等につかまって生きているようだ。
「考えるのは後回しだ、各乗員総力を挙げて救助活動へ」
「対潜警戒はいかがいたしますか?」
「亀と帆船に囲まれた状態では雷撃を受けることもあるまい。おっと、あっちの帆船からもカッターが出てきたぞ」
朝霜の内火艇は1艘しかなく、救助活動は捗らないことが予想された。しかし、生き残った船団は仲間を助けるための行動を開始したようで、協力すればそれなりに救えるだろう。
「日峰、金長、お前たちも行け。さすがに艦橋を空にはできんから俺は残る。中田が戻ったら手旗信号で通信を試みる」
「日本語が通じますかね?」
「やってみてダメだったらその時考えるさ。行け」
「了解」
2人が羅針艦橋を出ていく。その間にも朝霜は帆船のひとつにゆっくりと接近していた。