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「何だそれは、期待させておいて!」

ルイナントカは失望のあまり慟哭した。この鉄の船は帆もないのに動き、しかもルイナントカが知る限り最も巨大な船だった。どこの国のものかは知らないが、これならロックタートルとも戦えるのではないかという気がしていた。しかもすでに一戦交えたのか各部に損傷が見られ、激戦を潜り抜けてきたことがうかがえた。

船員が自分を船内に閉じ込めようとしていたがこれを振り切り、身を乗り出して兄のルイナンセーが乗るナナナミネー号とロックタートルが視界に入った瞬間、この船が大砲を撃ったのだ。こんな距離で撃ってどうするのかと思っていると、今度は別の大砲が回り始めたのだ。これこそこの船の切り札か。これがロックタートルをやっつけてくれるのか。そう期待した瞬間に、見たこともないほど巨大な砲弾が飛び出し、海に落っこちたのだ。

「Kikendesu,kan-naiedouzo!」

「くっ・・・私だけが助かってしまうとは・・・」

手すりを掴んだルイナントカの手に涙が落ちた。

「ルイナンセー兄・・・ううっ・・・」

鉄の船の船員はルイナントカを好意で保護してくれた。この上兄も助けてほしい、しかもこの船を危険にさらしてでも・・・などと、あまりにも虫の良い頼み事ではないか。この数分の失望がかえってルイナントカを冷静にしてくれた。

「ああ・・・そういえばまだ礼も言えていなかったな」

深呼吸を何度か行って、手すりから手を放して立ち上がる。ずぶぬれなりに身なりを整えて、貴族として相応しい対応を取らねば。

「遅くなったが、君たちに感謝せねばならん。よく私を助けてくれた。この礼は」

そこまで言葉を発したところで、遠くに見えるロックタートルが激しく炎上した。


「なあっ・・・は?!」

ルイナンセーが予想だにしていなかった光景だった。ナナナミネーの砲撃を受けてもびくともせず、逆に水流攻撃で反撃してくるロックタートルが突然爆発し、激しく燃え始めたのだ。

危険すぎる生物のためほとんど研究が進んでおらず、学者でも知らない者がほとんどなのだが、ロックタートルの体内には非常に多くの脂肪が蓄えられている。主にカロリーの貯蔵が目的だが、いざという時にはこれを体外に排出することで急速に潜ることも可能なのだ。しかし、それゆえに非常に燃えやすい生物でもあった。早い話がやたら頑丈な石油タンカーである。もっとも、厚い甲羅を突き破って体内に火種を押し込むことができる武器など存在しないのだが。

「何が起きたのでしょうか?」

「わ、わからん・・・」

炎の中でのたうち回るロックタートルに、先ほどまで感じていた絶対的強者の威厳はなかった。ルイナンセーは世界で初めてロックタートルが燃える様子を観察した人物となったわけだが、本人にもちろんその意識はない。しばらく見ていたが次第にロックタートルの動きが緩慢になっていく。おいしそうなにおいすら漂い始めていた。

「そういえば、後続の船はどうなった?」

「徐々に接近しつつあります。しかし俊足ですな、もうあんなところに」

「む、随分と細いな。ナナナミネーの半分か、もう少しという船幅のようだ」

正体不明の後続艦が、もう十分にシルエットをうかがえる距離まで近づいていた。


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