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「ここまでは適当に流してきたけど、この世界の人種について知ってることを聞かせてくれないか」

シチェルが戻った後、入れ替わるように小松島としらねは座の浴場を利用していた。家庭用よりは広いという程度の設備ではあったが、まだ利用者の少ない時間帯である。2人で入るのに不便はなかった。

「はて、どのへんから説明しましょか」

「なになに族というのが一体どの程度の種類あるのかってあたりから」

「そっからでっか。何種類と言われてもわかりまへんなあ・・・。ぱっと思いつくだけでも10や20ぐらい挙げられますけん」

小松島はこれをもとの世界で言う「人種」という単語ではなく「民族」として理解するべきだと受け止めた。

「人種間紛争みたいなのはあるのか?」

「聞いたことありまへんなあ。えろう昔に確か緑人と虫人が争うたことがあるゆーのは知ってますが」

「今は?」

「そら全く争いがないゆうことはありまへんやろけど、人種が理由で戦うのとはちゃいますやろな。例えば虫人やとコガネ族の何某が殺されたーゆうのはたまにあります、けんどそれはコガネ族が貯蓄に励む傾向のある種族やきん金目当てで殺されただけで、コガネ族やから殺されたゆうのとはちゃいますやろ」

「・・・なるほど」

「しいて言うなら蜥蜴人のレプティアン族やら魔人のデーモン族は嫌われることが多いかもしれまへん、けどさすがにそれだけが理由で殺されるようなことはありませんやろ。嫌や思たら離れればええんやきん」

「それはこの世界の話か?それともこの大陸の話か?」

「大陸・・・せや、確かに他の大陸から来たもんはそないなこと言よりましたな。ほんまに理由もなく、亜人やゆうだけで殺そうとするやつらがおるゆうこともあるそうで」

「やはりあるのか・・・」

しらねの体験談ではなく伝聞情報であるから不確実な面もあるのだろうが、あの人のよさそうなルイナンセー氏ももしや・・・という疑惑を打ち消せない小松島であった。


「長風呂だったな」

風呂から上がり部屋に戻ると、例によってシチェルがひっくり返っていた。しかも浴衣姿である。もちろん帯を巻いてある腰まで完全にめくれているのだが。

「いろいろと話し込んでてな」

「シチェルはん、浴衣の下に何履いてますのん」

浴衣がめくれたにもかかわらず足がむき出しになっていないのは、白い布地で隠されているからだったが。

「履いてねーよ」

よく見るとバスタオルを足に巻いただけだった。

「どうすりゃタオルを足に巻き付けたまま逆立ちできるんだ・・・」

「んで、服の洗濯すんのか?」

「ああ、そのつもりだが乾かすのに時間かかるかな?」

「洗濯座なら魔法で洗って乾かしてくれるから一瞬だぞ」

「魔法?」

「はれ、主はんご存じありませんでした?」

「船乗りなのに案外こういうこと詳しくないのな、隆二って」

魔法の存在を知ってから約1週間程度である。それ専門に学んでいるわけでもないのに詳しくなるはずもない。

「洗濯座はすぐ近くどす、うちが行ってきましょか?」

「ああ、頼む・・・いや待て、やっぱり俺が行く」

さすがに支給された軍服を他人に預けてしまうのはまずいと思い直し、小松島が自分で行くことにした。

「シチェルとしらねは待っててくれ」

「はいな」

「じゃあしらねも逆さになろうぜ、足の疲れが取れる」

「おおー、ほなぜひ」

いらんこと教えやがってと思ったが無理に止めることもないかと考え直して、小松島は部屋を出た。


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