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朝になり、明るくなってから周囲の風景を初めて見た小松島は言葉を失った。
「・・・」
何かをコメントしようとして、やはり言葉が出てこない。ここは新京都の郊外であるとのことだが、今は一面の廃墟であった。小松島は記憶の中から似たような風景を掘り出してやっと言葉を作った。
「トラック島で見たな、こんな光景」
当時、小松島は駆逐艦舞風に着任するためトラック島に移動中であった。が、現地に到着したのは2月20日。乗艦するべき舞風はその3日前に沈没しており生存者なしと、九死に一生を得ている。小松島はそのまま日本に戻ることになり、トラック島滞在時間は長くても3時間に満たなかったが、新京都の廃墟を見てトラック島を連想する程度には強く印象に残っていた。
「オーニンと呼ばれていた頃は大陸最大の都市だったと聞くが、面影もないな」
「ジェムザはここ来た事あるのか?」
「いや、ない。新京都に改名されたのさえ私が生まれる前のことだしな」
とりあえず、交代で夜通し見張りを引き受けてくれたリトとヒーナは仮眠に入る。残りのメンバーは腹ごしらえののち、出発の準備を始めた。
「え、あいつウシアフィルカスだったのか?」
「ああ」
一太郎はシチェルがウシアフィルカスだったと知って驚いていた。
「私も昨日初めて知ったが、驚くだろ?」
「だな、こんな待遇のいいウシアフィルカス初めて見た」
ジェムザも昨日の魔法陣入りバッグ盗難事件でシチェルがウシアフィルカスだと初めて知ったので、依頼人の事情ということで呑み込んだものの内心はかなり衝撃的だったらしい。
「この流れでついでに聞いておきたいんだが、しらねの待遇ってこんなものでいいのか?」
「この御者もウシアフィルカスかよ」
と一太郎が勘違いしたので、ウシアフィルカスではなく買ったばかりの奴隷であると訂正しておいた。
「まあ、非常識ではない程度に厚遇されてるかな」
ジェムザの評価はこのとおりであった。
「まあ、シチェルにせよしらねにせよ、使い捨ての道具として扱うには惜しい人材なのは確かだな。いっしょに旅していれば、自然とこのぐらいの扱いが当然に思えてくる」
「へぇ・・・そういやジェムザんちにも奴隷いたよな?」
「あれは忘れろ、しらねと一緒にするな」
どうやら何かよろしくないことがあったらしい?
「ただいま」
「戻ったでー」
馬車を隠していた廃ビル(といっても3階建て程度だが)の上から、視力強化の魔法で周辺の様子を確認しに行ったシチェルとしらねが戻って来た。
「なーんにも動きがないな」
「内戦地帯ってほんまなん?」
「このへんは郊外だからな、まだ危険は少ないんだ」
「つまり、新京都市街の中央辺りが一番危険なのか?」
「ああ、さすがにそこには近づかない。ちょっと南に迂回して川沿いに進もうと思う。川をめぐって争ってる勢力がいくつかあるから危険は危険なんだが、逃げるのも容易だからな。どうせ安全なルートなんてないんだ」
一太郎によるおおざっぱな解説に、小松島は納得した。
「わかった、ではそれでよろしく頼む」
「ああ、任せておけ。新大坂まで確実に届けてやるさ。御者、出発するぞ」
「はいな」




