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「他に道はないのか?」
「ここまでは一本道で、水に潜った後で分岐がいくつか。そのうちひとつは確実に外に出られますんやけど・・・」
水の中を移動しないという条件で検索できるルートはないということだ。
「・・・仕方ない、ちょっと2人とも石を集めてくれないか」
「石?」
「忍者の秘伝技を使う」
小松島は子供のころ、忍者が大好きだった。忍者の本で文字を覚えたと言っても過言ではないほどだ。
3人は元いた岩場まで戻り、そこで小石を集め始めた。
「合切袋の中を全部出せ。大切なものは服の中にしまうんだ。入りきらないものはあきらめろ」
シチェルの魔法陣が一番大事なものだろうか。それと並ぶのが小松島の座証と金塊。続いて銃弾や銃剣などの装備品。少し迷ったが書きかけの報告書は機密性を考慮し持っていくことに。未記入の用紙やインクは再入手可能と判断し放棄することにした。
「それ、うちが預かりましょか」
「頼む」
しらねの服の中にも少ししまってもらう。少し服の中が見えた。
「・・・しらね、いつから男になってた?」
「はて、いつでっしゃろ?当ててみてくだはりませんか」
シチェルはベルトを外しズボンを半脱ぎにしてシャツの中に物を詰め込んでいた。
「集めた石も詰め込め。下半身中心にだ」
「泳げなくなるぞ」
「泳げちゃ困るんだよ」
「?」
よくわからないながらも言われたとおりにするシチェル。
「空になった合切袋の肩掛け紐の長さを調節する」
合切袋の蓋を開けて、頭からかぶる。肩掛け紐を脇の下に通して、短めに調節した。すると、袋の口が顎の下あたりまでしか上がらなくなる。
「即席の空気袋になるだろ?これを被っていれば水中でも歩けるってわけだ」
「お・・・おお?あ、なるほど」
マリンウォークのようなものだが、空気が送り込まれてこないため時間制限がある点が異なる。大量の空気が入っているので浮力が大きいが、おもりを体につけておけば水底を歩くこともできる。合切袋は水を通さないわけではないが、一応防水加工されているので1時間ぐらいは空気袋として機能すると小松島は考えたのだった。
「欠点は視界が全くないことだ。しらね、しっかり誘導を頼む」
「はいな」
この空気袋作戦は小松島がかつて読んだことのある忍者本に書かれていたものだ。忍者刀の鞘を通気筒にする水遁の術が通用しないほど深い堀の城に潜入する作戦として図解入りで説明されており、「伊賀忍者の秘伝技!」と煽り文句が添えられていたことも覚えている。たしか「甲賀忍者軍団はこれにどう立ち向かったのか!待て次号!」と締めくくられていた気がするが、今思えばかなり適当な内容であった。
(正直、いっぺんやってみたかったというのは確かだな)
さすがに子供が袋を被って川に入ろうとしていたら大人が止めるだろう。準備ができたら再び水に入り、深くなるところまで移動する。シチェルが肩まで浸かるあたりでいったん歩みを止め、しらねの解説を聞いた。
「こん先しばらくは深いだけですみます。けんど段々天井が低うなってきよって、最後は完全に水没した通路になります。そん状態で15分ほど歩くんやけど、途中に分岐が2か所。どちらも右に曲がります。明るうなってきたら出口目前どす。外に出たらあとはなんとかなりますやろ」
「よし、わかった。じゃあ行くか」
しらねを先頭に、シチェルと小松島が続く。前が見えなくなるのでロープを握って歩くことになる。もちろん音声による意思疎通もできなくなるので、ここから先は3人一緒に孤独に歩くことになる。
「よし、潜航」




