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リトの危惧は的中せず、ジェムザは全く敵と遭遇することなく山頂付近までたどり着いていた。山頂部分は木々がなく草むらになっており、見通しが良かった。

「あそこが敵の本隊か・・・?」

本家丸楠派の拠点は照明のかがり火がたかれており、容易に見分けがついた。そこから少し離れたところにも火の明かりが見えた。おそらくこれが敵の中枢であろうとジェムザはあたりをつけた。

「おお、ここがてっぺんでんな」

「おわ、ちょう明るい」

リトとしらねが山頂までたどり着いた。

「見晴らしよろしいなー・・・なんでここに見張り台置かんかったんでっしゃろ?」

「確かに、ここなら自陣も周辺もよく見える。警戒にはもってこいの場所だ」

本家丸楠派に限らず、内戦で勢力争いをしている集団はどれも素人の集まりである。わかりやすい戦力を重視するのが普通で、補給を軽視しない本家丸楠派はまだ有能な方だったのだが、その本家丸楠派ですら索敵や情報収集の重要性については認識が薄かった。もっとも、そこに指導者が気付いたとしても、戦って手柄を立てることしか考えていない兵たちは誰も見張り台に立ちたがらないであろうが。

「ふひー・・・ふひぃ・・・着いたぁ・・・」

シチェルがやっとのことで山頂に到着。小松島も息を切らせて登り切った。

「一太郎とヒーナは?」

「時間を稼いでくれている。ここからどっちに行けばいい?」

「・・・やむを得まへん、ここは5人で逃げまひょ」

「一太郎たちをおいていくのか?」

「むしろ今から迎えに行くほうが邪魔になりま。目的地はあくまで新大坂でよろしいな?」

はいそうですねとは言い難い状況であったが、ぐずぐずしている時間はなかった。小松島がうなずいたのを見て、リトは東を指さした。

「ここからやと新大坂まで直行するには、一番の激戦地隊を抜けることになりま。さすがにそれはお勧めできまへんよってに、いったん真東に向かいま。中立地帯になっとるオアシスがありまんねん。そこで一太郎はんたちを待ちまひょ。そっから北上すれば新大坂まではすぐですわ」

「それが現状で一番の安全策か?」

「でおま」

「・・・仕方ない、それで頼む。馬車はどうする?」

「皆はんを送り届けた後で取りに戻ってきますわ。新大坂までお持ちしま」

「わかった」

方針が決まったら後は動くのみだ。

「よし、行くか」

「また走るのかぁ?」

体力が回復しきっていないシチェルは嫌そうな顔をしたが、今は火急の事態だ。無理にでも走ってもらわないといけなかった。

「下り坂だぞ、足元注意」

「あ、それならうちが先頭いきましょか?」

としらねが手を挙げた。

「木や草が生えとって危なそうなところがあったら教えますんで」

「そういうこともできるのか、緑人って」

「向こうに教えてもらうだけですんで。ほな行きましょ」

今度はしらねが先頭に立って走り出す。と、わずか数歩で枯れ枝につまずいてすっ転んだ。

「おい」

「なんでやねん」

小松島とリトが同時に突っ込む。

「・・・生きてる植物限定ですねん、うちの能力」


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