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「え、それ武器なの?」
水面から突き出した顔がそうしゃべった。
「・・・こちらを攻撃するつもりはないか?」
「あはー、あったら助けたりしないでしょ」
と言うと、青紫の髪を持つその人物は腹部辺りまでを水面から出し、両手のひらを見せて武器を持っていないことをアピールした。それを見てようやく小松島も銃を降ろした。
「すまなかった、さっきまで敵に追われていたものでな」
「こっちも大変だったのよね、なんだか急に水が増えてさ。あはー、友達が何人か流されちった」
と話しながらその人が水から上がってくる。その下半身を見て小松島は驚愕した。腰までは人間だったが、その下は魚のような体をしていたからである。
「マーメイド族?こんな南にもいるんだな」
小松島が「魚人間か?」とつぶやいたが、シチェルは知っていたようで種族名を言い当てて見せた。
「あら?ここより北の方にもいるの?あはー、そりゃ知らなかったよ」
「交流ないのかよ、新函館の辺りで見かけたぞ」
「あはー、地上の地名言われてもわかんないのよね。エタドカかハニスのあたり?」
「こっちこそ水中の地名言われてもわかんねーよ」
あっはっは、と笑い出すふたり。予定調和の漫才だったらしい。
「あー、その、俺たち以外にも仲間が流されたんだけど見てないか?」
「3人しか見てないなあ。こっちの仲間も見かけなかった?」
「いや全く」
「そかー。参ったなあ、ウラシマ祭りの準備が終わってないのに」
「ウラシマ祭り?」
「そ。地上の人と初めて交流した伝説のマーメイド族を讃えるお祭り。ここ数年はロックタートルが近くにいたから大規模にやってらんなかったんだけど、なんか最近討伐してくれた地上人がいるらしくてね。あはー、そのおかげで久しぶりに思いっきりやれるってわけ。誰だか知らないけど助かったわー」
心当たりがありまくる。
「まあ、祭りができるようになったのはめでたいが、俺らは仲間を探さないといけないんだ。とりあえずこの洞窟から出たいんだが、どうすればいい?」
「入ってきたところから出たらいいんでないのかな?」
つまり、地下水流を上って行けということ。
「・・・他には?」
「普通に泳いで出たら?外海までつながってるよ」
今度は流れに乗って下れということ。上るのは論外であるから下るしかない。
「しらねが戻ったら出発するか」
「じゃあそれまで休憩すっか」
シチェルの言葉に、何を暢気なと思った小松島ではあったが、確かに休憩以外にやることはないと気づいて合わせることにした。
「んじゃ私も仲間探しに行ってくる」
「そういや名前も聞いてなかったが」
「エマイル。探してる仲間はビスとオードリーっていうんだけど、もし会ったら私のこと伝えといて」
「よし、引き受けた」
手を振るとエマイルは水に飛び込んでいなくなった。
「なんか、ずっと背負ってたものがなくなると落ち着かないな」
落ち着かないどころかシチェルが軍人なら営巣入りである。不可抗力とはいえ銃を紛失となればただではすむまい。
「他になくしたものはないのか?」
「本当は帽子も無くしてたけどしらねが拾ってくれてた」




