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「あいつら、新横浜からの追手ってことはないよな?」
「あ、それあるかも」
小松島一行はそれほど危機感をもって移動してはいなかった。内戦に巻き込まれるのはごめんだったが、自分たちとは関係なく勝手に戦う分については不干渉でよいと割り切っていたからだ。むしろ、内戦に参加する各勢力よりも新横浜市長が派遣した後始末要員のほうが現実に差し迫った脅威である。要するに暗殺者だからだ。
「あんさんら、ほんまに市長の顔潰しただけなんか?」
「だから潰したのは息子の顔だって」
「それにしてもしつこないか」
「タイミングが悪かったのではないですか?なにせ選挙の直前でしたから」
「でももしそうだとしたら本家丸楠派の人たちには悪いことしたな」
「黙ってればわからないって」
などとのんきに話しながら徒歩で移動していたのである。埋立地連合の精鋭たちがあっという間に追いつくのは当然だった。
「警戒!6時方向!」
殿を務めていたヒーナがとっさに全員を守るようにシールドを展開。飛来したスローナイフはすんでのところでシールドにはじかれた。
「予想が当たってしまった!」
埋立地連合を新横浜からの追手と勘違いして、一行は走り出した。本家丸楠派の拠点襲撃の目的が勢力争いか物資略奪かはわからないが、こそこそ逃げ出した集団数名すら見逃さない殲滅戦というのは内戦に参加する勢力としては不自然な行動だったからだ。それよりももっと考えやすい可能性があればそっちを疑うのは当然だった。
「直上!」
真上から飛び込んでくる敵兵に、小松島はとっさに着剣したばかりの三八式を突き出した。
「うっぐ」
左肩を敵の剣がかすめたが、小松島の三十年式銃剣は敵の顎から頭頂迄を貫き、致命傷を与えていた。全くの偶然ではあったが。
「隆二!」
「浅手だ!」
シチェルも三八式を構え、戦闘用意を整えていた。
「ジェムザはん先頭で走りまっせ!」
リトの判断は応戦ではなく敵を振り切ることの優先だった。接近戦が得意なジェムザをあえて先行させたのは、包囲されている可能性を考慮してのことである。
「全員前向け前!」
リトの作戦を察した一太郎が叫ぶ。敵から銃剣を引き抜いた小松島はシチェルを引っ張って伏せさせた。
「威力無視で・・・ファイヤボール!」
一太郎が炎の魔法の基本、ファイヤボールを放つ。ただし今回はあえて燃焼力や火力を落とし、燃焼時間と明るさを重視して調整した。つまりは巨大な照明弾である。これを敵の目くらましに使い、暗順応をなくさせれば時間を稼げる。敵は一瞬その場にとどまり躊躇したようだが、すぐさま道を外れて木々の後ろに隠れてしまった。
それでもファイヤボールを直視した数人が目を抑えて動けなくなっている。十分な効果はあったようだ。
「ざっと8人程度」
「ちょっと多いですわね」
一太郎とヒーナは照明弾の光の中で動いた影を数え、敵の戦力を見積もっていた。
「とにかく走ってくれ」
「おう」
先頭ジェムザ、少し遅れてリトとしらね。さらに離れて小松島とシチェル。だが最後の一太郎とヒーナは敵から目を離さずその場にとどまる。時間稼ぎの態勢であった。
「新大坂で会おう」
狙いに気付いた小松島が一太郎に声を掛けようとするが、先に言われてしまった。小松島はうなずくと、ジェムザを見失わないように走り出した。




